国交省の「丁寧に説明する」努力をしているように見せかけているステルス広報作戦が功を奏して、羽田新ルート問題をよく理解していない人は、まだまだ多い。
忖度なしのFAQ(よくある質問)をまとめておいた。
- 羽田増便のホントの狙い
- どこを飛ぶのか?
- いつから飛び始めるのか?
- 何人くらい悪影響を受けるのか?
- 騒音の影響はどのくらいあるのか?
- 落下物・墜落事故の可能性はどのくらいなのか?
- 不動産価格への影響はあるのか?
羽田増便のホントの狙い
国は首都圏の国際競争力強化や訪日外国人旅行者の受け入れなどのために羽田空港の増便が必要だとしている。また、成田空港はすでにフル稼働であることも羽田増便の理由のひとつに掲げている。
ホントにそうだろうか。
デルタ航空は、羽田空港の発着枠拡大に伴い首都圏での事業の全てを羽田空港に移管し、成田空港から20年夏までに完全撤退するとしている。また、ユナイテッド航空も、成田~シカゴ・ワシントン線を羽田への移管。カンタス航空も羽田~メルボルン線を成田から移管。スカンジナビア航空も羽田~コペンハーゲン線を成田から移管。・・・成田空港がフル稼働しているから羽田増便は不可壁という大義は失われているのである。
では、なぜ国は強行に羽田増便を推進しているのか。ホントの理由は二つ。
一つは、米国の国益に応えるため。USTR(米国通商代表)の「2018年外国貿易障壁報告書」には羽田増便への期待が記されている。
もう一つは、第5滑走路増設への布石。
羽田新ルート計画(年間3.9万回増便)はほんの序章に過ぎない。第5滑走路(E滑走路)の増設で国際線の発着枠はさらに年間13万回も増加するからである(次図)。
「羽田新ルート|次は第5滑走路の増設!? 」より
どこを飛ぶのか?
南風時と北風時で運用ルートが異なる。
グーグルマップを作成したので気になる場所をチェックしよう。
南風時、到着ルート(都心低空飛行)
- 南風時(運用全体の約4割)の午後3時から7時のうち3時間、新宿⇒渋谷⇒港⇒目黒と降下。品川上空では、東京タワーよりも低い高度300mで飛ぶ。
- 「A滑走路到着ルート」は1時間当たり14回(4分17秒ごと)、「C滑走路到着ルート」は1時間当たり30回(2分ごと)の頻度で、上空から騒音が降り注ぐ。
南風時到着ルート - Googleマップ
南風時、出発ルート(川崎市上空)
- 南風時(運用全体の約4割)の午後3時から7時のうち3時間、B滑走路を出発し、川崎上空を飛行する。1時間当たり20回(3分ごと)の頻度で、上空から騒音が降り注ぐ。
北風時、出発ルート(荒川沿い北上)
- 北風時(運用全体の約6割)、午前中(7時~11時半)と午後(15~19時のうちの3時間)、C滑走路を出発し、荒川に沿って北上する。
- 1時間当たり23回(2分36秒ごと)の頻度で、上空から騒音が降り注ぐ。
※羽田新ルートが通過する23区の町丁目地図はこちら。
いつから飛び始めるのか?
実機試験飛行(20年1月29日~3月11日)
乗客を乗せた旅客機で試験飛行が実施されるのは、20年1月30日~3月11日の1か月余りの期間だ。特に都心上空を通過するルートでの試験飛行は2月1日~3月11日の15~19時。
都心上空を通過するルートの運用は南風時に限られる。例年、南風が吹き始めるのは4月(次表)。したがって、住民が試験飛行で大型旅客機を現認する機会は少ない。年度末に向けて新築マンションの完売を目指す不動産会社にはありがたい状況が続く。
本格運用(20年3月29日~)
本格運用は20年3月29日、夏ダイヤから始まる。
何人くらい悪影響を受けるのか?
羽田新ルートで騒音の影響を受ける住民はどのくらいいるのか。これまで国交省も東京都も明らかにしたことはない。また、そのことを追求したマスメディアもいない。
筆者の独自調査によれば、最低でも23区で100万人規模の住民が被害を受ける。
「羽田新ルート|騒音影響を受ける区民「100万人超」」より
騒音の影響はどのくらいあるのか?
大型機(777-300)の飛行騒音はルート直下で次の通り。
- 浦和駅(埼玉県):約70dB
- 光が丘(練馬区):約70dB
- 新宿駅周辺:約70dB
- 広尾駅(港区):約72dB
- 品川駅周辺:約76dB
埼玉の県南、すなわち、さいたま市の一部(浦和区、南区、桜区)、朝霞市の東側、和光市のルート直下にも70dBの騒音が降り注ぐ(次図)。
「埼玉県民にも騒音が降り注ぐ」より
飛行高度(地域)によって違いはあるものの、羽田新ルート直下から1km離れたくらいでは騒音の影響からは逃れない(次図)。
羽田新ルートによる騒音や不動産価値への影響などが気になる人は、「羽田新ルート|自分が住んでいる場所の騒音レベルを簡単に知る方法」参照。※調査対象は羽田新ルートのうち、着陸ルートのみ(離陸ルートは対象外)。
落下物・墜落事故の可能性はどのくらいなのか?
国交省は落下物や墜落事故に対して、未然防止策の徹底と補償の充実を謳っている。このことは落下物・墜落事故の可能性がゼロでないことを意味している。
落下物の可能性
2015年度に全国で航空機からの落下物が報告されたのは54件。重いものになると5kgを超える(次図)。
また、政府答弁によれば、11か月間(18年11月1日~19年9月30日)に発生した部品欠落の報告件数は518件。「航空機の部品欠落情報の報告制度」開始後の23か月間(17年11月9日~19年9月30日)の件数は917件。
つまり、同制度が導入されて、部品欠落が減るどころか増えている(減っていない!)ということになる(次図)。
墜落事故の可能性
御巣鷹⼭事故(1985年)のような大事故が起きたことは極めてショッキングではあるけれど、その後、日本の定期航空会社による墜落事故は発生していない(1994年4月26日に中華航空140便の墜落事故(死者264人)は発生している)。
一方、約30年以内の発生確率70%の首都直下地震で死亡するのは、23区では最大約1万1千人が想定されている。千人あたり1.2人。
あなたが羽田新ルート下で墜落事故に巻き込まれるよりも、首都直下地震で死亡する可能性のほうがはるかに高いのである。
不動産価格への影響はあるのか?
「航空機の⾶⾏と不動産価値の変動との間に直接的な因果関係を⾒出すことは難しい」というのが国交省のスタンス。
でも、筆者の独自調査によれば、羽田新ルートの影響は、騒音レベルが高い品川区や港区の中古タワマン相場に一部織り込まれていることが分かる(次図)。
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