住宅ローン破たんの実態はどうなっているのか?
残念ながら、金融庁や日銀、全国銀行協会(全銀協)のホームページには住宅ローン破たん件数は公開されていない。
※金融庁が住宅ローン破たんデータを公開していない理由については、「なぜ住宅ローン破たん件数に係る公的データは公開されていないのか」参照。
じつは数少ない公的データとして、日本弁護士連合会は92年からほぼ3年おきに「破産事件及び個人再生事件記録調査」の結果を公開している。2020年の調査結果が21年12月28日に公開された。同調査データを利用して、住宅ローン破たん(自己破産・個人再生)件数を推計してみた。
※2020年調査は、47都道府県の全ての50地裁を対象に6月1日から11月30日までに申し立てされた記録を無作為抽出されたもので、破産が1,240件、個人再生が747件(小規模個人再生594件、給与取得者等再生153件)。
推計方法
住宅ローン破たんとしては、自己破産と個人再生の二つのケースが考えられる。
最初に自己破産のケース、次に個人再生のケースを試算した。
もう少し具体的に言うと、司法統計の自己破産件数に日弁連調査の住宅購入に係る自己破産割合を乗じることで、住宅ローンに係る自己破産件数を算出した。個人再生についても、同様の方法で算出した。
※日弁連の調査期間は6月1日から11月30日までであるが、司法統計は年度データなので、以下のグラフでは年度に統一した。
1.住宅購入に係る「自己破産」件数を推計する
1-1 自己破産件数、年間6万件前後で推移(司法統計)
全国の「自己破産」件数は13年度以降、毎年6万件前後で推移している(次図)。
※この「自己破産」件数は、住宅ローン破産に限らない。
裁判所が公開している司法統計計データのうち、全地方裁判所の自然人(≒個人)の新受の「自己破産」件数。
1-2 住宅購入に係る自己破産、14年度以降減少(日弁連調査)
日本弁護士連合会が公開した「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」に「破産債務者の実像」として、「破産理由(多重債務に陥った原因)」の表形式データが掲載されている(次表)。負債原因18項目のなかに、「住宅購入」が含まれている。
20年度は、「生活苦・低所得」を原因として自己破産した件数がダントツ(61.69%)。「住宅購入」を原因として自己破産したのは12位で、全体の7.26%。それほど多いわけではない(次図)。
00年度以降の推移をみると、「住宅購入」(ピンク色)は14年度に16.05%と最も高く、その後減少していることが分かる(次図)。ザックリいえば、自己破産のうち約1割が住宅購入に係る自己破産。
1-3 住宅購入に係る自己破産、20年度は5千件(司法統計×日弁連調査)
司法統計の自己破産件数に日弁連調査の住宅購入係る自己破産割合を乗じた結果を次図に示す。
住宅購入係る自己破産の件数は年々減少。20年度は5,200件(推計)。
2.住宅購入に係る「個人再生」件数を推計する
2-1 個人再生件数、年間1.3万件前後で推移(司法統計)
個人再生件数は、「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類ある。給与所得者等再生は小規模個人再生よりも弁済額が大きくなるため、給与所得者であっても小規模個人再生を利用するのが一般的。
個人再生(小規模個人再生+給与所得者等再生)件数は、15年度以降増加し、18~20年度は1.3万件前後で推移している(次図)。
※この「個人再生」件数は、住宅ローン破産に限らない。
裁判所が公開している司法統計計データのうち、全地方裁判所の新受の「個人再生(小規模個人再生+給与所得者等再生)」件数。
2-2 住宅購入に係る個人再生、11年度以降減少(日弁連調査)
日本弁護士連合会が公開した「2020年破産事件及び個人再生事件記録調査」に「個人再生申立債務者の実像」として、「申立理由(多重債務に陥った原因)」の表形式データが掲載されている(P7)。負債原因18項目のなかに、「住宅購入」が含まれている。
20年度は、「生活苦・低所得」を原因として個人再生を申し立てた件数がダントツ(37.35%)。「住宅購入」を原因として申し立てた件数は3位で、全体の23.03%(次図)。自己破産は12位だが、個人再生は3位と順位が高い。
02年度以降の推移をみると、「住宅購入」(ピンク色)は11年度に27.70%と最も高く、その後減少していることが分かる(次図)。
2-3 住宅購入に係る個人再生、20年度は3千件(司法統計×日弁連調査)
司法統計の個人再生件数に日弁連調査の住宅購入に係る個人再生割合を乗じた結果を次図に示す。
住宅購入に係る個人再生の件数は、14年度に2千件まで減少したあと増加に転じ、20年度には2,957件(推計)。
3.まとめ(住宅ローン破たん、千人に1人)
住宅購入に係る自己破産件数と個人再生件数の試算結果を踏まえ、住宅ローン破たん件数の推移としてまとめたのが次図。
債務を減額し返済する「個人再生」よりも、債務をゼロにする「自己破産」を選択する人が多いことが分かる。
住宅ローン破たん件数は、05年度の2万5千件をピークに年々減少し、20年度は8千件。政府の様々な支援策が功を奏しているのか、20年度は新型コロナの影響が見られない。
国交省の「令和2年度民間住宅ローンの実態に関する調査結果(令和3年3月)」に掲載されている貸出件数(回答率97.1%)は、17年度8,816,967件、19年度11,050,444件。
したがって、住宅ローン破たんの割合は約0.1%(回答率を考慮して、17年度:0.11%=9,780件÷8,816,967件×97.10%、20年度:0.07%=8,161件÷11,050,444件×97.10%)。
つまり、千人に1人の割合で住宅ローン破たんが発生しているということになる。
あわせて読みたい