不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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羽田新ルート|2020年中古タワマン相場への影響

羽田新ルートが2020年のマンション市況を占う上でどのような影響を与えるのか。あるいは、すでに与えているのか。


もくじ

国交省のスタンス(因果関係を見出すことはできない)

国交省は従来から「航空機の⾶⾏と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を⾒出すことは難しい」(FAQ冊子v5.1.2、P59)というスタンスを取っている。

国交省は12月5日に公開したFAQ冊子v6.1でも、3空港周辺の地価調査結果を踏まえたうえで、飛行経路が地価の下落につながることを示す因果関係を見出せなかったという(次図、右)。

3空港(成田、伊丹、福岡)を対象に調査したところ、飛行経路が地価の下落につながることを示す因果関係を見出すことはできませんでした。(P64)

3空港周辺の地価調査結果


大阪国際空港(伊丹)の調査結果を示すグラフを見ると、たしかに、飛行経路からの距離(横軸)と地価(縦軸)との相関は低そうだ(次図)。

3空港周辺の地価調査結果(伊丹空港)
「FAQ冊子v6.1」P64より

 

重回帰分析の結果、R2(決定係数)は0.547(1に近いほど相関が高い)。「飛行経路までの最短距離」に係るP-値(各変数の有意性を示す値)が大きく、「統計的な有意性は見られない」と結論付けられている(次図)。

重回帰分析
「FAQ冊子v6.1」P65より

 

まあ、国交省としては、飛行経路と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係があるとは、口が裂けても言えないのであろう。
国交省が分析に用いたデータは、国土交通省地価公示価格と都道府県地価調査価格。マンション価格ではない。

地価のデータは、国土交通省地価公示価格(2018年1月1日時点)および都道府県地価調査価格(2017年7月1日時点および2018年7月1日時点の価格の平均)を使用。ただし、農地などは除外。

「FAQ冊子v6.1」P64


日本では航空機騒音が不動産価値に与える影響について、調査研究した文献はほとんど見当たらない。そのような調査をしても、お上から睨まれるだけで、メリットが得られる組織や研究者がいないからなのではないか。

一方、海外ではその手の文献は多い。

コンサルティング会社が1994年に連邦航空局に提出した「空港騒音がなければ資産価値が18.6%高い(ロサンジェルス国際空港)」やワシントン州の地域通商経済発展省の1997年の助成研究「飛行ルート直下から4分の1マイル離れるごとに3.4%資産価値が上がる(シアトル・タコマ国際空港)」など、飛行ルートと不動産資産価値との関係を調査分析した報告書が数多くみられる。

※詳しくは、「海外情報!航空機騒音は不動産価値にどのくらい影響するのか?」参照。

 

国内の研究者に代わって、筆者が羽田新ルートと不動産資産価値との関係を調べてみた。

影響は中古タワマン相場に一部織り込み済み

羽田新ルートは不動産価値にどの程度の影響を及ぼしているのか?

着陸ルートが設定されている11区(港、新宿、品川、目黒、大田、渋谷、中野、豊島、北、板橋、練馬)について、同ルート近くに位置する中古タワーマンション相場への影響を調べることにした。特に中古タワーマンションを調査対象にしたのは、取引が盛んで相場が把握しやすいからだ

結論をいえば、羽田新ルートの影響は、騒音レベルが高い品川区や港区の中古タワマン相場に一部織り込まれているということだ(次図)。

お金をたんまり持っている人は、羽田新ルートの騒音可能性があるマンションにわざわざ住み続けることを選択しない。金持ちは逃げ足が速い。逃げ遅れるのは、いつも庶民。品川区・港区以外の区の中古タワマン相場の一部に影響が見られないのは、金持ちが少ないからなのか……。

羽田新ルート近くのタワーマンション相場の推移(品川)
※区平均は中古タワマンに限らない、すべての中古マンションの平均(以下、同じ)。

品川区平均の単価が上昇し続けているに対して、タワーマンション4件の単価は16年以降下落または頭打ちの傾向が見られる(ただし、超大規模ツインタワー物件Dだけは17年下期以降、上昇傾向が見られる)。

※上図・解説文とも「羽田新ルート|中古タワマン相場への影響(品川区)」より

 

羽田新ルート近くのタワーマンション相場の推移(港区)

