第196回国会(18年1月22日~7月22日)の質問主意書を眺めていたら、衆議院の質問主意書487件のなかに、448番目として「羽田新飛行ルートに関する質問主意書」が埋もれていることに気が付いた。
海江田万里衆議院議員(立憲民主)が7月13日に提出した質問主意書。7月24日付けで答弁書が受領されているのである。
質問数は大項目で5問。読みやすいように、一問一答形式に再構成してみた。
※各回答のあとに、筆者のコメントを朱書きしておいた。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければ幸甚。
- 1.羽田新飛行ルートによる地元に対する説明に関して
- 2.「首都圏空港機能強化の具体化に向けた協議会」について
- 3.首都圏の航空機の騒音被害について
- 4.羽田空港発着便増加について
- 5.羽田空港ルート変更による不動産価値の下落について
- 雑感
海江田万里 衆議院議員(7期、立憲民主党最高顧問、69歳)
1.羽田新飛行ルートによる地元に対する説明に関して
本年1月22日衆議院における施政方針演説で安倍晋三内閣総理大臣は、羽田空港の増便による飛行便数の変更について「地元の理解を得て、2020年までに・・」と述べている。
また、本年2月23日衆議院予算委員会第8分科会で蝦名邦晴国土交通省航空局長は、海江田万里分科員の質問に対し、「地域住民の皆さまの声に耳を傾けながら丁寧にご説明をして、ご理解を得るように努めてまいりたい」と答弁している。そこで、羽田新飛行ルートによる地元に対する説明に関して。
質問1-1:地元説明会の開催実績?
オープンハウス型説明会・教室型説明会について、それぞれ何処で、いつ行われ、何名が参加し、特に住民から出た意見は如何なるものであったか、明らかにしてほしい。
質問1-2:地元説明会の今後の予定?
特に住民の間では、教室型説明会を望む声が大きいが、今後、何時、何回、開催予定があるか、会場が決まっていれば、各々その会場名、開催時刻を明らかにしてほしい。
回答1-1&1-2:約1万6,800名が参加。丁寧な情報提供に引き続き努めて…
政府としては、東京国際空港(以下「羽田空港」という。)における新たな飛行経路案(以下「新経路案」という。)について、関係地域の地方公共団体及び住民の方々の幅広い理解を得るため、平成27年7月から平成30年2月にかけて延べ127日間、関係地域の延べ66会場で住民説明会を開催し、約1万6,800名の方に参加いただき、丁寧な情報提供を行うとともに、広報活動、環境対策、落下物対策等について御意見を伺ったところである。
また、関係地域の住民の方々等への説明会については、幅広い方々に丁寧な情報提供を行うため、御指摘の「オープンハウス型」を基本として実施しているところであり、今後の住民説明会については、現時点で具体的な予定は決まっていないが、関係地域の地方公共団体とも相談の上、丁寧な情報提供に引き続き努めてまいりたい。
※「教室型説明会・・・今後、何時、何回、開催予定があるか」という質問に対して、「現時点で具体的な予定は決まっていない」とかわされている。
質問1-3:騒音被害などの影響を受ける住民の数?
そもそも、今回の飛行ルート変更で、新たに騒音被害などの影響を受ける住民をどのくらいの数と把握しているのか。
回答1-3:(騒音防止工事助成が)新たに指定されるべき区域は生じない見込み
お尋ねの「新たに騒音被害などの影響を受ける住民」の意味するところが必ずしも明らかではないが、政府は、公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律(昭和42年法律第110号)の規定に基づき、騒音レベルが一定の値以上である区域を基準として、国土交通大臣が第一種区域、第二種区域又は第三種区域を指定し、騒音防止工事の助成等を行うこととなるが、羽田空港における新たな飛行経路の導入に当たっては、これらの区域として新たに指定されるべき区域は生じない見込みである。
※「『新たに騒音被害などの影響を受ける住民』の意味するところが必ずしも明らかではない」として、騒音防止工事の助成対象を規定する法律に論点をすり替えられてしまっている。
ここは「新飛行ルート直下水平距離500m・1km範囲の住民人口(高度別)」といったように質問の工夫が必要だろう。
2.「首都圏空港機能強化の具体化に向けた協議会」について
質問2-1:協議会設置の目的?
