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老化への誤解と偏見を解く良書!『老いと記憶』

スタンフォード大学長寿センター客員研究員、増本康平著『老いと記憶』(中公新書)を読了。

人生100年時代に向けて、中高年が認知症になる前に把握しておきたい情報が詳しく記されている。高齢者心理学の観点から、老化への誤解と偏見を解く良書!


もくじ

老いと記憶

脳トレ、認知機能のパフォーマンスを改善するという根拠はほとんどない

脳トレは、訓練と関連しない課題の成績や目常生活での認知機能のパフォーマンスを改善するという根拠はほとんどないと結論づけられている。

訓練の効果の特徴

(前略)イリノイ大学のシモンズ博土らは商業的な脳トレについて80ページにわたる詳細なレビューを行い、脳トレは訓練した課題の成績を改善するものの、訓練と関連する課題成績を改善するという証拠は少なく、訓練と関連しない課題の成績や目常生活での認知機能のパフォーマンスを改善するという根拠はほとんどないと結論づけています

 計算がどれほど速く正確にできるようになっても、人の名前を覚えられるようになるわけではありません。特定の情報に対する記憶力をどれだけ鍛えても、日常生活で物忘れやし忘れがなくなることは期待できません。特定の課題を訓練した結果得られた効果が、他の認知課題や日常生活機能の改善に結びつくには限界があり、脳トレの点数が数点あがることは、日常生活の物忘れが一つなくなることを意味しないのです。

(P95-96/第3章 訓練によって記憶の衰えは防げるのか)

※要介護度は低くても徘徊行動の見られる認知症高齢者がサ高住から退去を迫られるケースが増えている。
⇒「人生100年時代の住宅すごろく|あと何年マンションに住めるのか?

認知機能の低下の予防と改善には運動

認知機能の低下の予防と改善において、その効果が一貫して研究で支持されているのが体を動かすこと、運動だという。

適度な運動

(前略)現在、認知機能の低下の予防と改善において、その効果が一貫して研究で支持されているのが体を動かすこと、運動です。(中略)

 コルコム博士らは、複数の研究データを統合して再度分析を行った結果、運動トレーニングによって実行機能、処理速度、制御機能、空間処理機能が向上することを報告しました。特にこの結果で興味深いのは、認知的な負荷が高い複雑な課題のほうが、認知的な負荷が低い課題よりも運動による成績の向上が顕著にみられたことです。

 運動トレーニング前後で脳の活動量を比較した研究は、前頭葉や頭頂葉の活動が運動トレーニング後に活発になることを報告しています。また、脳の活動量が増加するだけでなく、運動トレーニングによって、加齢とともに萎縮する前頭葉や頭頂葉の灰白質の体積が増加することも報告されています。(以下略)

(P127/第4章 認知症予防および低下した認知機能の改善に向けて)

※カナダで実施された200万人近くの大規模調査で、幹線道路の近くに住むと認知症のリスクが高まるとの結果。50m以内で認知症の発生リスクが7%高くなる。
⇒「認知症リスク高い!?幹線道路沿いのマンション

世帯年収が600万円程度を超えると幸福感に違いがない

600万円程度を超えると、収入が億を超える人まで含めて幸福感に違いがないという。

物質的な環境で幸福感は説明できない

(前略)世帯年収が普通の生活を送るのに必要な一定水準(研究によってばらつきはありますが大体600万円程度)を超えると、収入が億を超える人まで含めて幸福感に違いがありません

 また、人生の満足感率幸福感に影響すると多くの人が考えているものに、お金、外見的魅力、教育レベル、客観的な健康などがあります。しかし、これらは幸福感にそれほど影響しないことを多くの研究が一貫して示しており、収入や住環境といった個々人を取り巻く環境では、幸福感の10%しか説明できないといわれています。

 一方で幸福感に影響するものとして楽観主義、外向性、社会的つながり、宗教やスピリチュアリティ、趣味、良い睡眠と運動、主観的な健康といった要因があります。(以下略)

(P167/第5章 高齢期の記憶の役割)

※金融庁が検討を進めている「ファイナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)」は、幸福感につながるのか……。
⇒「フィナンシャル・ジェロントロジー!「高齢社会における金融サービスのあり方」(金融庁)

本書の構成

全5章、206頁。

  • 第1章 衰える記憶、衰えない記憶
  • 第2章 記憶と物忘れ
  • 第3章 訓練によって記憶の衰えは防げるのか
  • 第4章 認知症予防および低下した認知機能の改善に向けて
  • 第5章 高齢期の記憶の役割

老いと記憶

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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