第201回国会(20年1月20日~6月17日)の衆議院の質問主意書276件(6月25日現在)のなかに、252番目として羽田新ルートに係る次の質問主意書が埋もれている。
松原仁 衆議院議員が6月11日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 問1:夏場は航空機の実高度が計器表示高度よりも高くなる
- 問2:実高度に基づく航空機の降下角度は何度?
- 問3:RNAV計器表示高度が対地高度千ftを示す地点以降の毎分あたりの降下率?
- 答1~3:お答えすることは困難。いずれにしても、(略)安全性の問題はない
- 問4:スタビライズドアプローチとは?
- 答4:航空機が安定した状態で滑走路へ進入するための方法
- 問5:問3のシミュレーション結果、スタビライズドアプローチの原則に合致?
- 答5:各事業者、運航規程に従って航空機を運航している
- 雑感(具体的な質問に答えてない…)
松原仁 衆議院議員(7期、民進→希望→立民・国民・社保・無所属フォーラム、早大商卒、63歳)
既に3月から運用が開始されている羽田空港発着の航空機による都心低空飛行ルートに対しては、安全性をめぐり専門家や住民から懸念や不安の声が多数上がっている。過密な東京23区の上空における低空飛行自体を可能な限り避けることは当然である。
しかし、やむを得ず飛行する場合には、安全確保に最大限の注意を払う必要がある。特に3.5度という、世界の主要な空港の中では極めて急降下の着陸となる本ルートにおいては、着陸時のシミュレーションを細部まで検討することが重要となる。
そこで羽田空港において現実的に運用がなされる着陸時のシミュレーションとして以下の条件について検討したい。
- 気候:気温摂氏35度、ノーウインド(無風状態)
- 機種:ボーイング777、最大着陸重量(シリーズ別)、フラップ25使用時および30使用時着陸方式:RNAV進入方式
以上の条件下における羽田空港への着陸時のシミュレーション値について質問する。
問1:夏場は航空機の実高度が計器表示高度よりも高くなる
一般的に気温の高い夏場は航空機の実高度が計器表示高度よりも高くなるとされる。
RNAV計器表示高度3,800フィート時の航空機の実高度に関するデータをお持ちであればお示しいただきたい。お持ちでない場合、こうした条件を想定せず新ルートを決定できた根拠は何か。
問2:実高度に基づく航空機の降下角度は何度?
一(問1)に関連して、実高度に基づく航空機の降下角度は何度となるか。
また、一般に着陸時の降下角度の数値が大きくなるほど事故発生の危険性は高くなると考えるか。
問3:RNAV計器表示高度が対地高度千ftを示す地点以降の毎分あたりの降下率?
一(問1)、二(問2)に関連して、航空機のRNAV計器表示高度が対地高度千フィートを示す地点以降の毎分あたりの降下率、およびVREF(筆者注:航空機が着陸のために滑走路進入端を通過するときに基準とする対気速度)プラス5ノットの最終進入速度を、ボーイング777のシリーズ別、使用フラップ別に最大着陸重量を想定した数値でお示しいただきたい。
数値をお持ちでない場合、こうした条件を想定せず新ルートを決定できた根拠は何か。
答1~3:お答えすることは困難。いずれにしても、(略)安全性の問題はない
お尋ねの「実高度」は、気圧高度計の表示高度ではない実際の高度を指すものと思われるが、その個々のデータについては政府として保有しておらず、当該データに関するお尋ねについてお答えすることは困難であり、また、お尋ねの「航空機の降下角度」及び「毎分あたりの降下率」については、個々の航空機がどのように飛行するかにより異なるため、一概にお答えすることは困難である。
さらに、お尋ねの「VREFプラス5ノットの最終進入速度」については、その意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。
いずれにしても、東京国際空港における新たな飛行経路のうち南風好天時に運用される進入経路の進入方式については、当該経路の導入を発表する前に、航空会社の協力によりボーイング式777型機を含めた航空機の性能、高気温時を含めた気象等複数の条件を設定した上でシミュレーターによる検証及び安全性の確認を行っており、その結果を踏まえ、高気温時等において3.5度を超える降下角で進入後、途中で降下角を変更して最終的に3度で着陸する進入を許容する等といった対策を講じていること、3.5度の降下角は我が国及び諸外国の複数の空港の進入方式においても採用されていること、並びに当該降下角は好天時のみ使用されることを踏まえ、安全性の問題はないものと考えている。
問4:スタビライズドアプローチとは?
