2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、羽田空港の国際線発着回数を増やすため、都心上空を飛行する羽田新ルート計画。羽田新ルート周辺の多くの住民が落下物・墜落事故の危険リスクや騒音などの影響を受けることになる。
どのくらいの住民が影響を受けるのか、そんな基本的なことさえ住民は知らされていない。
※羽田新ルートが通過する13区の分析結果:港区、新宿、品川、目黒、大田、渋谷、中野、豊島、北、板橋、練馬、江東・江戸川
国交省(政府)は情報周知に後ろ向き!?
住民説明会:開催延べ日数は減少
羽田新ルートの設定が予定されている区の多くでは、区議会が国に対して「教室型」(多数の意見交換による問題意識の共有化ができる)の説明会の実施を求めている。しかしながら、国交省は「オープンハウス型」(ふらっと来た人も「来場者」としてカウントできる)の説明会を中心に進めている。
これまでに開催された住民説明会は2年7か月(15年7月から18年2月)で延べ127日間・66会場、約1万6,800名が参加(内訳は次図)。
第3・第4フェーズは第1・第2フェーズと比べて開催延べ日数が約3分の1(=16日÷47日)と少なく、来場者数は大幅に減ったものの、逆に1日当たりの平均来場者数は増えている。
国交省は地域住民の関心の高まりを抑制するかのように、開催延べ日数を減らしているようにも見えてしまうのだが……。
パネル展示:各地での開催期間は3~7日
また、都庁をはじめ関連する自治体において延べ15か所で(8月13日現在、予定を含む)、羽田新飛行ルートに係る「情報発信拠点」の設置(パネル展示)が行われている。
各地での開催期間は3~7日。1週間を超えることはない。
※最新記事は、「30か所目!羽田新ルートのパネル展示@練馬区」参照。
「質問主意書」答弁にみる論点のすり替え
上述のように国交省は羽田新ルートの住民周知につき、回数だけは着実に実績を重ねている。
石井国土交通大臣は「引き続き住民や関係自治体の方々に丁寧な情報提供を行い、首都圏空港の機能強化についてご理解をいただけるよう努めて参りたい」としている(参議院 国土交通委員会18年4月3日)。
ところが、海江田衆議院議員(立憲民主)が18年7月13日に提出した質問主意書「羽田新飛行ルートに関する質問主意書」のなかで、「新たに騒音被害などの影響を受ける住民をどのくらいの数と把握しているのか」という質問に対して、政府答弁書では、「『新たに騒音被害などの影響を受ける住民』の意味するところが必ずしも明らかではない」として、騒音防止工事の助成対象を規定する法律に論点がすり替えられてしまっている(羽田新ルート|質問主意書(海江田議員)を読む)。
都内で騒音の影響を受ける住民の数を試算
どのくらいの住民が羽田新ルートの騒音の影響を受けるのか?
答えをはぐらかす政府に代わって試算してみよう。
「新たに騒音被害などの影響を受ける住民」の定義
羽田新ルートの運営によって「新たに騒音被害などの影響を受ける住民」とは、羽田新ルート直下から水平距離500m範囲に常住する人口のことと定義する。
水平距離500m範囲とした理由は、ルート直下と比べても依然として騒音の影響を大きく受けるエリアであるからだ(次図)。
試算方法
まず、政府統計e-Statで公開されている「地図で見る統計(jSTAT MAP)」にアクセスし、最新の国勢調査(2015年)の総人口数(常住人口)につき、250mメッシュ図を作成する。
次に、国交省が公開している「新飛行経路案の詳細図」に掲載されている「A滑走路到着ルート」「C滑走路到着ルート」などを250mメッシュ図に重ねる(次図は品川区の例)。
【メモ】
- 図中の数字は、250mメッシュ単位の常住人口(国勢調査時に調査地域に常住している人)を示す。
- ピンク色のエリアは、新飛行ルート直下から水平距離で500mの範囲を示す。
上図をもとに、羽田新ルート直下から水平距離500mの範囲(上図のピンク色エリア)の人口を集計する。
※水平距離500mの範囲の境界線が交差するメッシュについては、ピンク色面積が過半を占めている場合に人口集計の対象とする。
区民109万人(12%)が騒音の影響を受ける
23区のうち、羽田新ルート直下から水平距離500m範囲の人口の試算結果を次表に示す。
23区内で騒音の影響を受ける住民の数は100万人を超える(109万人)結果となった。総人口927万人に対して12%。
影響を受ける人口割合が大きいのは渋谷区54%(12万人)と中野区53%(18万人)。次いで、品川区31%(12万人)、港区30%(7万人)、板橋区30%(17万人)、練馬区30%(21万人)。
上表を分かりやすく可視化したのが次図。
※破線は悪天時のルート
各区の試算内容については、次の記事をご参照。
※以下、影響を受ける人口の割合が大きい順。
- 渋谷区民:5割(12万人)
- 中野区民:5割(18万人)
- 品川区民:3割(12万人)
- 港区民:3割(7万人)
- 板橋区民:3割(17万人)
- 練馬区民:3割(21万人)
- 新宿区民:3割(9万人)
- 豊島区民:15%(4万人)
- 目黒区民:8%(2万人)
- 江戸川区民:6%(4万人)
- 北区民:4%(1.2万人)
- 江東区民:0.4%(0.4万人)
- 大田区民:0.03%(約200人)
GDP増加策と引き換え、区民100万人の生活環境が脅かされる
観光ビジョンの目標である訪日外国人旅行者数2020年4千万人、2030年6千万人の達成などに向けた羽田新ルートによる増便計画。
GDPの増加策と引き換えに、区民100万人超の生活環境が脅かされる。
石井国土交通大臣は「引き続き住民や関係自治体の方々に丁寧な情報提供を行い、首都圏空港の機能強化についてご理解をいただけるよう努めて参りたい」としているが、これまでに開催された住民説明会の参加者は約1万6,800名(23区だけでなく、川崎市や埼玉県和光市での説明会参加者を含む)。
説明会参加者1.7万人は、騒音の影響を受ける区民100万人の2%にも満たない。
多くの訪日外国人を受け入れるために、羽田空港の国際線発着回数を増やすことが不可欠なのかどうか、そのことの功罪を広く国民に提示し、議論を尽くすべきではないのか――。