当協議会設置の目的、その役割を明らかにしてほしい。
回答2-1:関係者間で協議を行うために設置
首都圏空港機能強化の具体化に向けた協議会(以下「協議会」という。)は、首都圏空港の機能強化の具体化について、関係地域の地方公共団体や航空会社等の関係者間で協議を行うために設置したものである。
※海江田議員はどのような回答を期待していたのだろうか?
質問2-2:協議会の会議録は公開されるか?
これまでの協議会の会議録は、当然作成されていると思うが、それを公開すべきと考える(要旨は公表されている)。公開のつもりはあるか。
回答2-2:詳細な議事要旨を公表している
協議会は公開で行われており、その詳細な議事要旨を、各回の協議会終了後に作成し、国土交通省のホームページにおいて公表しているところである。
※わざわざ「要旨は公表されている」としたうえで会議録の公開予定を質問しているのに、「詳細な議事要旨だから十分でしょ」ともとれる回答。
国交省のHPに公開されている同協議会の「議事要旨」を読めば、会議録と「議事要旨」とでは全く異なることは一目瞭然。「議事要旨」に加え、会議録も公開すればいいだけの話ではないのか(手間は増えるが)。
質問2-3:協議会の開催予定は?
今後、協議会の開催予定はあるか。
回答2-3:予定は決まっていない
現時点で具体的な予定は決まっていない。
※海江田議員はどのような回答を期待していたのだろうか?
3.首都圏の航空機の騒音被害について
質問3-1:自治体からの「意見書」への対応?
すでに多くの自治体から「意見書」が国土交通大臣に提出されている。これらの意見書に対する対応はどうなっているのか。
回答3-1:騒音対策、落下物対策等を推進しているところ…
御指摘の「意見書」の意味するところが必ずしも明らかではないが、地方自治法(昭和22年法律第67号)第99条の規定に基づく意見書は関係地域の地方公共団体の議会から提出されており、これを踏まえ、騒音対策、落下物対策等を推進しているところであり、関係地域の地方公共団体及び住民の方々に丁寧な情報提供を行っているところである。
※漠然とした質問には、漠然とした回答しか得られない。
質問3-2:昭和56年の確認書「航空機騒音問題を抜本的に解消する」の扱い?
特にこれまで東京都並びに東京都江戸川区・大田区・品川区・神奈川県川崎市などの自治体と大田区内の一部企業と国は騒音対策などで、確認・合意を交わしているか。それらの確認、合意は将来にわたって有効か。特に昭和56年8月に当時の品川区長、大田区長立ち合いのもと、運輸大臣と東京都知事の間で交わした確認書には「航空機騒音問題を抜本的に解消する」との文言がある。こうした確認・合意は当然、今後も守られるべきと考えるが、今回の飛行ルート変更で、これまでの確認、合意の変更が必要ならその話し合いをどう進める予定か。
回答3-2:「航空機騒音問題を抜本的に解消する」との記載はない
お尋ねの「合意」の意味するところが必ずしも明らかではないが、国土交通省と東京都、東京都品川区、大田区及び江戸川区並びに神奈川県川崎市との間で羽田空港の運用方針等について必要に応じて確認を行っており、その後の状況変化を踏まえ、関係者間で協議を行い、当該運用方針等を変更することはあり得る。また、御指摘の「昭和56年8月」に「運輸大臣と東京都知事の間で交わした確認書」については、当時の羽田空港の沖合展開計画について交わしたものであるが、当該確認書においては、御指摘の「航空機騒音問題を抜本的に解消する」との記載はない。政府としては、羽田空港の新経路案については、関係地域の地方公共団体及び住民の方々の幅広い理解を得るため、丁寧な情報提供を行っているところである。
なお、現時点で把握している限りでは、国土交通省と御指摘の「大田区内の一部企業」との間で「騒音対策など」に関して交わした文書は存在しない。
※「現時点で把握している限りでは・・・交わした文書は存在しない」。国会の参考人質疑や証人喚問でよく耳にした物言いである。
4.羽田空港発着便増加について
質問4:D滑走路が供用されている現在、実際の「時間値」は?
