不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

首都圏を中心に、マンション選びのためのお役立ち情報を提供しています


『田舎はいやらしい 地域活性化は本当に必要か? 』光文社新書

過疎地育ちにして、ボストン2年、海外40か国周遊の経験を持つ著者。東京での暮らしを経て再び九州の過疎地で暮らすようになった経験を踏まえた著書『田舎はいやらしい 地域活性化は本当に必要か? 』光文社新書(2022/1/18)を読了。

都会で暮らす人たちが抱く過疎地のイメージはとは異なる世界が描かれている。


もくじ

過疎地域では、家賃以外の生活費は都心と比べて高い

過疎地域では、家賃以外の生活費は都心と比べて総じて高くなるという、事例に基づいた指摘。

イメージされた社会

過疎地域を扱う場合、ネガティブな言葉を使ったら悪のレッテルを貼られる。商売として過疎地域を扱う場合、ポジティブな部分をいかにして切り取り、それがすべてであるかのようなイメージをいかに与えるかが大切となる。こうしたイメージの積み重ねにより、都心では過疎地城への誤った悄報が流布されていた。

たとえば、「過疎地域で暮らしていると食費が安く済む」といった話をよく聞くが、競争原理が働いていない過疎地域では、都心と比べて食費が20%くらい高くなる。そもそも近くにスーパーがない地域があり、隣町まで買い出しに行くような地域もある。食費が安く済むのは血縁から援助を受けているような特殊な場合に限られる。

これはガス料金や電気料金、水道料金なども同じで、利用率や回転率が低いため都心と比べて20%くらい高くなる。過疎地域では、家賃以外の生活費は都心と比べて総じて高くなる。(以下略)

(P39/第1章 過疎地域のよくある事例)

地域活性化事業とは補助金事業

子どもがのびのびと暮らす様子や、高齢者が微笑んでいる理想郷を描き、そのイメージポスターを都心の広告代理店が補助金を使ってつくるという、地域活性化事業への批判。

たくさんの違和感

(前略)地域活性化事業といえば、公園をつくる程度の発想しかなかった。それらの公園は有効活用されることなく、膨大な維持費がかかっていた。それにもかかわらず、同じような公園を繰り返しつくっていた。生産性のない公園を繰り返しつくる理由は、清く正しく美しくといった過疎地域の理念に合致するからである。

(中略)
また、古民家の再生や、廃駅や廃線の再利用なども地域活性化事業として定番になっていた。しかし、その効果は限定的であり、生産性のある継続的な仕組みになっていない。それにもかかわらず、そうした地域活性化事業が評価されて、「全国過疎地域自立促進賞」「地域活性化大賞」「地域再生大賞」「地域創造大賞」「地方創生大臣賞」「地域貢献大賞」等々、よく分からない賞をもらっていた。そのよく分からない賞を選考しているのは官僚であり、都心で暮らしている者だった。子どもがのびのびと暮らす様子や、高齢者が微笑んでいる理想郷を描き、そのイメージポスターを都心の広告代理店が補助金を使ってつくる。これも一つの補助金事業である。(以下略)

(P97-98/第3章 過疎地域批判)

リノベーション、箱モノ行政と同じような結末を迎える

リノベーションはまやかしで、これまでの箱モノ行政とまったく同じ構造であるという見立て。

リノベーションの事例調査

(前略)結局のところ、リノベーションは、これまでの箱モノ行政とまったく同じ構造である。リノベーションというカタカナ語になっているので新しい手法のように感じるが、建設会社が利益を上げるための手段である。母校再生や古民家再生といった言葉は美しく聞こえるが、地域活性化事業として多額の補助金が投入されている

しかも、リノベーションは新築に比べて3倍以上のコストがかかる。すでにある建物を再利用するので、費用を抑えられるように思われがちだが、建物の内部にある設備や配管は老朽化しており、使い物にならない場合がほとんどである。そのため、いったん壁を取り外し、古い配管を取り外したのち、新しい配管に交換したうえで壁を元に戻すといった手間がいる。もちろん、古い配管の処分費用もかかる。何もない所に建物をつくるのは施工手順として簡単だが、すでに何かがあるところに施工するのはものすごく手間が増える。

(中略)

あえて明確に申し上げておく。リノベーションはまやかしである。これまでの箱モノ行政と同じく、建設行為そのものが目的であり、完成後の施設運営や施設効果の見積りが甘くなる傾向があった。リノベーションによる効果はせいぜい3年から5年程であり、最終的には地域住民や地方自治体の手に委ねられて、これまでの箱モノ行政と同じような結末を迎える。

(P155-156/第3章  地域活性化の事例調査)

本書の構成

2部構成。全270頁。

  • 第1部 過疎地域批判――現状維持という名のゆるやかな後退
    • 第1章 過疎地域のよくある事例
    • 第2章 過疎地域のよくある問題
    • 第3章 過疎地域批判
  • 第2部 過疎地域分析――過疎地域の活性化は本当に必要なのか
    • 第1章 地域の活性化は本当に正しいのか
    • 第2章 過疎地域とは何か
    • 第3章 地域活性化の事例調査
    • 第4章 過疎地域の現地調査
    • 第5章 田舎のいやらしさにおける考察

田舎はいやらしい 地域活性化は本当に必要か?

あわせて読みたい(本の紹介)

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
Copyright(C)マンション・チラシの定点観測. All rights reserved.