国交省の担当者は「航空機から落下した可能性は極めて低い」とし、氷塊はすでに解けてなくなっており、調査は打ち切るという(東京新聞)。
氷塊は航空機からの落下物である蓋然性が高いというのが、筆者の見立て。
※投稿22年3月19日(追記22年4月4日)
- 国交省、氷塊調査打ち切り(東京新聞)
- 航空機由来の氷塊である可能性(筆者の見立て)
- 国交省の言い分への疑問
- 氷塊落下に係る国会・都議会・区議会の動き
- 国交省の落下物対策、問われる氷塊分析の本気度
- 【追記】目撃者の話(肉声)
- まとめ
国交省、氷塊調査打ち切り(東京新聞)
国交省の担当者は「航空機から落下した可能性は極めて低い」とし、氷塊はすでに解けてなくなっており、調査は打ち切るという。
【独自】音がしたらコートに氷塊…「飛行機しかない」目撃者証言
羽田空港(東京都大田区)の新飛行ルート直下に近い渋谷区のテニスコートで13日、氷塊が見つかった問題で、当時コートにいた男性が本紙の取材に応じ「音がしたので、見たら氷が落ちていた。飛行機からとしか考えられない」と証言した。一方、国土交通省は18日、「調査の結果、航空機由来の氷塊とは断定できない」とし、新ルートの運用を続ける考えを示した。
(中略)
国交省の担当者は「氷塊が落ちた現場は、経路から350メートル離れている。当時上空を通過した数機について航空会社に確認したが、機体に氷塊が付着していた痕跡がなかった。航空機から落下した可能性は極めて低い」と話した。氷塊はすでに解けてなくなっており、調査は打ち切るという。
「航空機から落下した可能性は極めて低い」ということは、少なくとも国交省も航空機から落下した氷塊である可能性がゼロでないことを認めているということになる。であるならば、原因が確定するまで新ルートの運用を一時的に止めるのが筋ではないのか。
この記事に署名を連ねた2人は、その後、次のようにツイートしている。
確かに断定はできないかもしれませんが、飛行機の可能性が非常に高い、正直なところ、飛行機以外どんな可能性があるのだろうかと感じました。
国土交通省には、フェイルセーフという考え方がない。
航空機由来の氷塊である可能性(筆者の見立て)
昨日のブログにも記したように、氷塊は航空機からの落下物である蓋然性が高い。
主な理由は次の4点。
- テニスコートの周辺には、氷塊が落ちてくるような高層建物はない。
少し離れた位置に東京オペラシティ(54階建て)があるが、窓や屋上から物を投げられるような構造にはなっていないし、投げられたとしてもテニスコートまで届かない。 - ヒョウが降ってくるような気象状況ではなかった
過去の気象データによれば3月13日15時、東京(千代田区北の丸公園)の天気は薄曇・雲量10-。ヒョウが降ってきた可能性はゼロ。ヒョウに係るSNS情報も見当たらない。ヒョウが降ってきたのであれば、氷塊を撮影した男性ら(現地でテニスをしていた)が気づくはずだ。 - アトランタ発デルタ航空 DL295便が飛行していた
フライトレーダー24の過去データをひも解くと、同日15時30分頃にテニスコート付近を通過した航空機としては、アトランタ発デルタ航空 DL295便(エアバスA350型機)が15時30分頃、A滑走路到着ルートの高度3,150フィート(約960m)上空を通過している。15時30分過ぎにテニスコート付近を飛行したヘリコプターはない。 -
国交省が過去に認定した航空機由来の氷塊と形状が類似
今回テニスコートで確認された氷塊と、2015年1月15日、千葉県芝山町で屋根瓦を破損させた氷塊の写真を比べてみよう(写真)。
テニスコートで確認された氷塊は、千葉県で確認された氷塊と同様、人工的な氷ではないことが理解できる。
国交省の言い分への疑問
東京新聞の上記記事によれば、国交省が航空機から落下した可能性は極めて低いとした理由は次の2点。
- 氷塊が落ちた現場は、経路から350メートル離れている
- 当時上空を通過した数機について航空会社に確認したが、機体に氷塊が付着していた痕跡がなかった
気象庁の過去データによれば、当日の羽田空港の15時の気温は17.5℃。着陸後に氷塊付着の痕跡を確認することなどできるのか。
では、経路から350m離れてテニスコートに氷塊が落下することの可能性についてはどうか。
フライトレーダー24の過去データによれば、DL295便は15時30分、高度3,150ft(約960m)、速度177ノット(時速328km)、降下速度毎分1,152ft(約350m)でテニスコート付近を通過している。
高度約1000mから落ちてきた氷塊が側方距離350mに届くのか。
長距離国際線で飛んできた飛行機は、車輪の間に氷が付着していることがあるので、海の上で氷を落としてきてから地上に降りてくるように、というルールを成田空港側が定めている(もう車輪降ろすの!? 成田空港特有すぎる着陸法…なぜ発生? パイロットが語る理由とは)。
DL295便(エアバスA350型機)はどのように車輪を出すのか、YouTube動画で確認してみよう。
上記動画は、車輪を収納する離陸時のシーンだが、車輪を出す動作はこのシーンの逆だと考えれば、車輪を出したときに付着していた氷塊が必ずしも進行方向に落ちていかず、側方に吹き飛ばされる可能性だってあるのではないだろうか。
