国交省航空局が渋谷区内の氷塊落下事案発生前に空港振興・環境整備支援機構に委託していた「東京国際空港航空機氷塊付着状況調査」(履行期限22年3月30日)に係る報告書を開示請求によって入手した。のり弁満載の同調査報告書を読み解いてみた。
国交省に開示請求
22年3月14日15時30分過ぎ、渋谷区内のテニスコートに空から氷塊が落下。国交省の担当者は3月18日、「航空機から落下した可能性は極めて低い」として、早々に調査を打ち切った。
※このあたりの詳細については、下記記事参照。
国交省は一体どのような調査をしたのかが知りたくて、国交省航空局が渋谷区内の氷塊落下事案発生前に空港振興・環境整備支援機構に委託していた「東京国際空港航空機氷塊付着状況調査」(履行期限22年3月30日)に係る報告書を開示請求することにした。
ちなみに、同調査は一般財団法人空港振興・環境整備支援機構が22年1月26日、1,550万円で落札(落札率94.4%)している(次表)。
「羽田新ルート|気になる契約情報(21年度)※随時更新」より
報告書の履行期限3月30日を待って、4月1日に国交省に開示請求したところ、5月12日になってようやく「行政文書開示決定通知書」(PDF:521KB)が届いた。
同通知書には、航空会社名、出発地、機種、機体、便名等、個別の法人の特定につながるおそれがある一連の情報などが不開示となる旨が記されていた(次図)。
同通知書が届いた翌日(5月13日)、「行政文書の開示の実施方法等申出書」を投函したところ、5日後(5月18日)に報告書(DVDではなく、紙!)が届いた。
のり弁満載の報告書を読み解く
報告書の構成
報告書は全74ページ。本文と「モニターレポートシート」「(参考資料)調査結果記録」で構成されている。
- Ⅰ.調査の目的
- Ⅱ.調査の概要
- 1.調査期間・時間帯
- 2.調査対象
- 3.調査方法
- Ⅲ.調査結果
- 1.調査実施状況
- 2.氷塊付着状況
- Ⅳ.想定される原因及び防止策
- Ⅴ.まとめ
- モニターレポートシート
- (参考資料)調査結果記録
調査の目的・期間・対象・方法
報告書本文(P1)から、調査の目的・期間・対象・方法につき、以下に抜粋する。
- 調査の目的
東京国際空港周辺における航空機からの氷塊落下事故の防止に資するための資料を得ることを目的とし、東京国際空港に到着する航空機の機体各部(ドレインバルブ、ドレインマスト、脚まわり、フラップ、サービスパネル等)への氷塊付着状況の調査を実施し、調査結果から発生原因を推定して防止策を提案する。 - 調査期間・時間帯
2022年2月17日(木)~3月18日(金)8:30~17:30(土・日・祝を除く20日間) - 調査対象
上記期間・時間帯に東京国際空港国内線及び国際線スポットに到着する定期運航便及びチャーター機(プライベート機除く)のうち、主に寒冷地の空港から出発する航空機を調査対象とした。
なお、調査時間帯であっても緊急着陸機など、特別な理由によって調査が困難であると判断したもの、調査の許可を得られなかったものについては調査対象外とした。 - 調査方法
- 到着航空機の整備責任者の許可を得た後、スポットに到着した航空機の着氷の有無を目視点検する。
- 着氷が認められた場合には、調査終了後に付着の状況を記録し、氷塊の発生原因を推定するための資料として、デジタルカメラ等で撮影する。
- 氷塊が採取可能な場合は当該機の整備責任者の許可を得たうえで、採取する。あわせて、当該機の出発地や航路上の状況等について調査票への記入を行う。
分析データ、のり弁状態
報告書本文
報告書本文(表紙を含め12枚)のうち、航空会社/出発地/機種別による分析データが判らないように黒塗りされている(次図)。
(↓ 報告書本文:表紙を含め12枚)PDF:1.0MB
モニターレポートシート
航空会社/出発地/機種別による分析データが44枚(着氷22ケース×2枚)の「モニターレポートシート」としてまとめられているが、全面黒塗り(次図)。
(↓ モニターレポートシート:44枚)PDF:1.9MB
全面黒塗りの「モニターレポートシート」には、着氷状況が文章で説明されているだけでなく、状況写真も掲載されているのではないか(次図、2枚目)。
(参考資料)調査結果記録
20日間の調査結果が調査実施日ごとに20枚の「(参考資料)調査結果記録」としてまとめられているが、全面黒塗り(次図)。
(↓(参考資料)調査結果記録:20枚)PDF:1.0MB
それぞれの役割を持つ3つの班により調査結果記録がまとめられているようであるが(次図)、のり弁状態なので、記載内容は全く分からない。
実施調査班の登場回数とNo.(項目数?)、調査実施機数、着氷機数との関係性などを探ってみたが特に意味のある傾向は見出せなかった。
氷塊の付着状況、原因
調査実施日(20日間)の対象空港総到着機数1,236機(国内線1,066機、国際線170機)のうち、調査対象時間の総到着予定機数は711機(国内線641機、国際線70機)。調査実施機数551機(国内線489機、国際線62機)のうち、着氷が認められたのは21機(国内線21機、国際線0機)であった。
