第198回国会(19年1月28日~6月26日)の衆議院の質問主意書208件(6月6日現在)のなかに、179番目として羽田新ルートに係る次の質問主意書が埋もれている。
松原仁 衆議院議員(無所属)が5月22日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成し、回答のあとに筆者のコメントを朱書きしておいた。
※以下長文。時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
松原仁 衆議院議員(7期、民進→希望→無所属、早大商卒、62歳)
羽田空港へ離着陸する航空機の飛行経路変更計画に関して、現在政府から示されている新飛行経路案によれば、南風時の15時から19時までの間の3時間に、1時間あたり最大14便の航空機が東京都心を低空飛行しA滑走路に進入し着陸することとなっている。
もしこのルートが実現した場合、羽田空港の北西にほぼ隣接する京浜島では、上空約70メートルを航空機が飛来することが明らかになっている。
歴史を紐解けば、C滑走路が建設されるまでの羽田空港の環境は、A滑走路に航空機が北側から着陸する経路が取られ、低空飛行の航空機から極めて過酷な騒音が京浜島に降り注ぎ、飛行ルート直下で操業する事業者及びその従業員がひどく悩まされたという経緯がある。また、こうした過去の低空飛行問題については、京浜島の中でも特に飛行経路の真下に位置する9事業者の経営者らが、東京国際空港新A滑走路供用禁止を求め行政訴訟を起こすに至った[昭和63年(行ウ)第201号]。
この訴訟は結果的にC滑走路の完成以後は原則として京浜島上空を航空機は飛行しないという内容の、運輸大臣らによる準備書面を受けて、事業者らによる訴えの取り下げに至った。こうした経緯を踏まえ、羽田空港新飛行経路案が採用された場合の、京浜島で、特に飛行ルート直下で操業する事業者やその労働者に与える影響について質問する。
1.京浜島上空での飛行機の高度、およびその直下の騒音
質問1-1:京浜島上空を通る時の航空機の高度?
現在計画されている新飛行経路案によると、京浜島上空を通る時の航空機の高度は地上何メートル程度と想定しているか。
質問1-2:京浜島の上空を通過する場合に、地上では最大何dB?
1(筆者注:質問1-1)に関連して、航空機が京浜島の上空を通過する場合に、地上では最大何デシベル程度の騒音が発生すると想定しているか。
政府が説明会等で例示する、一般的な大型機、中型機、小型機それぞれについての数値をお示しいただきたい。
回答1-1&1-2:94m、91dB程度(大型機)
東京国際空港(以下「羽田空港」という。)における新たな飛行経路案(以下「新経路案」という。)において、航空機は、羽田空港のA滑走路の北端から約1430メートル離れた東京都大田区京浜島の進入灯台付近を、94メートル程度の高度で飛行することを想定している。
また、お尋ねの「政府が説明会等で例示する、一般的な大型機、中型機、小型機」が当該高度で飛行した場合の当該飛行経路直下における航空機の騒音レベルの最大値は、それぞれ、91デシベル程度、90ベル程度及び87ベル程度と想定している。なお、これらの値は、実際の航空機の運航時における、その重量等の運航条件や風向等の気象条件によって変動し得るものである。
※筆者の独自調査によれば、羽田新ルート直下から500mの範囲の大田区民は約200人(全区民の0.03%)。それほど多いわけではない(出発ルート直下から500mの範囲の人口はゼロ)。
この「約200人」は、常住人口(国勢調査時に調査地域に常住している人)。よって、大田区で羽田新ルートが問題となるのは、区民もさることながら、昼間事業所で働いている労働者ということになる。
2.飛行経路直下に位置する京浜島で操業する事業者による計画への合意の必要性
質問2-1:京浜島で操業する事業者の中に、反対意見があることを認識?
再び発生が予想される騒音などへの懸念から、京浜島で操業する事業者の中に、新飛行経路への反対意見があることを認識しているか。
回答2-1:認識している
政府としては、お尋ねの「京浜島で操業する事業者の中に、新飛行経路への反対意見があること」について、認識している。
質問2-2:過去に行政訴訟を起こした京浜島の事業者に新飛行経路案の説明?
京浜島上空のような飛行高度が極めて低い地域においては、非常に強い騒音が飛行経路直下の限定された場所に集中して発生することが予想される。
そのため本件は、京浜島全体で共有される一つの問題というよりは、ルートの直下に位置する特定の事業者から合意を得ることが特に重要となる。
具体的には東京鉄鋼工業協同組合のCグループに属する地域が、特に大きな騒音被害を受けると考えられる。過去に行政訴訟を起こした京浜島の事業者、もしくは前述のCグループに属する事業者に対し、新飛行経路案の説明を一般に公開された説明会とは別に行ったか。行っていない場合、今後そのような個別の説明会の要望があれば開催を検討するか。
回答2-2:要望があれば、必要に応じて検討
政府としては、新経路案について、関係地域の地方公共団体、企業及び住民の方々の幅広い理解を得るため、平成27年7月から平成31年2月にかけて延べ163日間、関係地域の延べ97会場で住民説明会を開催し、約2万7900名の方に参加いただき、丁寧な情報提供を行ってきたところである。
お尋ねの「過去に行政訴訟を起こした京浜島の事業者、もしくは前述のCグループに属する事業者」の意味するところが必ずしも明らかではないが、新経路案に関する御指摘の「個別の説明会」の開催については、今後、要望があれば、必要に応じて検討してまいりたい。
質問2-3:Cグループに属する事業者による騒音対策への助成?
京浜島は工業専用地域であり、騒防法の適用外となっている。しかし、過去の京浜島における航空機問題では、多数の従業員が騒音を理由にして退職するなど、決して受忍できないレベルの被害が実際に発生した。
新飛行経路に対する地元の理解を得るためには、形式的な対応に固執するべきではなく、こうした過去の被害や、前述の行政訴訟終結の経緯も踏まえた措置がなされてしかるべきである。
Cグループに属する事業者による騒音対策への助成などを検討しているか。していない場合、今後検討を始める余地はあるか。
回答2-3:関係法令に従って適切に対応してまいりたい
お尋ねの「騒音対策」の意味するところが必ずしも明らかではないが、都市計画法(昭和43年法律第100号)第8条第1項第1号に掲げる用途地域が定められているかどうかにかかわらず、御指摘の「Cグループに属する事業者」のものも含め、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(昭和42年法律第110号)第5条又は第8条の2に規定する施設又は住宅については騒音防止工事の助成対象となり、当該施設及び住宅以外については騒音防止工事の助成対象となっておらず、同法等の関係法令に従って適切に対応してまいりたい。
※東京鉄鋼工業協同組合は、会員企業42社、従業員数約1千名。事業所の配置によって、A、B、C3つのグループに区分されている(次図、ピンク色)。
東京鉄鋼工業協同組合HPの組合マップを元に作成
雑感
質問書(約1千500文字)と答弁書(約1千100文字)は別々の文書なので、上記のように一問一答形式に再構成しないと、内容を的確に把握することはできない。
再構成して浮かび上がってくるのは、政府の空疎な文章だ。
「過去に行政訴訟を起こした京浜島の事業者、もしくは前述のCグループに属する事業者に対し、新飛行経路案の説明を一般に公開された説明会とは別に行ったか。行っていない場合、今後そのような個別の説明会の要望があれば開催を検討するか」という質問。
政府の回答は、「今後、要望があれば、必要に応じて検討してまいりたい」。「検討してまいりたい」と言っているだけで、「個別に説明する」と約束しているわけではないのである。
まあ、「検討するか」という聞き方にも問題はあるのだが……。
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