1万歩譲って、航空機由来の氷塊でないとすれば、この氷塊は一体どこから飛んできたというのか……。
氷塊落下に係る国会・都議会・区議会の動き
※追記22年3月30日
共産党の山添拓参院議員、とくとめ道信都議、渋谷区議団は3月29日、国土交通省にヒアリングを実施。
国交省の担当者は「氷塊が見つかった地点は新ルートから350メートル離れていた。飛行機から落ちた可能性は極めて低いと考えており、調査も終了した」と説明。
日本共産党東京都議会議員団は3月18日、小池百合子都知事宛に「羽田新飛行ルートを飛行する航空機からの氷塊落下の疑いに関する緊急要望」を提出。
- ただちに詳細な事実関係を把握すること。詳細が明らかになるまで羽田新飛行ルートの使用を中止するよう、国に求めること。
- 航空機からの氷塊落下が認められた場合は、航空事業者と国土交通省に対し厳重に抗議し、ただちに羽田新飛行ルートの廃止について協議を開始すること。
渋谷区議会の2会派(立憲:治田議員、れいわ渋谷:堀切議員)は「交通・公有地問題特別委員会」で3月17日、旅客機からの氷塊と思われる物に対して委員長に申し入れを行った。
委員長からは国交省が調査中なので結果が出たら、形式を含め報告を受けるとなりました。
国交省の落下物対策、問われる氷塊分析の本気度
落下物等の未然防止対策及び事後の迅速な事案究明・対応等を推進するために設置された「落下物防止等に係る総合対策推進会議」はこれまでに2回開催されている。
第2回の会議(18年3月26日開催)で配布された資料のうち、資料1「落下物対策の強化策(報告書)(案)」に、氷塊の付着状況の調査(17年1月11日~24日、10日間、成田空港で実施)の結果が記載されている。
スポットに入った全ての航空機1,728便のうち着氷の認められたもの37便(2.14%)。着陸装置、着陸装置格納部に氷塊が付着していたのは3件(2便)とされている(次図)。
また、資料2「落下物対策総合パッケージ(案)」には、「事案発生時の対応強化」として、氷塊の分析に係る取り組みが掲げられている(次図)。
さらに「羽田空港のこれから」に掲載されている最新の資料「落下物対策はどのようになっていますか」には、「氷塊の成分分析の精度向上」が掲げられている(次図)。
以上のように、国交省はこれまで、氷塊が航空機からの落下物であるか否かの情報収集・分析能力の向上への取組はシッカリ掲げている。でも、今回のような氷塊落下事案が発生すると、「航空機から落下した可能性は極めて低い」と早々と調査を打ち切った。これでは何ために氷塊分析能力を高めているのか分からない。
国交省が現場を見に来たのが氷塊落下の翌日(16日)だから、「調査の結果、航空機由来の氷塊とは断定できない」(18日)と結論付けるまで要したのはたったの2日。国交省は「落下物防止等に係る総合対策推進会議」に諮ったうえで結論付けたのか。
斉藤国交大臣の定例会見(3月18日午前中)では、氷塊の件については触れられていないし、記者からの質問もなかった。
どのような検討プロセスを経て、誰が新ルートの運用を続ける判断を下したのか。国交省の説明責任とマスメディア(東京新聞を除く)の力量が問われている。
【追記】目撃者の話(肉声)
※追記22年4月4日
TOKYO FMの新番組「TOKYO NEWS RADIO~LIFE~」(毎週土曜日の朝6:00-7:00)で4月2日、「羽田の新飛行ルート開始から2年。 あの時課題になっていた問題の今」が取り上げられた。
報道情報センターの鈴木晶久記者の解説のなかで、テニスを楽しんでいた時にこの氷の塊を目撃した男性の話(肉声)が流されていた。
ちょうど3時過ぎぐらいから羽田のA滑走路に向かう飛行機が上空を通って行くのは認識してました。背中の方でボトっていうふうな音がしまして、みんなで見に行ったらば、氷のかけらがあった。直径5cmぐらいのものが3つぐらいと、あと3 cmぐらいのものですかね。まあ2つぐらい、テニスコートとコートの間ぐらいに、パラパラっと落っこってるような感じだった。
自分は実をいうと大学病院の脳神経外科の医者なもんで、この塊が最初落ちてくる時に、割れたのが5cmのかけらですから(割れる前には)直径7 cmやそこらぐらいあったとすると1kg近いようなものが落っこってきたんだと。
それがもしも頭の上に当たったらば、下手すれば生き死に関係しちゃうような、頭の大怪我にもなり得るような問題だったなーっていうふうに思って、びっくりしてました。そして怖かったです。
まとめ
- テニスコートの周辺には氷塊が落ちてくるような高層建物はなく、またヒョウが降ってくるような気象状況ではなかったことから、氷塊は航空機からの落下物である蓋然性が高い。
- ところが、国交省は「調査の結果、航空機由来の氷塊とは断定できない」と早々と結論付けた。
- どのような検討プロセスを経て、誰が新ルートの運用を続ける判断を下したのか。国交省の説明責任とマスメディア(東京新聞を除く)の力量が問われている。
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