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羽田新ルート|質問主意書(松原仁議員)を読む

第197回国会(18年10月24日~12月10日)の衆議院の質問主意書145件のなかに、98番目として「羽田空港新飛行ルート案の変更に関する質問主意書」が埋もれている。

松原仁 衆議院議員(民進→希望→無所属)が11月30日に提出した質問主意書に対する答弁書が12月17日に公開されたのでひも解いてみた。

読みやすいように、一問一答形式に再構成し、各回答のあとに筆者のコメントを朱書きしておいた。
※以下長文。時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。


質疑応答のポイント

松原仁衆議院議員
松原仁 衆議院議員(7期、民進→希望→無所属、早大商卒、62歳)

 羽田空港の国際化は海外との間のヒトとモノの流れを活性化することによる経済効果が見込まれ、国際社会もこれを期待するものである。この要請に応えるため、政府は羽田空港への飛行経路の変更計画を策定している。

この計画は、具体的には、国際線の需要が集中する午後3時から午後7時の間で、国際便の離着陸を新たに30便程度増加することが技術的には可能であるという試算のもとで進められている。

 このため、従来の飛行経路を大きく変更し、例えば、渋谷上空を高度約650メートル、品川上空を高度450メートル、大井町の上空を高度300メートルで着陸体制を取りつつ下降する経路(以降、「新飛行ルート」と呼ぶ)が計画されている。

これらの街が日本でもトップクラスの人口密集地域である東京23区の主要な市街地であることは言うまでもない。すなわち、その上空を航空機が低空飛行するために起こる落下物や騒音による住民の被る生活リスク、企業や個人の所有する不動産価値の下落などを含む資産リスクは、他の地域における市街地上空を飛行する場合とは比較にならないほど大きいことは自明である。

実際、新飛行ルート下に暮らす多くの住民から、強い懸念と反対の声が上がっている。わが国の発展は、当然国民の利益の側に立って考えられるべきである。そうした観点から、新飛行ルートの実施によって関係住民や生活者が抱える不利益はあまりにも大きいため、私はこの計画の抜本的見直しが必要だと考える

 そこで代替案として、羽田空港と隣接し、実質的に東京の空港として機能している成田空港と連携することでこの問題を解消させることを提案したい


成田と羽田の立地を比較すると、それぞれJR山手線駅へのアクセスでは、成田空港から日暮里駅までの電車による移動に所要する時間は約36分、羽田空港から品川駅までは約16分である。電車等に比べ天候等による遅延や欠航が発生しやすく、厳格な搭乗手続きを強いられる飛行機利用旅客にしてみれば、この約20分の差は10分に許容できる範囲と考えられる。

 次に両空港の発着枠の現状を鑑みたい。羽田空港の離発着枠は既に飽和点に近い水準で推移している。ただし、その多くは国際便ではなく国内便である。また国際便は日本と諸外国の時差や飛行時間等の関係から、午後3時から午後7時の間に集中している。一方、成田空港は、午前11時から午後2時の間など、朝夕のピーク時間以外の時間帯の離発着についてはゆとりがあることがわかっている。

 こうした現状を踏まえ、物理的には、羽田空港への飛行経路を現状のままにして、次のような運用の可能性があると考える
 ①羽田空港に行き来する国内便を、午後3時から午後7時の間について、1時間について10便ほど、合計30便ほどを国際便に振り替えることにより、国際便を合計30便程度増便することが可能である。

 ②現在羽田に離発着している国内便のうち、30便を超える相当数の航空機を成田空港発着便に変更する。特に、現在成田空港に余裕がある午前11時から午後2時の発着枠の活用が想定される。

 この案の実施によるメリットを挙げたい。まず、羽田への飛行経路について東京23区上空での新飛行ルートを使わず、現行ルートを維持することができるため、新飛行ルート下の膨大な市民の生活や財産権への強烈なリスクを回避できる。

また羽田空港への国際便の30便増便を達成できる。加えて現在は、羽田空港に離発着する航空機が千葉市上空を旋回するため、千葉市民の方々から騒音についての強い批判があるが、成田空港発着に変更する国内線を増やすことで、千葉市上空の航空機を減らし、千葉市民の騒音負担を軽減することも可能になる。成田空港にとっては、ゆとりのある時間に離発着を増やすことが可能となる。

 以上の点を踏まえ、次の質問にお答えいただきたい。

※ただ反対するのではなく、代替案(羽田・成田の一体的運用)をもって羽田新飛行ルート問題の解決を図ろうとする姿勢は評価できる。

1.23区上空を通る新飛行ルート計画について

現在政府が進めている羽田空港への東京都23区上空を通る新飛行ルート計画について

質問1-1:新飛行ルートは決定事項か?

この新飛行ルートの実施は既に決定事項か。

質問1-2:別案があれば、計画変更もありうるか?

新飛行ルート案と同様に航空便需要の増加に対応し、住民の負担もより少ない別の案があれば、計画を変更することもありうるか。

回答1-1&1-2:2020大会までに運用できるようにしたい

お尋ねの「決定事項」及び「計画を変更する」の意味するところが必ずしも明らかではないが、交通政策審議会航空分科会基本政策部会首都圏空港機能強化技術検討小委員会において、東京国際空港(以下「羽田空港」という。)の航空需要の増大等に対応するため、首都圏空港の機能強化のための様々な方策が検討された結果、羽田空港における新たな飛行経路案(以下「新経路案」という。)等を平成26年7月8日に「首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ」(以下「中間取りまとめ」という。)として取りまとめられたところである。

さらに、政府としては、平成28年7月に開催された国土交通省、茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県等により構成される首都圏空港機能強化の具体化に向けた協議会において、航空機の騒音による影響等を低減するため、羽田空港の機能強化に係る環境影響等に配慮した方策を示したところである。

新経路案については、関係地域の地方公共団体及び住民の方々に説明を行っているところであるが、今後も引き続き丁寧な情報提供を行い、幅広い理解を得た上で、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会までに運用できるようにしたいと考えている

※「新飛行ルートの実施は既に決定事項か」という質問に対して、「技術検討小委員会において、・・・様々な方策が検討された結果」であるという答弁から、遠回しに「いまさら変更することは難しい」と言っているように読み取れないだろうか

2020大会までの運用に向けた「丁寧な情報提供」「幅広い理解を得た上で」といった常套句が並んでいる。

質問1-3:強い反対の声を認識しているか?

