第201回国会(20年1月20日~6月17日)の衆議院の質問主意書93件(3月4日現在)のなかに、松原仁 衆議院議員(無所属)が投じた、似たような質問主意書が3件。
- 羽田空港新飛行ルートに伴う新たな着陸方式における「Tailored Chart」の周知
- 航空機パイロットによる羽田空港低空飛行ルートに伴う急降下着陸方式への懸念
- 羽田空港新飛行ルート実機飛行確認時のデルタ航空社、エアカナダ機の対応
政府答弁書が公開されたので、3件まとめて整理しておいた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成。
※以下長文。時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
松原仁 衆議院議員(7期、民進→希望→無所属、早大商卒、63歳)
1.新たな着陸方式における「Tailored Chart」の周知
本年3月29日より運用開始が予定されている羽田空港の新飛行ルート計画において、政府は騒音対策の一環として人口密集地上空での飛行経路を引き上げる追加対策案を示している。
しかし、その代償として、航空機の羽田空港への着陸時の降下角は3.5度という世界の主要な空港に例を見ない急な角度をとることとなっている。こうした急角度での滑走路への進入は航空機の降下速度を加速させる要素となり、しりもち事故を含むアクシデントの発生リスクを高めるものである。
こうしたリスク対策として、国土交通省『羽田空港のこれから』においては、南風好天時の着陸時のイメージとして3度と3.5度の降下角の間に新たな降下率の変化を示す曲線を破線で描いている。これを「Tailored Chart」と呼ぶことにする。
「FAQ冊子v6.2」P73より
問1:「Tailored Chart」の意味するところ?
着陸時のイメージにおいて破線で描かれた曲線「Tailored Chart」の意味するところを、具体的にご説明いただきたい。
問2:「Tailored Chart」、国内・国外の航空会社には説明した?
問1に関連して、「Tailored Chart」の意味するところを、国内ならびに国外の航空会社には既に説明したか。
また羽田空港就航便に乗務する可能性のある国内航空会社のパイロットには周知徹底されているか。
答1&答2:3度と3.5度の間を許容。国土交通省から複数回にわたり説明
御指摘の「Tailored Chart」については、東京国際空港における新たな飛行経路のうち南風好天時に運用される進入経路において、気象条件等によっては、3度の降下角で飛行した場合の高度と3.5度の降下角で飛行した場合の高度の間の高度を航空機が飛行することを許容していることを示しているものであり、これについては、航空法(昭和27年法律第231号)第99条第1項の規定に基づいて国が発行する航空情報の一つである航空路誌により航空機乗組員に対し情報提供を行っているほか、東京国際空港に乗り入れている本邦及び外国の航空会社に対しては国土交通省から複数回にわたり説明及び周知を行っている。
2.パイロット、急降下着陸方式への懸念
問1:3.5度の降下角度、安全性の認識?
羽田空港新飛行ルートの運用に伴う都心上空低空飛行では、着陸時の降下角度が世界の主要な空港において実施されている3度を大きく超える3.5度の急降下で運用されることに対して、専門誌や航空機乗務員から多くの不安の声が挙がっている。
航空機パイロットの世界的連合体である、国際定期航空操縦士協会連合会(IFALPA)の公報『Safety Bulletin』(本年1月20日付)において、羽田空港新飛行ルートに関して「Concerns」との表現で降下角度を含めて強く懸念が表明されている。
さらに、これに関連して日本乗員組合連絡会議の『ALPA Japan NEWS』(同年1月28日付)では、羽田空港の新方式を、「一般的な進入方式に比べて角度が0.45度大きくなることから、パイロットにかかる負担は大きくなることが予想されます」「航空局から公示された3.45度のRNAV進入方式を実施することに対する懸念の声が、海外の航空会社から挙がっています」としている。
これらの点を踏まえ、3.5度の降下角度を含む都心低空飛行ルートの安全性について改めて認識を伺いたい。
答1:安全性の問題はない
東京国際空港における新たな飛行経路のうち南風好天時に運用される進入経路においては、3.5度の降下角を採用することとしている。
当該降下角を含む当該経路における進入方式については、当該降下角が我が国及び諸外国の複数の空港の進入方式において採用されていること、航空会社の協力により航空機の性能、気象等に係る複数の条件を設定した上でシミュレーターによる安全性の確認を行っていること、及び航空機の運航の専門家から当該降下角は好天時のみ使用されることから安全性の問題はない旨の意見を頂いていることを踏まえ、安全性の問題はないものと考えている。
引き続き、実機飛行確認において当該経路を飛行した操縦士の意見も確認しながら、安全の確保に万全を尽くしてまいりたい。
3.実機飛行確認時のデルタ航空社、エアカナダ機の対応
羽田空港の新飛行ルートの運用開始に先立ち行われた実機飛行確認において、東京新聞(本年2月6日付)によると、デルタ航空社は着陸時の降下角度が3.5度と「通常よりも急角度」であるとの理由から「新たに採用された着陸方法の「安全性」が確認できていない」として、都心低空飛行を伴う新経路での運用を行わなかったと報道されている。
また同記事において、2月2日の実機飛行確認初日には羽田空港を目的地としたエアカナダ機が、同じく新飛行経路の「「降下角度」に難色を示し」、目的地を成田空港へ変更しダイバートしたとされる。
そこで次のとおり質問する。
問1:デルタ航空社が実機飛行確認における運用を行わなかった理由について
問1-1:デルタ航空の認識を把握しているか?
