老人ホームの実態を知り尽くした有料老人ホームのコンサルタント小嶋勝利氏(不動産開発会社⇒介護職⇒施設長⇒コンサル会社設立)の『もはや老人はいらない!』ビジネス社(2020/7/4)を読了。
過激なのは書名だけではない。マスメディアでは知り得ない老人ホームのシビアな実態が具体例とともに描かれている。老親を抱える世代や遠からずお世話になる世代に強くおススメしたい1冊。
※朱書きは、筆者コメント。
24時間看護師常駐は、必要なサービスなのか?
老人ホームで24時間看護師が常駐している必要はないという著者の主張。
24時間看護師常駐は、本当に必要なサービスなのか?
(前略)入居希望者かその家族の陥る勘違いの最たる例が、「24時間看護師常駐ホーム」への信仰心です。24時間看護師常駐ホームとは何かと言うと、その名の通り24時間365日にわたり看護師が常駐しているホームです。当然、24時間看護師が常駐している分、経費が掛かります。したがって利用料金も近隣の同等グレードの老人ホームと比べて、数万円程度割高になっています。
つまり入居後に、その余計な数万円の負担に対する優位性を「看護師」が配置されているという事実で見出せるかどうかを判断しなければなりません。(中略)
しかし、よく考えてみてください。もし夜間にあなたの体調が急変した場合、その後の対応はどのようになるのでしょうか?
多くの場合、ホームが救急車を呼び、病院へ搬送してもらうだけです。当然、多くの入居者が生活をしている老人ホームの場合、看護師があなたに付き添って一緒に救急車に乗り、病院に行ってくれることはまずありません。救急隊が来たら後は彼らに引き渡されるだけです。(以下略)(P72-73/第2章 行き場を失う老人たち!)
※老人ホームに限らず、新築マンションでも販促のために購入者にとって無用なサービスや設備が付いていることが多い。焼き立てパン販売サービスや「無料」シャトルバス・スクールバスが本当に必要なのかよく考えよう。
老人ホームは必要に応じて住み替えることが重要
自立の高齢者は自立用の老人ホームに人居すべきで、自分が要介護状態になった時のことまで考えてホーム選びを検討することはナンセンスだという。
老人ホームは必要に応じて住み替えることが重要。終の棲家の言葉に騙されてはダメ
(前略)私は、自立の高齢者は自立用の老人ホームに人居をすることを提唱しています。しかし多くの入居希望者は自分が要介護状態になった時のことまで考えて、ホーム選びを検討しています。この行動は私に言わせると「ナンセンス」です。無駄です。
老人ホーム選びで一番重要なことは、今の最適を考えればよいということです。(中略)
まず自立の高齢者が数年先に来るかもしれない自分の要介護状態に備え、安心のために要介護高齢者が大勢入居している老人ホームに入居したとしましょう。その老人ホームでは、要介護高齢者に対する介護支援を中心とした老人ホーム運営フォーメーションになっていて、要介護高齢者にとっては安心安全な運営になっています。
しかし自立の高齢者に対する介護支援は、具体的には「何もない」と考えるべきなのです。自立の高齢者にとっては毎日、毎日、我慢の連続です。さらに言えば、老人ホームが期待している収入の多くは介護保険報酬なので、介護保険報酬が見込めない自立の高齢者は老人ホームにとって良い入居者とは言えません。(以下略)(P8-79/第2章 行き場を失う老人たち!)
※自立用の老人ホームから要介護施設への住み替えが必要という著者の指摘は極めて真っ当。
人生100年時代の住宅すごろくは、シニア向け分譲マンションやサ付き高齢者住宅では終わらない。有料老人ホームだって終の棲家にならないのである。
素人の口コミなど参考にしてはならない
多くの入居者やその家族は初めて老人ホームに入居するため他のホームとの比較ができない。自分の価値観だけで評価してしまうので、素人の評価はあてにはならないという。
素人の口コミなど参考にしてはならない
(前略)大事なところなので何度も言いますが、老人ホームに良い悪いはありません。あるのは、あなたに合っているか、合っていないかだけです。その理由は、前記したように老人ホームには流派流儀があるからです。
したがっていわゆる「ロコミ」を鵜呑みにして、ホーム探しをすることは金輪際やめてください。
乱暴な言い方をすれば、料金の安いホームより高いホームのほうが良いに決まっています。ホテルだってレストランだって、高級なほうがサービスは優れているし、食事もおいしいに決まっています。
介護の質だって、お金次第なのです。忘れてはならないことは、その「お金」を支払う能力が自分にあるかどうかです。もし、ないという判断であれば、それ相応のところで我慢する、または納得するしかありません。(中略)この料金ならこの程度のサービス、というのがあるのです。しかし多くの入居者やその家族は初めて老人ホームに入居するため他のホームとの比較ができないので、自分の価値観だけで評価してしまうのです。だから素人の評価はあてにはならない、ということなのです。
(P185-186/第4章 それでも知りたい老人ホーム選びのポイント)
※老人ホーム選びは、マンション選び以上に失敗が許されない。失敗をリカバーすることが体力的にも経済的に困難である可能性が高いからだ。
体力・気力が充実しているうちに、住宅すごろくの最終段階の知見を蓄えておきたい。
本書の構成
全6章、235頁。
序章 高齢者に希望はあるのだろうか?
第1章 高齢者の実態は、こう変わってきた
第2章 行き場を失う老人たち!
第3章 介護の現場のウソと真実
第4章 それでも知りたい老人ホーム選びのポイント
終章 メメント・モリ
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