新飛行ルート計画に対して、ルート下の住民や団体から落下物や騒音、資産価値の減少などへの懸念から強い反対の声も示されている。こうした事実を認識しているか。

回答1-3:懸念する声があることは認識している

関係地域の地方公共団体及び住民の方々から、航空機からの落下物、航空機の騒音、不動産の資産価値の低下等を懸念する声があることは認識している。

※「強い反対の声(質問)」を「懸念する声(答弁)」に言い換えているのは、「全滅」を「玉砕」と言い換えた大本営発表方式……。

質問1-4:新ルート周辺下の住民賛否の割合は?

これまで政府が行ってきた新飛行ルート計画に関する説明会や意見募集に寄せられた、賛成意見、反対意見、賛否は定かではないが危険や負担への懸念や心配を含む意見、それぞれの数を具体的に示されたい

また、政府は、新飛行ルート周辺下の住民における計画に対する賛否の割合はどの程度であると認識しているか

回答1-4:内容別の件数の集計を行っていない

新経路案に関する御意見については、その内容別の件数の集計を行っていないが、国土交通省の特設ホームページ「羽田空港のこれから」においてその内容を公開しているところである。

なお、政府としては、新経路案について、関係地域の地方公共団体及び住民の方々の幅広い理解を得るため、平成27年7月から平成30年2月にかけて延べ127日間、関係地域の延べ66会場で住民説明会を開催し、約1万6800名の方に参加いただき、丁寧な情報提供を行うとともに、広報活動、環境対策、落下物対策等について御意見を伺ったところである。

※国交省は「内容別の件数の集計」を速やかに実施して、HPにアップすべし。また、「新飛行ルート周辺下の住民における計画に対する賛否調査(仮称)」を実施すべし。

2.羽田・成田空港の一体的な運用について

高まる首都圏での航空便需要に対応する羽田空港と成田空港の一体的な運用について。

質問2-1:羽田・成田空港で一体的運用を検討した経緯は?

羽田空港への新飛行ルートの作成にあたり、首都圏での航空便の需要を羽田空港と成田空港で一体的に満たす運用を検討した経緯はあるか。

回答2-1:中間取りまとめで様々な方策が示された

お尋ねの「首都圏での航空便の需要を羽田空港と成田空港で一体的に満たす運用」の意味するところが必ずしも明らかではないが、中間取りまとめにおいて、羽田空港及び成田国際空港(以下「成田空港」という。)の機能強化のための様々な方策が示されたと認識している。

※14年7月8日に公表された「首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ」には確かに成田空港も含めた様々な検討結果が記されている。

質問2-2:成田空港の発着枠の余裕は?

現在の成田空港で、午前11時から午後7時の間に、新たに飛行機を受け入れることができる発着枠の余裕は残っているのか

余裕がある場合、この時間帯の中で、1時間ごとに何便の飛行機を受け入れることが可能か(午前11時台、12時台、午後1時台、といったように1時間ごとに示されたい。)。

回答2-2:発着枠の余裕は日によって異なり…

成田空港における発着枠の余裕は日によって異なり、また、追加で受け入れることができる便数は出発機と到着機の割合によって異なるが、平成30年における国際線の夏ダイヤの期間である同年3月25日から10月27日までのうち、成田空港の出発機及び到着機が最も多かった8月12日の11時から19時までに受け入れることができた便数は、以下のとおりである。

  • 11時台 最大19、最小17
  • 12時台 13
  • 13時台 最大24、最小20
  • 14時台 最大8、最小6
  • 15時台 最大2、最小1
  • 16時台 2
  • 17時台 1
  • 18時台 零

※南風時の15時から19時(着陸ルート)は成田空港の余裕がほとんどないので(最大5便、最小4便)、羽田便を成田便に振り返る代替案の実施は困難であることを示唆している。

「成田空港の出発機及び到着機が最も多かった8月12日」以外の日も含めて検討すれば、結論が変わることはないのか? 

質問2-3:羽田国内便を成田に変更する場合のデメリットは?

現在羽田空港に発着している国内便を成田空港発着に変更する場合、その弊害となる事柄や、懸念されるデメリットは何か。

回答2-3:羽田の国内線の減便は困難である

政府としては、都心に近く、国内線の基幹空港である羽田空港は、就航している地域や利用者からの地方路線の維持及び充実を求める要望が強いことから、羽田空港の国内線の減便については、当該地域の関係者等の理解を得ることが困難であると考えている

※たしかに羽田空港の国内線の減便は難しそうだ。

雑感

質問書(約2千300文字)と答弁書(約1千500文字)は別々の文書なので、上記のように一問一答形式に再構成しないと、内容を的確に把握することはできない。

再構成して見えてきたのは、松原議員の代替提案は採用できないことを示唆する残念な結果である。ただ、ホントに代替案(羽田・成田の一体的運用)の可能性はないのか……。

せっかくの質問主意書・答弁書もマスメディアが取り上げなければ、記録文書の肥しとなるだけだ。弱小なこのブログメディアによる情報が少しでもお役に立てば幸甚。

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