これらの情報を可視化したのが次図。国内線の着氷率は4.3%(=21÷489)。
着氷が認められた21機(国内線21機、国際線0機)に係る氷塊付着部位は、ランディングギア周辺17件、胴体ドレインバルブ5件(1件は胴体ドレインバルブとランディングギア周辺と重複)であった(次図)。
※航空会社/出発地/機種別の着氷状況については、黒塗りのため不明。
ランディングギア周辺における氷塊付着の主な原因は、テイクオフ時に巻き上げたランウェイ付近の雪が付着したもの(外的要因)。ドレインバルブ周辺の氷塊付着の主な原因は、スポット到着までに流れ出た水が氷塊となった可能性が考えられる、としている。
氷塊の付着状況の傾向としては、ランディングギア周辺と胴体ドレインバルブ周辺の2つの傾向が確認された。ランディングギア周辺における氷塊付着の主な原因は、テイクオフ時に巻き上げたランウェイ付近の雪が付着したものであり、外的要因に伴う氷塊付着と推察する。尚、当該氷塊が確認された事例の出発地天候は雪であった。
一方、ドレインバルブ周辺の氷塊付着の主な原因としては、ドレインバルブは正常であるものの到着地の外気温が低く機体外板の温度上昇が遅かったために、スポット到着までに流れ出た水が氷塊となった可能性が考えられる。(報告書本文P2~3)
防止策
今回の調査により氷塊が確認された部位別の防止策として、以下のように記されている。
(ランディングギア周辺への氷塊付着について)
(前略)以上より、外的要因に伴う着氷・着雪は、先に挙げたメンテナンスマニュアルに基づいて着雪・着氷発見時は対応を行うことが氷塊落下防止に寄与すると考えられる。
(胴体ドレインバルブへの氷塊付着について)
(前略)ドレインバルブは各機種ともに定期整備時の点検清掃が義務づけられているため、確実な整備作業により当該バルブの機能を維持し、飛行中の機外への漏水を防ぐことが氷塊付着の減少に寄与すると考えられる。
これらの状況から、氷塊が付着していたパネルライン前方左側にあるGRAY WATER DRAIN MASTの内部配管に漏れが生じており、パネル隙間から流れ出した水が凍結したと推察される。
なお、氷塊の大きさを考えると、これらの氷塊が飛行中に落下した場合に人身又は物損事故に至る可能性は低いと考えられるが、機体外部に付着した液体類の漏れの原因特定と整備処置を、適切なタイミングで実施することが必要である。
(報告書本文P4~5)
胴体ドレインバルブに付着した氷塊は飛行中に落下した場合に「人身又は物損事故に至る可能性は低い」とされている。可能性は低くてもゼロではない。整備処置だけでは液体類の漏れを完全に防ぐことができなからそのように言わざるを得ないということはないのか。
ドレインバルブに氷塊が付着した状況がイメージできるよう、国交省の資料(本調査報告書ではない)から写真を貼っておく。
国交省航空局「落下物対策の強化について」2018年3月(P7)より
まとめ
メンテナンスマニュアルに基づいた対応を行えば、大きな氷塊として落下する危険性は極めて低い、と結論付けられている。
本年度の着氷件数は22件(国内線22件、国際線0件)であった。
氷塊付着状況としては、ランディングギア周辺への着氷が17件、胴体ドレインバルブへの着氷が5件であった。本年度は調査期間中の大雪に伴い、外的要因による着氷事例が多く確認された。ランディングギア周りの着氷事象が多く確認されたのは前述の大雪に起因しているが、大半が出発地の雪を付着させたシャーベット状であった。IV項に記載した通り、メンテナンスマニュアルに基づいた対応を行えば、大きな氷塊として落下する危険性は極めて低いと考えられる。(以下略)
(報告書本文P6)
雑感
国際線の調査対象機数、わずか62機
20日間の調査で調査実施機数551機(国内線489機、国際線62機)のうち、着氷が認められたのは21機(国内線21機、国際線0機)であった(国内線の着氷率は4.3%)。
今回の調査では、ランディングギア周りの着氷事象は大雪の出発地点で離陸時に巻き上げた雪を付着させたという外的要因であった。また、国際線の対象機数が少なかった(わずか62機!)。
国内線よりも高高度を長時間飛行する国際線を含め、今後の調査データの蓄積が望まれる。
氷塊写真非開示、ルート周辺住民にとってインパクトがあり過ぎるからか
氷塊事象が21件あったのに、のり弁だらけの報告書にはデジカメで撮影したはずの写真が1枚も開示されていない。
「航空会社名、出発地、機種、機体、便名等、個別の法人の特定につながるおそれがある一連の情報」を不開示するにしても、個別の法人の特定につながらない方法で氷塊写真を公開することは可能なのではないか(たとえば、周辺背景を黒塗りにするとか)。
これでは、氷塊写真はルート周辺住民にとってインパクトがあり過ぎるから開示しないのだと思われても仕方があるまい。
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