練馬区の区議(共産)から、117件の陳情が審議もされず「塩づけ」になったというツイートが流れてきた。どういうことなのか調べてみたら、練馬区議会の闇が垣間見えたという話……。
※委員会での議論の過程を示す言葉が「審査」で、本会議での議論の過程を示す言葉が「審議」。以下の文章では使い分けている。
※投稿22年3月21日(追記22年3月22日)
- キッカケは練馬区議会議員のツイート
- 21年の新規陳情、27件のうち3件「採択」
- 「採択」されなかった陳情の審査状況(一例)
- 自公、正副委員長をほぼ独占
- 【追記】なぜ、自公は正副委員長をほぼ独占できているのか
キッカケは練馬区議会議員のツイート
練馬区議会議員から興味深いツイートが流れてきた。
117件の陳情が審議もされず「塩づけ」になったというのだ。
定例議会が閉会した昨日、117件の陳情が審議もされず「塩づけ」になった。#練馬区 議会には10の委員会があるが、陳情審査のいかんは各正副委員長を独占する自公議員が采配を握る。「陳情の速やかな審査」を求める陳情まで提出される始末であり、議会が区民からの陳情を葬るなど許されない。
「塩つけ」になった陳情のなかには、羽田新ルート関連の2件も含まれている。
- 陳情第 128 号 羽田空港新ルート運用の一時凍結とチラシ掲載について
- 陳情第 131 号 羽田空港新ルート運用の一時凍結を求めることについて
一体どのような審査が行われたのか。残念ながらまだ、議事録画公開されていないので詳細を確認することはできない。
「陳情審査のいかんは各正副委員長を独占する自公議員が采配を握る」という10の委員会でどのような審査が行われているのか、議事録が公開されている21年の陳情で確認してみよう。
21年の新規陳情、27件のうち3件「採択」
「練馬区議会 会議録検索システム」を使って、「継続審査申出案件一覧」で検索をかけることで調べることができる(ただし、一筋縄ではいかないが)。
21年の新規の陳情は全部で27件(第93号~第119号)。請願はゼロ。そのうち「採択」されたのは次の3件。いずれも第3回定例会で可決されている。
※審査結果は、「結果の出た請願・陳情」で確認することができる。
- 第98号「就労継続支援事業所における工賃の改善を求めることについて」保健福祉委員会
- 第109号「固定資産税及び都市計画の軽減措置継続についての意見書提出について」区民生活委員会
- 第110号「固定資産税及び都市計画の軽減措置継続についての意見書の提出について」区民生活委員会
第109号と第110号は件名だけでなく、内容も全く同じなのだが、なぜこのような処理がされているのかは不明。
※第109号と第110号の陳情の件名・内容が同じであることにつき、練馬区議会に照会中(3月21日)。
「採択」されなかった陳情の審査状況(一例)
さて、採択されなかった24件は一体どのような審査がなされたのか。
第94号陳情「学校情報化施策のさらなる推進について」を例に議事録を確認してみよう。
同陳情の審査は「文教児童青少年委員会」(定数10人)に付託されている。
事務局が陳情書を読み上げた後、委員長の進行によって、2人の委員が質問というより資料の請求をしている。
- 小林委員長:いかがでしょうか。
- 岩瀬たけし委員:まず、こちらで今言われているのが、タブレットを用いて、教員の働き方改革の観点から、オンライン化や出欠・成績の管理、校務全体のデジタル化を推進するということと、オンラインによる授業や課題配布ということです。
23区における実施の状況を頂きたいと思います。
もう一つ、こちらで、品川区、北九州市、寝屋川市の取組をモデルとして取り上げられていますので、そちらの取組が分かる資料を頂けたらと思います。- 学務課長:今ご指摘の点につきまして、可能なものは正副委員長にお諮りの上、対応させていただきます。
- きみがき圭子委員:取組に当たって、課題として、システム化に今後どのぐらいの時間や費用がかかるかといった資料を頂きたいと思います。
