不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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羽田新ルート運用開始から3年を振り返る

羽田新ルートの運用が開始されたのは20年3月29日。

※北風時運用は3月29日に始まったが、南風時運用が始まったのは4月3日。

あれから3年が経過しようとしている。運用開始前に懸念されていた騒音や落下物などの問題はどうだったのか。また、そのような問題に対して政治的な動きや市民らの反対運動はどうだったのか。

羽田新ルート概念図


もくじ

羽田新ルートが抱える3つの問題

羽田新ルートを通過する飛行機数は、南風の多い春から秋にかけて都心低空飛行(A・C滑走路到着ルート)と川崎ルート(B滑走路出発ルート)が増加し、北風の多い冬期は荒川沿い北上ルート(C滑走路出発ルート)が増加する(次図)。

※北風時運用時間(7時~11時半・15時~19時)が南風時運用時間(15時~19時)より長いぶん、荒川沿い北上ルートの便数が多くなる。

羽田新ルートを通過する飛行機数
羽田新ルート|国交省の「定期運用報告」を可視化 ※随時更新

 

羽田新ルートの運用開始前に懸念されていた3つの問題につき、この3年間を振り返る。

騒音:航路下住民の騒音環境悪化

都心低空飛行ルート(南風時)

国交省が定期的に公表している騒音測定結果によれば、都心低空飛行ルート(南風時・A/C滑走路到着ルート)の「騒音レベルの最大値平均」は次図に示すように、港区・高輪台小学校(C滑走路到着ルート直下)と目黒区・田道小学校(A滑走路到着ルート側方約400m)では大型機通過時の騒音レベルは70dBを超えている

都心低空飛行ルート(南風時)
羽田新ルート|国交省の騒音測定データを可視化※随時更新

 

上図の騒音レベルは、各大型機が通過したときに発生した騒音の最大値の平均値であることに留意する必要がある(東京都の公表データと違って、各機最大値の最大値は公表されていない)。

東京都が平日毎日公表しているデータでは、渋谷区・猿楽小学校と千駄谷小学校・騒音環境は悪い。特に、千駄谷小学校(C滑走路到着ルート下)の騒音発生回数は猿楽小学校(A滑走路到着ルート下)の概ね2倍で、より悪い。しかも3か月連続で75dB超(次図)。

東京都の騒音測定データ
羽田新ルート|東京都の騒音測定データを可視化※随時更新

荒川沿い北上ルート(北風時)

国交省が定期的に公表している騒音測定結果によれば、荒川沿い北上ルート(北風時)の「騒音レベルの最大値平均」は次図に示すように、江戸川区・第五葛西小学校(C滑走路出発ルート側方約200m)では、大型機通過時の騒音レベルは概ね65~70dBの範囲で推移している。

荒川沿い北上ルート(北風時)
(羽田新ルート|国交省の騒音測定データを可視化※随時更新)

特に、江戸川区では、羽田新ルート運用開始以前から南風悪天候時に運用されていた22ILSルート(着陸便)に、荒川沿い北上ルート(離陸便)の影響が加わったことに留意する必要がある(次図)。

江戸川区の騒音測定データ
羽田新ルート|江戸川区の騒音測定データを可視化

川崎ルート(南風時)

国交省が定期的に公表している騒音測定結果によれば、川崎ルート(南風時)の「騒音レベルの最大値平均」は次図に示すように、羽田小学校(B滑走路出発ルート側方約1km、高度約150m)では、大型機通過時の騒音レベルは概ね70~75dBの範囲で推移している。

川崎ルート(南風時)
羽田新ルート|国交省の騒音測定データを可視化※随時更新

落下物:氷塊落下疑惑

国交省が定期的に公表している「部品欠落件数及び欠落部品内容」によれば、22年9月までに確認された欠落部品のほとんどは100g未満ではあるが、1kg以上の欠落部品も15個含まれていた(図)。

欠落部品のほとんどは100g未満
羽田新ルート|国交省の「定期運用報告」を可視化

 

当初落下が懸念されていた氷塊については、22年3月14日15時30分過ぎ、渋谷区内のテニスコートで発見されたが(写真)。国交省はその2日後、「航空機由来の氷塊とは断定できない」と結論付け、早々と調査を打ち切ってしまっている渋谷区内の氷塊落下事案、国交省調査打ち切り)。

氷塊落下
羽田新ルート|氷塊、渋谷区内のテニスコートに落下!?


