第198回国会(19年1月28日~6月26日)の衆議院の質問主意書58件(2月25日現在)のなかに、29番目として「羽田空港への低空飛行問題に関する質問主意書」が埋もれている。
松原仁 衆議院議員が第197回国会(18年10月24日~12月10日)で提出した「羽田空港新飛行ルート案の変更に関する質問主意書」に対する政府答弁書に関しての再質問書である。
※前回の質問主意書については、「羽田新ルート|質問主意書(松原仁議員)を読む」参照。
読みやすいように、一問一答形式に再構成し、各回答のあとに筆者のコメントを朱書きしておいた。
※以下長文。時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
松原仁 衆議院議員(7期、民進→希望→無所属、早大商卒、62歳)
先の臨時国会において、『羽田空港新飛行ルート案の変更に関する質問主意書』(平成30年11月30日提出、質問第98号、以下『質問主意書』)を提出し、安倍晋三内閣総理大臣より『衆議院議員松原仁君提出羽田空港新飛行ルート案の変更に関する質問に対する答弁書』(平成30年12月11日付け、答弁第98号、以下『答弁書』)を受領した。上記の答弁書の内容、および羽田空港の新飛行経路計画に関して再度質問する。
1.「幅広い理解」「世論調査」「新飛行経路周知」
『答弁書』内「1の1および2について」における「幅広い理解を得た上で、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに運用できるようにしたい」との記述について
質問1-1:「幅広い理解」を得るべき主体とは?
この「幅広い理解」とは、どのような主体から得る必要があるか。
新飛行経路(以下「低空飛行ルート」)下の住民個人、地方自治体、町会・自治会、企業等は利害関係者であると考えるが、これらは「幅広い理解」を得るべき主体であると考えるか。またその他に想定される主体があれば、具体的にお答えいただきたい。
回答1-1:「町会・自治会、企業」も含まれる
先の答弁書(平成30年12月11日内閣衆質197第98号)1の1及び2についてでお答えしたとおり、関係地域の地方公共団体及び住民の方々(以下「地方公共団体等」という。)がお尋ねの「「幅広い理解」を得るべき主体」であるが、その中には、関係地域の御指摘の「町会・自治会、企業」も含まれると認識している。
※「幅広い理解」を得るべき主体に、関係地域の町会・自治会も含まれていることが明確になった。ただ、町会・自治会に幅広い理解が得られるか否かと新飛行ルート見直しはセットであるとは言っていない。
質問1-2:世論調査等を行う予定は?
「幅広い理解を得た」とは、どのような時期に、どのような手法を用いて判断するのか。また理解を得るべき主体に対して世論調査等を行う予定はあるか。
質問1-3:「新飛行経路周知」に必要な期間?
低空飛行ルートを「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに運用」するためには、いつまでに検査飛行及び制限表面設定を行う必要があるか。また「新飛行経路周知」にはどの程度の期間が必要か。
回答1-2&1-3:「世論調査」を行う予定はない。飛行経路の周知は速やかに行う
政府としては、東京国際空港(以下「羽田空港」という。)における新たな飛行経路案(以下「新経路案」という。)について、地方公共団体等に説明を行っているところであるが、今後も引き続き丁寧な情報提供を行い、幅広い理解を得た上で、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに運用できるようにしたいと考えている。
現時点において、御指摘の「世論調査」を行う予定はないが、どのような形で地方公共団体等から理解を得たと判断するかについては、今後、地方公共団体をはじめとする関係者からの御意見を参考に検討することとしたい。
また、政府としては、新経路案に係る飛行検査(航空機を使用して行う航空保安施設の検査その他航空交通の安全の確保のための検査及び調査をいう。以下同じ。)及び御指摘の「制限表面」の告示について、新経路案の運用開始までに行うこととしている。
お尋ねの「「新飛行経路周知」にはどの程度の期間が必要」の意味するところが必ずしも明らかではないが、見直し後の飛行経路の周知については、速やかに行うこととしたい。
※地域住民を含む「幅広い理解」を得るべき主体を対象に世論調査(あるいは県民・区民投票)を行えば、羽田新ルート計画反対が多数を占める可能性が高い。だから政府は、「世論調査を行う」とは口が裂けても言えないのであろう。
2.松原案(羽田発着国内便を成田発着に変更)について
『答弁書』内「2の3について」における「羽田空港の国内線の減便については、当該地域の関係者等の理解を得ることが困難」との記述について
質問2-1:国内線減便に係る「当該地域の関係者等」とは?