本邦の航空マニュアルにおける基本原則の一つであるスタビライズドアプローチとはどのような内容か。
答4:航空機が安定した状態で滑走路へ進入するための方法
御指摘の「本邦の航空マニュアルにおける基本原則」の意味するところが必ずしも明らかではないが、Stabilized Approach については、航空機が安定した状態で滑走路へ進入するための方法として、航空法(昭和27年法律第231号)第104条第1項の規定に基づき本邦航空運送事業者(以下「事業者」という。)が定める運航規程(以下「運航規程」という。)の中に位置付けることとなっているものである。
問5:問3のシミュレーション結果、スタビライズドアプローチの原則に合致?
三、四(問3、4)に関連して、三(問3)のシミュレーション結果は四(問4)で示されたスタビライズドアプローチの原則に合致しているか。
答5:各事業者、運航規程に従って航空機を運航している
御指摘の「スタビライズドアプローチの原則」の意味するところが必ずしも明らかではないが、Stabilized Approach については、四(答4)についてでお答えしたとおりである。
その上で、各事業者は国土交通大臣の認可を受けたそれぞれの運航規程に従って航空機を運航しているところである。
雑感(具体的な質問に答えてない…)
羽田新ルート問題に詳しくない人にとっては、松原先生が何を聞きたいのかピンとこないかもしれない。分かりやすく補足説明すると、以下のとおりだ。
南風時に都心を通過して羽田空港に着陸するパイロットは、世界でも稀でかつ難度の高い降下角3.45度の操作を強いられる。この降下角3.45度につき安全上の懸念があことはALPA Japan(日本乗員組合連絡会議)が声明を発表している。特に、気温が高くなる夏場は降下角が3.8度近くに達することが、懸念されている。
「羽田新ルート|降下角3.45度、パイロットらの懸念」より
松原先生の質問は、具体的な飛行条件を示し(気温35度、ボーイング777、RNAV進入方式)、そのような条件であっても安全に着陸できるのか尋ねているのである。
これに対して政府は、「お答えすることは困難」と前置きしたうえで、次の4点を掲げ「安全性の問題はない」と回答しているのである。
- シミュレーターによる検証及び安全性の確認を行っており
- 高気温時等において3.5度を超える降下角で進入後、途中で降下角を変更して最終的に3度で着陸する進入を許容する等といった対策を講じている
- 3.5度の降下角は我が国及び諸外国の複数の空港の進入方式においても採用されている
- 当該降下角は好天時のみ使用される
具体的な質問に答えずに、政府としてこのように検討を進めてきたのだから、「いずれにしても、(略)安全性の問題はない」という強弁スタイルは、羽田新ルート問題に限らない……。
あわせて読みたい(松原議員の質問主意書)
これまでに松原仁議員が提出した、羽田新ルートに係る質問主意書関連の記事:
※日付は本ブログで記事化した日
- 20年3月23日:新型コロナ、モラトリアム適用
- 20年3月5日:着陸方式、パイロット懸念、デルタ・エアカナダ対応
- 20年2月4日:「飛行経路指定」に関する大臣告示
- 19年12月16日:新飛行ルートの騒音調査
- 19年7月12日:区議会決議、公聴会、試験飛行、世論調査
- 19年6月13日:落下物防止のための洋上脚下げ
- 19年6月7日:京浜島の事業者・労働者への影響
- 19年6月6日:品川・渋谷区の見直しを求める決議への対応
- 19年5月31日:大田区との約束は!?
- 19年5月23日:低空飛行ルートの採用方法
- 19年5月23日:上皇陛下の仮住まい対策
- 19年2月26日:羽田空港への低空飛行問題
- 18年12月18日:羽田空港新飛行ルート案の変更