それから、教員の働き方改革の中で、ぜひ、このようなものを進めてほしいなどの意見が出ていたら、一緒にお願いします。いかがでしょうか。- 学務課長:前段の件です。正副委員長にお諮りの上、対応させていただきます。
- 教育指導課長:後半の働き方改革における教職員等の声についても、正副委員長にお諮りの上、ご提出させていただきたいと思います。
- 小林みつぐ委員長:ほかにございますか。(なし)
なければ、初日付託案件を終らせていただきます。
2回目の委員会は5日後に開催され、第94号陳情「学校情報化施策のさらなる推進について」は議論されることなく、「異議なし」の声で「継続審査」扱いと決定された。
- 小林みつぐ委員長:案件表の1番、第一回定例会初日付託案件に入らせていただきます。
今回、付託されました陳情につきましては、本日のところは、全て継続とさせていただきたいと思います。いかがでしょうか。(異議なし)- 小林みつぐ委員長:それでは、そのようにさせていただき、案件表の1番、第一回定例会初日付託案件を終わらせていただきます。
このときの「文教児童青少年委員会」(定数10人)は、自公が過半数(6人)を占めていた。
※敬称略。
- 【委員長】小林みつぐ(自民)
- 【副委員長】宮崎はるお(公明)
- 委員
- かしままさお(自民)、柴田さちこ(自民)、佐藤力(自民)、うすい民男(公明)
- 小松あゆみ(共産)、岩瀬たけし(インクル(市民の声ねりま))、沢村信太郎(立憲)、きみがき圭子(インクル(生活者ネットワーク))
多勢に無勢。自公のやりたい放題はに対して、非自公議員の攻め方が足りないということはないのか。
自公、正副委員長をほぼ独占
練馬区議会には全部で10の委員会があり、自公が正副委員長をほぼ独占している(次表)。
ほぼ独占というのは、2つの委員会(区民生活委員会、都市農業・みどり環境等特別委員会)の副委員長を「練馬会議」の議員が務めているからだ。
ちなみに、練馬会議の構成員は、都ファ1、国民1,N国1、無所属3。このうち副委員長を務めているのは、区民生活は倉田れいか議員(無所属)、都市農業は井上勇一郎議員(無所属)と何れも無所属で当選した議員。
練馬区議会議員数は48人。各会派の内訳を次図に示す。
【追記】なぜ、自公は正副委員長をほぼ独占できているのか
※追記22年3月22日
自公が27人で全体の56%を占めている。自公は圧倒的多数を占めているわけではないのに、なぜ正副委員長をほぼ独占できているのか。
正副委員長の選出プロセス
まず、正副委員長はどのようなプロセスで選出されているのか確認してみよう。
常任委員、議会運営委員および特別委員の選任は、議長の指名によることとされている(「練馬区議会委員会条例」第6条)。また、委員長と副委員長は、委員会において互選することになっている(同条例第7条2項)。
議長を決める条例は見当たらないが、練馬区議会HPの「区議会のしくみ」には「議長と副議長は、議員の中から選挙で選ばれます」とされている(慣例なのか?)
練馬区議会では48人のうち自公が27人(56%)を占めているので、委員会で正副委員長を互選(≒多数決)するとなれば、野党の入る隙はない(次表)。
ドント方式でも、野党の正副委員長枠は4人
仮に、委員互選(≒多数決)方式ではなくて、ドント方式によって正副委員長の枠を配分できたとしても、野党に正副委員長の枠がそれぞれ2枠(インクルーシブな練馬をめざす会、共産党)配分されるに過ぎない(次表)。
実際には、正副委員長の選出プロセスは上述したように、「練馬区議会委員会条例」で互選(≒多数決)するように規定されているので、ドント方式を採用するには、まず条例の改訂が必要になるのではないのか。そうだとすれば、自公が過半数を占める現在の練馬区議会ではドント方式の実現は不可能。
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