筆者は国交省が一体どのような調査をしたのか知りたくて、国交省航空局が渋谷区内の氷塊落下事案発生前に空港振興・環境整備支援機構に委託していた「東京国際空港航空機氷塊付着状況調査」(履行期限22年3月30日)に係る報告書を開示請求するも、開示された文書はのり弁状態で、ほとんど何も分からず(のり弁満載の報告書を読み解く!「東京国際空港 航空機氷塊付着状況調査」)。

資産価値への影響:運用開始前後にネガティブな影響

「航空機の⾶⾏と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を⾒出すことは難しい」というのが国交省のスタンス。寝た子を起こしたくない国交省としては、不動産取引に羽田新ルートの件を重要説明事項に含めるかどうかについては業者(不動産協会)任せにしている。

着陸ルートが設定されている11区のうち、ルート直下から概ね200m以内に位置する中古タワーマンションがある5区・11件の相場変動につき、マンション売買・賃貸情報サイト「マンションマーケット」のデータを元に調査。最も影響がありそうな品川・港区では、第1フェーズ説明会が始まった15年7月ころから下落または頭打ち傾向が見られたが、20年あたりからは上昇傾向も見られる(次図)。

ようするに、羽田新ルートは運用開始前後には資産価値へのネガティブな影響は見られたが、その後はネガティブな影響は特に見られないということ(コロナ減便の影響があったのか、要経過観察)。

羽田新ルート|中古タワマン相場への影響
羽田新ルート|中古タワマン相場への影響 ※適宜更新

政治的な動き

”固定化回避”という時間稼ぎ

新型コロナの影響で大幅な減便が続いているにも拘わらず、フル運用の準備期間だとして羽田新ルートの運用を強行していた赤羽前国交大臣。20年5月28日に3区(品川・目黒・港)の公明党の都議、区議からの緊急要望書を受けて尻に火が付いて生み出されたのが固定化回避というアイデア。

固定化回避とは、羽田新ルートによって現在騒音などの悪影響を受けている住民にとって、将来緩和されるかような幻想を抱かせる表現。選挙に挑む候補者とって都合のいい表現である。「関係者と協力・相談しつつ、しっかりと検討を進めていきたい」と言っておけば、当面の時間稼ぎにはなる。

そのようにして、羽田新ルートを推進している自公の候補者らは21年の都議選や衆院選、22年の参院選を乗り切ってきたし、来月の統一地方選挙もやり過ごそうとしている。

そのような選挙事情もあるためなのかどうか、「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」は第5回が昨年の8月3日に開催されたあと開かれていない。第6回の開催は今年の夏から秋頃となっている。

品川区長の公約「区民アンケート」骨抜きに

羽田新ルートの騒音被害の影響が大きい品川区では、濱野前区長の継承を訴えた森澤恭子氏が昨年12月の再選挙で圧勝した。

選挙公約で掲げていた羽田新ルートに関して実施するとしていた「区民アンケート」。当選後は、区政全般の質問とあわせて合計10問程度で、羽田新ルートについては5問程度と薄められ、賛否を聞くかどうか曖昧にするなど、骨抜きアンケートにされようとしている

都・区議会定例会、渋谷・港・品川区で議論が活発

23区のうち羽田新ルートが通過するのは13の区。この13の区議会と都議会につき、19年第1回定例会以降の本会議代表・一般質問で羽田新ルートを取り上げた人数の内訳を次表に示す。