記事中の「新たに採用された着陸方法の「安全性」が確認できていない」という同社の認識を把握しているか。
問1-2:運用を回避した経緯、その他に把握している理由は?
問1-1に関連して、同社が実機飛行確認における運用を回避した経緯として、その他に把握している理由はあるか。
答1:同社の認識については把握していない
お尋ねの「実機飛行確認における運用を行わなかった理由」については、東京国際空港における新たな飛行経路のうち南風好天時に運用される進入経路(以下「南風好天時経路」という。)に係る「実機飛行確認」の実施時間内において、東京国際空港へ着陸するデルタ・エアー・ラインズ・インクの航空機が存在しなかったためと承知しており、御指摘の「新たに採用された着陸方法の「安全性」が確認できていない」旨の同社の認識については把握していない。
問2:エアカナダ機がダイバートした理由について
問2-1:着陸方法への懸念があったと認識?
同機がダイバートするに至った経緯として、3.5度の降下角度を含む新飛行ルートの着陸方法への懸念があったと認識しているか。
問2-2:ダイバートするに至った経緯、その他に把握している内容は?
問2-1に関連して、同機がダイバートするに至った経緯と理由として、その他に把握している内容があればお答えいただきたい。
答2:「懸念」の有無については把握していない
お尋ねの「ダイバートした理由」については、御指摘の「2月2日」の時点において、エア・カナダが南風好天時経路の運航に向けた社内準備中であったためと承知しており、同社における御指摘のような「懸念」の有無については把握していない。
問3:パイロットへ、訓練の推奨や義務付け等を行う可能性は?
問1&問2に関連して、世界的に主要な航空会社であるデルタ航空社やエアカナダ機のこうした実際の行動は、新飛行ルートの急角度での着陸を客観的に検討した結果として、世界の主要空港に比して難度の高いものであると判断する慎重な立場が窺える。
こうした点を踏まえ、国内外の航空会社に対してパイロットへのシミュレーターによる新飛行ルートに対応する訓練の推奨や義務付け等を行う可能性はあるか。
答3:行うことは考えていない
3.5度の降下角を含む南風好天時経路における進入方式については、当該降下角が我が国及び諸外国の複数の空港の進入方式において採用されていることや、航空会社の協力により航空機の性能、気象等に係る複数の条件を設定した上でシミュレーターによる安全性の確認を行っていること等を踏まえ、安全性の問題はないものと考えており、南風好天時経路の運用に当たって「国内外の航空会社に対してパイロットへのシミュレーターによる新飛行ルートに対応する訓練の推奨や義務付け」を行うことは考えていない。
雑感
質問書と答弁書は別々の文書なので、上記のように一問一答形式に再構成しないと、内容を的確に把握することはできない。
それでも、3件の質疑応答を読んですぐに理解できる人は、羽田新ルート問題に関してかなり詳しいに違いない。
多くの人にとって、「航空路誌」や「3.45度のRNAV進入方式」といった専門用語の意味することは理解できないかもしれないが、松原議員の問題意識と政府の考え方を把握することは可能だ。
極めて簡単に言えば、次のとおりだ。
降下角3.45度という”急降下”を強いられる羽田新ルートの運用に対して、航空機パイロットの世界的連合体(IFALPA)から1月20日に懸念が表明されていたにも関わらず、国交省は1月30日から2月12日にかけて実機による試験飛行(実機飛行確認)を強行。
実際、デルタ機は実機飛行確認を回避し、エア・カナダ機は羽田への着陸を止め成田へ変更するという事案が発生した。
これにして政府は、デルタ事案に対しては「「安全性」が確認できていない」旨の同社の認識については把握していない」、エア・カナダ事案に対しては「「懸念」の有無については把握していない」と、お役所答弁で応じているのである。
あわせて読みたい(松原議員の質問主意書)
これまでに松原仁議員が提出した、羽田新ルートに係る質問主意書関連の記事:
※日付は本ブログで記事化した日
- 20年2月4日:「飛行経路指定」に関する大臣告示
- 19年12月16日:新飛行ルートの騒音調査
- 19年7月12日:区議会決議、公聴会、試験飛行、世論調査
- 19年6月13日:落下物防止のための洋上脚下げ
- 19年6月7日:京浜島の事業者・労働者への影響
- 19年6月6日:品川・渋谷区の見直しを求める決議への対応
- 19年5月31日:大田区との約束は!?
- 19年5月23日:低空飛行ルートの採用方法
- 19年5月23日:上皇陛下の仮住まい対策
- 19年2月26日:羽田空港への低空飛行問題
- 18年12月18日:羽田空港新飛行ルート案の変更