ルート直下にある物件Bの価格だけが15年下期以降、下落し続けている。

※上図・解説文とも「羽田新ルート|中古タワマン相場への影響(港区)」より

2020年中古タワマン相場への影響(4つのフェーズ)

今後、羽田新ルートの影響はどうなるのか? 筆者は4つのフェーズがあると考えている。

  1. 実機試験飛行(1月29日~3月11日)
  2. 新ルート運営開始からオリパラ終了まで(3月29日~9月6日)
  3. オリパラ終了後
  4. 落下物・墜落事故の発生

以下、順に説明しよう。

1.実機試験飛行(1月29日~3月11日)

乗客を乗せた旅客機で試験飛行が実施されるのは、1月30日~3月11日の1か月余りの期間だ。特に都心上空を通過するルートでの試験飛行は2月1日~3月11日の15~19時。

実機飛行確認の実施期間
実機飛行確認の実施について|国交省

でも、都心上空を通過するルートの運用は南風時に限られる。例年、南風が吹き始めるのは4月から(次表)。したがって、住民が試験飛行で大型旅客機を現認する機会は少ないという、年度末に向けて新築マンションの完売を目指す不動産会社にはありがたい状況が続く

月別の「最多風向」
都心上空を飛行する日数が多い時期はいつか」より

 

ただ、実機試験飛行のタイミングに合わせて、羽田新ルート運用開始に係る執行停止などの裁判提訴や羽田新ルートの賛否を問う「住民投票条例」の制定に向けた動きが活発化する。

大型旅客機による試験飛行だけでなく、行政訴訟や住民条例などがマスメディアに取り上げられるようになると、ルート周辺の中古タワマン相場へ影響は無視できなくなるのではないか。

逆に、マスメディアが取り上げなければ、羽田新ルート・リスクは顕在化せず、中古タワマン相場は爆弾を抱えたま、次のフェーズに進むことになる。

2.羽田新ルート運用開始からオリパラ終了まで(3月29日~9月6日)

羽田新ルートの運用が開始されるのは3月29日から。

南風が卓越するのは4月から8月の時期だから、4月に入ると、都心上空を南下していく大型旅客機を現認する住民が増えてくる。

想像していたよりも大きな機影と飛行騒音を実感することで、中古タワマンを手放す人が増えるのではないのか。

でも、そのころ世の中は五輪一色となっている。景気のいい東京を勘違いした外国人が中古タワマン価格を下支えすると、中古タワマン相場は下落することなく、次のフェーズに進むことになる

 

この時期、中古タワマン相場に影響を及ぼす要因としては、都知事選が考えられる。

都知事選挙は五輪との混乱を避けるため、投開票日を7月5日に前倒しすることになっている(都選管11月13日発表)。

小池都知事は羽田新ルート推進派。自民党都連が擁立する都知事候補は羽田新ルートに反対する可能性はないだろうが、野党統一候補が羽田新ルート反対を掲げることがあれば、羽田新ルートに世間の注目が集まり、中古タワマン相場に影響を及ぼす。ただ、立憲民主党も国民民主党もこれまで羽田新ルートへの賛否は曖昧にしたままなので、この可能性は低い。それ以前に野党統一候補を出せるのか――。

3.オリパラ終了後

9月に入ると南風が吹かなくなり、大型旅客機が住民の頭上を飛ぶ頻度が少なくなる。そのころには住民は騒音に慣らされてしまっている。

「1.実機試験飛行(1月29日~3月11日)」「2.羽田新ルート運用開始からオリパラ終了まで(3月29日~9月6日)」までに、中古タワマン相場は、羽田新ルートの影響を織り込んでしまっているので、新たに下落することはないのではないか

 

もし、下落する可能性があるとすれば、次のケースだ。

4.落下物・墜落事故が発生した場合

大変不幸なことではあるが、国内外の都市部で航空機関連の事故が発生した場合。あるいは羽田新ルートで落下物・墜落事故が発生した場合。

羽田新ルートの落下物・墜落事故のリスクが意識されて、中古タワマン相場への影響が出る可能性は高い

たとえ、大規模な事故でなくても――、都心上空を南下する旅客機が着陸に備えて脚を出す。そのとき脚に付着していた氷塊が新宿や渋谷の路上に落ちただけでも、その様子がSNSによって一気に拡散する。そうなると中古タワマン相場への影響は免れないのではないか。

各区詳細 ※適宜更新

※過去記事更新(20年8月25日現在)

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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