羽田空港発着便増加によって、「時間値」80便を90便にすると聞くが、D滑走路が供用されている現在、実際の「時間値」はどうなっているか。
回答4:1時間当たりの発着回数の上限を80回に設定
羽田空港においては、午前8時から午後10時までの間、1時間当たりの発着回数の上限を80回に設定しており、それ以外の時間帯については、環境面への配慮等により、これより少ない発着回数に設定しているところである。
※海江田議員はどのような回答を期待していたのだろうか?
5.羽田空港ルート変更による不動産価値の下落について
質問5:羽田空港ルート変更による不動産価値の下落をどう考えるか?
本年3月に「落下物対策総合パッケージ」が取りまとめられたが、これで、落下物がゼロになるわけではない。引き続き落下物リスクは存在する。その上、万々が一に重大事例が発生するリスクも存在し、新ルート下のマンション等の住宅資産価値の減価がすでに報じられており、民間の不動産鑑定士の減価予想額も算出されている。国としては、羽田空港ルート変更による不動産価値の下落をどう考えるか。
回答5:直ちに不動産価格を低下させるとは一概に言えない
不動産価格は交通利便性や周辺の開発状況等の様々な要因により変動することから、羽田空港における飛行経路の見直しが直ちに不動産価格を低下させるとは一概に言えないと考えている。
※「航空機の⾶⾏と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を⾒出すことは難しい」という国交省の見解はブレてない(羽田空港の機能強化 新飛行ルートによる不動産価値への影響は?)。
雑感
一般の人が読んでもピンとこない質問主意書
質問書(約1,300文字)と答弁書(約1,600文字)は別々の文書なので、上記のように一問一答形式で並べてみないと、内容を把握することはできない。
一問一答形式に再構成してみたものの、羽田新飛行ルートの背景情報を知らなければ、理解は進まないだろう。海江田議員の質問内容は、羽田新飛行ルート問題の深い理解が前提となっているので、一般の人が読んでもピンとこないかもしれない。
せっかくの質問主意書・答弁書も世間に伝わらなければ、会議事録の肥しとなるだけだ。
直ちに不動産価格を低下させるとは一概に言えない!?
このブログ読者の多くは不動産価値に興味を持っているだろうから、5番目の質問(羽田空港ルート変更による不動産価値の下落)に着目されるといいだろう。
政府は「羽田空港における飛行経路の見直しが直ちに不動産価格を低下させるとは一概に言えないと考えている」と回答している。
この「直ちに」と「一概に」がなんともクセ者だ。
直ちに(すぐに)ではなく、一概に(おしなべて)でない場合には、不動産価格に影響がある余地を残している。
質問内容がちょっと細かすぎるのではないか
海江田議員の質問内容を熟読した筆者の率直な印象は、「ちょっと細かすぎるのではないか」ということ。
「事故の被害想定」や「新飛行ルート運用開始までの具体的スケジュール」についても質問してほしい(想定していないとか、関係者と調整しながら進めていくと、はぐらかされてしまうかもしれないが)。
また、住民説明会の参加者が少ないこと(約1万6,800名)など既に分かっているのだから、実際にどの程度の住民が羽田新飛行ルートの問題を認識しているのか、世論調査の実施を提案してほしい。
※詳しくは、「羽田新飛行ルート問題|国交省に聞きたい7項目」ご参照。
質問をかわされない工夫を!
「教室型説明会・・・今後、何時、何回、開催予定があるか」(質問1-2)という質問に対して、「現時点で具体的な予定は決まっていない」とかわされてしまっている。
漠然とした質問(質問3-1:自治体からの「意見書」への対応?)には、漠然とした回答しか得られない。
また、「騒音被害などの影響を受ける住民の数(質問1-3)」を漠然と聞いても、「『新たに騒音被害などの影響を受ける住民』の意味するところが必ずしも明らかではない」とかわされてしまっている。ここは「新飛行ルート直下水平距離500m・1km範囲の住民人口(高度別)」といったように質問の工夫が必要だろう。
あわせて読みたい