不動産プロデューサー牧野知弘氏の新著『不動産の未来 マイホーム大転換時代に備えよ』朝日新書(2022/3/11)を読了。
多額のローンを組んで高騰したマンションを購入する庶民の行く末を案じている著者。
※朱書きは、私のメモ。
住宅ローンの延滞、不動産と金融のリテラシー欠如
住宅ローンの延滞。あまりに不動産と金融についてのリテラシーがなさすぎるという厳しい評価。
住宅ローン破綻
(前略)不動産マーケットについてさして知見もないのに、みんなが買っているから値上がりするかもしれない、あるいはこんなに人気があるのなら大丈夫、早く買わないとなくなるかもしれない、これらの考え方は投資の世界では極めて危険な思考回路だ。
こうした考えのもとで住宅を買った人たちが、コロナ禍を契機に転落を始めている。多くの人は家を買う時に、自己資金は数百万円から1000万円程度。年収の7、8倍から十数倍もするような住宅を、夫婦ダブルローンなどで買っている。
今のローン延滞はコロナ禍で給料が減った、勤務先を解雇された、パート仕事がなくなったなどの理由によるものが多い。住宅ローンを目一杯借りて、家を買うことのリスクを事前に想定していないからだ。あまりに不動産と金融についてのリテラシーがなさすぎるとしか私には思えない。(以下略)
(P29-30/第1章 不動産大転換)
※破綻先債権比率(住宅ローン破綻率)は、14年度以降0.3%で推移している。つまり千人に3人の割合で住宅ローン破綻しているということ。
「住宅ローン破たん・条件変更データを可視化 ※随時更新」より
マンションの値上がりしてほしい症候群の末路
未来の晴海フラッグに象徴されるように、「値上がりしてほしい症候群」にとり憑かれた人たちの中で果実を手にする人たちがごく一部であることはこれまでの時代が証明しているという。
マンションの値上がりしてほしい症候群の末路
(前略)現代の日本のマンションマーケットには、晴海フラッグに群がるような札束を握りしめた投資家たちが跋扈している。彼らは当然のことだが、自分たちが買う物件についてネガティブな情報が流れることを嫌う。出口が見えにくくなるからだ。そのためにはいろいろな演出をする。
こうした騒ぎではいつも被害を受けるのはこのバカ騒ぎに乗っかって追随する素人さんたちだ。ましてや自宅として夫婦ダブルローンを組んで参戦する人たちには、投資マーケットは意外に冷たいものだ。この構造は株式マーケットと変わらない。かつて証券市場でもNTT株を巡るフィーバーがあった。
煽って踊る阿呆がいれば、つられて踊って大損する阿呆がいる。投資マーケットは恐ろしい。未来の晴海フラッグに象徴されるように、「値上がりしてほしい症候群」にとり憑かれた人たちの中で果実を手にする人たちがごく一部であることはこれまでの時代が証明しているし、これからの未来においてもこの法則は一緒なのである。
(P200/第6章 不動産投資の虚妄)
※消費者金融に10年間勤務したのち不動産業界に転身した屋敷康蔵氏による『人生を賭けて「家」を買った人の末路』(PHP研究所)。消費者金融と住宅営業の経験を踏まえた「夢のマイホームを手に入れるための不愉快極まりない現実」が描かれている。
買った住宅も必ずや値上がりするだろうとの妄想を胸に
多額のローンを組んで高騰したマンションを購入する庶民の行く末を案じている著者。
不動産の未来
(前略)東京一極集中になったがゆえに、地価が高く、生活コストが高い東京に住まなければならない、そのために人生のすべてを売り渡すような超長期かつ多額の住宅ローンを組む。一人では返済できないので夫婦ダブルで借金地獄への道を選択してしまう。なぜこんなに住宅だけ価格が上がってしまうのだろう。でもここで頑張って買えば、自分たちの買った住宅も必ずや値上がりするだろうとの妄想を胸に。
だが社会は冷酷だ。マンション価格はなぜ上がっているか。投資のおもちゃになっているからだ。そして節税という目的を達成するがために、どんなに価格が高くても、そのほうが節税効果も高まるからと、とんでもなく高い価格でも買ってしまう高齢富裕層に価格を歪められていることに、必死にローンを組んで買う夫婦は気づいていないのだ。(中略)
こんな宴につきあわされて、マンション上がる街、下がる街といった雑誌の特集を、目を皿のようにして読み漁る一般庶民が気の毒でならない。(以下略)
(P244-245/第7章 不動産の未来)
※住宅ローン破たん件数は、05年度の2万5千件をピークに年々減少し、20年度は8千件。政府の様々な支援策が功を奏しているのか、20年度は新型コロナの影響が見られない。
本書の構成
7章構成。全252頁。
- 第1章 不動産大転換
- 第2章 民族大移動
- 第3章 相続大異変
- 第4章 多元化する不動産
- 第5章 災害に備えよ
- 第6章 不動産投資の虚妄
- 第7章 不動産の未来
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