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東京研究の集大成!『水都 東京』(ちくま新書)

水都 東京 ――地形と歴史で読みとく下町・山の手・郊外』ちくま新書(2020/10/9)を読了。

建築史、都市史を専門とする陣内秀信法政大学名誉教授の労作。サントリー学芸賞受賞『東京の空間人類学』から35年。東京研究の集大成というだけあって、かなり読みごたえがある。

朱書きは、私のメモ。


もくじ

清澄白河に生まれた新たな動き

かつての花街、清澄白河駅ができたこともあって、この界隈に元気が戻ってきたという。

清澄白河に生まれた新たな動き

この隅田川の東側は、かつては掘割がめぐる水都で、その基層に漁師町、宗教空間、花街、本場、名所・行楽地といった独特のトポスを受け継いできた。だが戦後。舟運が失われ、木場が新木場に移り、花街もなくなって個性が薄れた江東区は、交通至便な都心だけにマンションが並ぶ単なる住宅地になりかかっていた。本来のアイデンティティを失うのでは、と心配な時期があったのだ。

だが幸い、そうならずにすんだ。なかでも、この10年ほどの「清澄白河」エリアの動きには目を見張らされる。東側の木場公園に東京都現代美術館(MOT)があり、直近に地下鉄大江戸線・半蔵門線の清澄白河駅ができたこともあって、この界隈に元気が戻ってきたのだ

シャッター街になりかかっていた資料館通りのまわりに、古い建物をリノベーションしたアートーギャラリーが次々に登場。さらには、木材商の倉庫、町工場の建物が活かされ、近年では、ブルーボトルコーヒーをはじめとする酒落たコーヒー店が続々と誕生し、新たな経済活動が生まれ、文化の発信を始めたのだ。(以下略)

(P110-111/第3章 江東―「川向う」の水都論)

※SUUMO住みたい街(駅)ランキングでは、清澄白河駅は77位(20年)・90位(19年)。水都のなかで人気上昇中であるが、洪水によって想定される浸水深が「0.5m~3m」であることに留意したい。

ベイエリア開発は再考を

ポスト東京2020オリンピック・パラリンピックをも見据え、東京のベイエリアの開発を根本から考え直すことが必要だという。

ベイエリア開発は再考を

一方、東京では、臨海部の開発となると、ディベロッパーが進める高層マンション群を中心とする従来型の開発となる傾向がいまだに強い。現代の東京には発想の転換が必要である。人々にとって居心地のよい、そして社会性と歓びが得られるような都市空間が生まれることが望まれる。

そもそもタワー型マンションばかりが建ち並ぶ姿は、今後求められるサステイナブル(持続可能)な都市発展とは逆行するものであろう。時代の価値観の変化に応じて変身できる多様性をもった開発が望まれる。機能の複合化、住み手や働き手の多様化、そして既存の倉庫、施設なども活用した建築の多様性が必要である。その多様性を、先に見たアーキペラゴの発想と重ね、ベイエリアに新たな都市空間を創っていきたい。

そこでは、東京湾の自然の恵みを生かし、江戸前の魚を中心とした食文化が楽しめるし、豊かな生態系をもつ水に囲まれた環境の中に、生活と仕事と楽しみの空間が実現するだろう。それでこそ、世界のなかでの東京の固有の魅力をアピールすることに繋がる。

ポスト東京2020オリンピック・パラリンピックをも見据え、東京のベイエリアの開発を根本から考え直すことが、今、必要だと思う。

(P157-158/第4章 ベイエリア―開発を基層から考える)

※19年10月に公表された官民連携チームの提案書「東京ベイエリアビジョン」には「サステイナブルな社会の実現」として、テクノロジーを生み育てていくことが掲げられている。そこにはアーキペラゴ(群島・多島海)の発想はあるのか……。

ポストコロナ社会の価値観

都心一極集中からの脱却、分散型社会への移行が現実のものとなってきたという見方。

あとがき

(前略)この間のテレワークの普及とともに、都心一極集中からの脱却、分散型社会への移行が現実のものとなってきた。郊外に再び光が当たる。それとともに身近な地元、地域の再発見が進み、ローカルーコミュニティ、人々の居場所、コモンズが再評価される。都心に縛られず、本来の江戸の近郊農村、田園だった武蔵野や多摩の隠れた魅力や眠っていたポテンシャルを描く新たな東京水都論は、ポストコロナ社会の価値観とも一致するはずである

一方、ニューヨークのレストランが室内の使用を禁じ、戸外のテーブルの営業を認める方針をとっているのも示唆に富む。日本もこれを機に、水辺や路上の外部の公共空間を、豊かに使う方向に発想転換すべきだ。また、東京都が社会実験をすでに行った水上バスによる通勤の試みは、満員の通勤ラッシュを避けるにも有効で、今後、よりリアリティがでてくるに違いない。(以下略)

(P321/あとがき)

※コロナ禍によるテレワークの流れが一過性で終わるのか、社会に定着していくのか。流れを読み違えるとマンション選びでババをつかむことになりかねない。

本書の構成

9章構成。全334頁。

  • 第1章 隅田川―水都の象徴
  • 第2章 日本橋川―文明開花・モダン東京の檜舞台
  • 第3章 江東―「川向う」の水都論
  • 第4章 ベイエリア―開発を基層から考える
  • 第5章 皇居と濠―ダイナミックな都心空間
  • 第6章 山の手―凸凹地形を読みとく
  • 第7章 杉並・成宗―原風景を探る
  • 第8章 武蔵野―井の頭池・神田川・玉川上水
  • 第9章 多摩―日野・国分寺・国立

水都 東京 ――地形と歴史で読みとく下町・山の手・郊外

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