「当該地域の関係者等」とはどのような主体を想定しているか。想定される主体を具体的にすべて列挙されたい。
回答2-1:羽田空港との国内線が就航している地域・当該路線の利用者
お尋ねについては、網羅的に列挙することは困難であるが、主に、羽田空港との国内線が就航している地域及び当該路線の利用者を念頭に置いている。
質問2-2:松原案でも「理解を得ることが困難」な理由は?
『答弁書』内「1の1および2について」において、「関係地域の地方公共団体及び住民の方々」に対して「新経路案について」の「説明」や「丁寧な情報提供」を行い「幅広い理解を得た上で」との記述があり、こうした対応により、航空機の騒音や落下物など生命や財産にリスクを抱える低空飛行ルート下の関係者の理解が得られる見込みがあることを前提としている。
他方、松原仁が『質問主意書』の2において示した羽田空港と成田空港の一体的な運用と、それに伴う羽田空港発着の国内便を成田空港発着に変更する案では、国内便利用客の利便性への懸念はあるものの、生命や財産のリスクを負う関係者は生じない。
このような「当該地域の関係者等」に対し低空飛行ルート下の住民に行っているのと同様に、「説明」や「丁寧な情報提供」を行っても「理解を得ることが困難」と想定される理由をお答えいただきたい。
回答2-2:羽田空港からの国内線が就航している地域の関係者等の理解が困難
政府としては、交通政策審議会航空分科会羽田発着枠配分基準検討小委員会が平成24年11月28日に取りまとめた「報告書」において記載のとおり、羽田空港は我が国航空ネットワークの中核となる基幹空港であるとともに、我が国の競争力の強化という観点からも重要な役割を担う空港であると認識している。
その上で、同分科会基本政策部会首都圏空港機能強化技術検討小委員会において、羽田空港の航空需要 の増大等に対応するため、首都圏空港の機能強化のための様々な方策が検討された結果、新経路案等が、 平成26年7月8日に「首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ」として取りまとめられたところである。
羽田空港の国内線は、羽田空港からの国内線が就航している地域と首都圏の双方において、ビジネス、 観光等の需要の高い路線であるところ、御指摘の「羽田空港と成田空港の一体的な運用と、それに伴う羽 田空港発着の国内便を成田空港発着に変更する案」については、その減便を含むことから、羽田空港からの国内線が就航している地域の関係者等の理解を得ることが困難であると考えている。
※松原案(羽田発着国内便を成田発着に変更)が実現すれば、羽田増便を回避できる可能性があるのだが、国交省は「羽田空港との国内線が就航している地域及び当該路線の利用者」の理解を得ることが困難だと回答している。
なんとも分かりにくい表現なのだが、ようするに、羽田空港に乗り入れている地方航空の地元の反対の声を抑えられないということ。
3.落下物・騒音・不動産価値の低下について
『答弁書』内「1の3について」における「関係地域の地方公共団体及び住民の方々から、航空機からの落下物、航空機の騒音、不動産の資産価値の低下等を懸念する声があることは認識している。」との答弁について
質問3-1:落下物・騒音・不動産価値の低下への予防策?
こうした「航空機からの落下物」、「航空機の騒音」、「不動産の資産価値の低下」へ、どのような具体的な予防策を講じているか、あるいは計画しているか。
質問3-2:政府としてこれらを補償する考えはあるか?
「航空機からの落下物」による人的および物的被害、「航空機の騒音」による健康被害、「不動産の資産価値の低下」が起きた場合、政府としてこれらを補償する考えはあるか。
質問3-3:「不動産の資産価値の低下」の事例?