渋谷・港・品川区議会の人数の多さが際立つ、一方、羽田新ルートを推進している小池都知事のチルドレンである都民ファースト議員に支配されている都議会は羽田新ルート問題を取り上げなさすぎ。

19年第1回定例会以降の本会議代表・一般質問で羽田新ルートを取り上げた人数の内訳
羽田新ルート|23年第1回定例会(都・区議会まとめ)

国交省の情報戦略

ニュースレター「落下物は0件です」

国交省は「丁寧な情報提供」の一環として、ニュースレターを2015年の夏に創刊して以来、不定期に発行し、公共施設のラックに置いたり住民説明会場で配布したりするなど様々な場面で活用してきた。

創刊以来年2~3回発行されていたのに、衆院選と都議選があった21年だけ1回も発行されなかったのは(次表)、チラシのポスティング(後述)に予算を割いたためなのか。

ニュースレター発行実績

21年都議選・衆院選にあわせてチラシをポスティング!?

国交省はニュースレターだけだなく、羽田新ルート関するチラシも配布している。3回のうち2回は航路下の各区市役所等だけでなく、各戸にも配布。

これらのチラシ配布時期と選挙期間との関係を可視化したのが次図。21年の都議選と衆院選のそれぞれのタイミングに合わせてチラシが配布したように見えなくもない。

国交省が言いたいことはたくさん書かれているが、市民が知りたいと思うことや、市民に知らせるべきことが必ずしも書かれていないチラシ。羽田新ルートを推進している自公の候補者は活用したのだろうか……。

チラシ配布時期と選挙期間の関係
羽田新ルート2年、国交省の情報戦、羽田新ルート問題を取り上げない都議会

博報堂が担う「丁寧な情報提供」

「丁寧な情報提供」の一部は、博報堂が「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」として、2014年度から6年連続、企画競争を経て随意契約で受注。6年間の契約金額は総額16.8億円になる(次表)。

羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務
羽田新ルート|気になる契約情報(23年度)※随時更新

反対運動

羽田新ルート取消訴訟:終局には時間がかかりそう

羽田新ルート直下の住民ら29人が20年6月12日、国に新ルートの運用停止を求める行政訴訟を東京地裁に起こした。2回の口頭弁論を経て、23年3月28日に7回目の「進行協議」が開かれようとしている。終局するには時間がかかりそう。

羽田新ルート住民投票条例案、品川区議会否決

都心の上空を通る羽田空港の新飛行ルートの賛否を問うための住民投票条例案が20年12月25日、自民党、公明党議員らの反対で否決された。

ネット署名活動:伸び悩んでいる

change.orgの仕組みを使って20年3月27日から、「羽田新ルート反対署名」が実施されている。

都心低空飛行(南風時到着ルート)が初めて開始された日(20年4月3日)に賛同者数が急増。品川区で羽田新ルートの是非を問う住民投票条例の署名が始まった20年10月に再び急増したが、その後は伸び悩んでいる(次図)。

「羽田新ルート反対」ネット署名活動
「羽田新ルート反対」ネット署名活動 ※適宜更新

雑感(コロナ減便、ゆでガエルに!?)

羽田新ルートの運用が開始されて3年が経ち、当初懸念されていた騒音・落下物・資産価値への影響はほぼ明らかになったように見えるが、じつはそうではない。羽田新ルートの運用が始まり、さあこれからというタイミングで新型コロナの感染拡大の影響で国内線・国際線とも大幅な減便を強いられることになったからだ。

東京オリンピックに向けて羽田新ルート反対運動が燃え上がろうとしていたところ、コロナ減便によって鎮火。航路下住民はゆでガエル状態になったことで、国交省はホットしているのではないか。

この3年間で、羽田新ルート問題は完全に顕在化していない可能性がある。今後、航空需要が本格的に回復するにつれ、騒音環境はさらに悪化していくであろう。

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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