航空機の上空通過による「不動産の資産価値の低下」に関する、他の地域や外国での事例等をお持ちであればお示しいただきたい。
回答3-1~3:不動産価格低下の補償は想定していない、
航空機からの落下物(以下「落下物」という。)については、国土交通省において平成30年3月に取りまとめた「落下物対策総合パッケージ」を踏まえ、同年8月に航空法施行規則(昭和27年運輸省令第56号)を改正し、平成31年1月15日から本邦航空運送事業者及び航空機使用事業者に対し、同年3月15日から外国人国際航空運送事業者に対し、それぞれ部品等脱落防止措置を講ずることを義務付けたことに加え、駐機中の航空機を空港管理者がチェックする体制を強化すること等により、落下物の未然防止策を徹底させることとしている。
また、落下物による被害の補償については、航空会社が行うものと認識しているが、政府としては、航空会社が落下物による被害を補償するための制度の充実を図るなど被害発生時の対応も強化することとしている。いずれにせよ、政府として、落下物対策に万全を尽くしてまいりたい。
御指摘の「「航空機の騒音」による健康被害」の意味するところが必ずしも明らかではないが、航空機の騒音については、その軽減を図る観点から、平成29年4月に低騒音機の導入促進のための着陸料の見直しを行ったところであり、これに加えて、新経路案の運用時間の限定及び飛行高度の引上げを行うこととしている。
また、平成30年3月に公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律施行令(昭和42年政令第284号)を改正し、新たに家庭的保育事業を行う施設等の防音工事の助成を行うこととしており、現在、新経路案の経路下における当該施設等について調査しているところである。
加えて、航空機の騒音については、新経路案の運用後も当該経路下の地域の騒音を測定するなど騒音の影響を注視することとしている。
御指摘の「不動産の資産価値の低下」については、不動産価格は交通利便性や周辺の開発状況等の様々な要因により変動することから、羽田空港における飛行経路の見直しが直ちに不動産価格を低下させるとは一概に言えないと考えており、これについて、政府としては、補償を行うことは想定していない。
また、お尋ねの「航空機の上空通過による「不動産の資産価値の低下」に関する、他の地域や外国での事例」は持ち合わせていないが、今後、空港周辺の不動産価格の動向について情報の収集及び分析を行いたいと考えている。
※羽田新ルートの運用が2020年までに始まるとすれば、この2月、3月の引っ越しシーズン(賃貸契約は2年)に間に合うよう、その旨を重要事項説明に取り込まないと、後々トラブルが発生することが容易に想像できるのだが。
国交省は1月23日に開催された渋谷区恵比寿での教室型説明会の場で、「不動産協会には新ルート空路、騒音など説明済み。最終的に(重説に)入れるかどうかはそちらの方(不動産協会)で考えること」と回答している。
⇒詳しくは、「羽田新ルート|実録!教室型説明会(@恵比寿)」参照。
4.「試験飛行」実施の可否
質問4:試験飛行を(新経路案の運用開始前に)行うことは可能か?
低空飛行ルート下の住民から、どの程度の騒音や、視覚的な圧迫感があるか、実際に見てみなくては判断できないとの声が寄せられている。現在説明会で使用されているCG等によるデモンストレーションではなく、新飛行ルートにおける実際の試験飛行を正式採用前に行うことは可能か。また試験飛行を行う場合にかかる費用はどの程度と見積もられるか。
回答4:試験飛行の要否については、慎重に判断することとしたい
新経路案の運用開始前に航空機を試験的に運航すること(以下「試験飛行」という。)については、航空保安施設の整備等が終了しなければ実施できないため、試験飛行の要否については、当該整備の状況、飛行検査の時期及び地方公共団体等からの要望等を勘案して、慎重に判断することとしたいと考えており、仮に、試験飛行を行う場合には、その費用について検討することとなる。
※国交省に寄せられた羽田新ルートに係る1.7万件の意見を筆者が独自に分析した結果によれば、試験飛行を望む声は13位と低くない。
⇒詳しくは、「意見1.7万件を分析して見えたこと」参照。
雑感
質問書(約1千600文字)と答弁書(約2千400文字)は別々の文書なので、上記のように一問一答形式に再構成しないと、内容を的確に把握することはできない。
再構成して見えてきたのは、羽田新ルート推進に突き進む政府のかたくなな姿勢ではないか。
松原議員の執拗な再質問によって、今回の政府答弁で明らかになったのは、主に以下の5点。
- 羽田新ルート運用に向けて、「幅広い理解」を得るべき主体には関係地域の「町会・自治会、企業」も含まれること
- 「現時点において」、理解を得るべき主体に対して「世論調査」を行う予定はないこと
- 松原案(羽田発着国内便を成田発着に変更)は、羽田空港からの国内線が就航している地域の関係者等の理解を得ることが困難であること
- 政府としては、飛行経路の見直しが直ちに不動産価格を低下させるとは一概に言えないと考えており、補償を行うことは想定していないこと
- 試験飛行の要否については、当該整備の状況、飛行検査の時期及び地方公共団体等からの要望等を勘案して、慎重に判断するとしていること
国土交通省は、羽田増便のほぼ半数にあたる24便を日本とアメリカを結ぶ路線とする方針を決めたという。羽田空港の国際線発着枠の増加に伴い、デルタ航空など米航空各社は2月22日までに増便申請を米運輸局に提出したことを日経が報じている。
アジア地域を中心に航空需要が伸びるから増便するのではなかったのか? 増便の根拠が揺らいでいないか? 松原議員には今後、そのあたりも突っ込んでほしい。
⇒詳しくは、「羽田新ルート|増便枠の半数を日米路線に決定!?」参照。
せっかくの質問主意書・答弁書もマスメディアが取り上げなければ、記録文書の肥しとなるだけだ。弱小なこのブログメディアによる情報が少しでもお役に立てば幸甚。
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