不動産市況アナリスト・幸田昌則氏の著書『アフターコロナ時代の不動産の公式』日経BP(2021/1/26)を読了。
図表が多数掲載されていて、エビデンスベースで日本の不動産市場の現状とこれからが解説されているので説得力がある。
※朱書きは、私のメモ。
不動産市況の行方、「景気動向」と「金融環境」が鍵
2019年からすでに減速傾向にあった不動産市況の行方は、今後の「景気動向」と「金融環境」が鍵を握っているという見立て。
2018年秋に不動産市場は減速、バブルの終焉が始まった
(前略)不動産バブル発生と崩壊の最大の要因は金融にあり、2020年以降も超低金利と異次元の金融緩和が維持された場合には、不動産バブルの崩壊は、きわめて緩やかなものとなる可能性が高いと思われる。
しかし、コロナショック直前の不動産価格は、経済的合理性を逸脱し、平均的な所得の人々の購買力を超えていることから、割高な不動産の価格調整はすでに2019年から本格化しているし、住宅・不動産の全体の取引量も、コロナ禍で「住宅特需」の下支えはあるものの、減少局面に入っている。
2019年からすでに減速傾向にあった不動産市況の行方は、今後の「景気動向」と「金融環境」が鍵を握っている。
最後に、この数年間、期待されてきた東京オリンピックによる特需の有無は、これからの不動産市況への影響は少なく、大きなトレンドを変える力とはならない。(P60/第1章 アベノミクスが意図した不動産バブル)
※首都圏の新築マンション価格は高騰し続けているが、市場規模(=供給戸数×平均価格)は縮小し続けている。
富裕層は、「主観的感情」で取得価格を決める
富裕層は、「主観的感情」で取得価格を決めるため、都心部では経済的合理性を超えた価格で取引されることも少なくないという分析。
都市内での格差拡大が鮮明になっていく
(前略)新型コロナ発生前までは、生活や通勤の「利便性」が優先された。多くの人が、「高くても都心や駅近」のマンションを求めた。そのため、マンションデベロッパーは都心や駅から徒歩5分前後の立地で供給したが、その分、価格も急上昇した。そこで割安だった中古マンションの需要が高まったが、ここでも利便性の良否によって価格差が進行した。
駅近や都心のマンションを求める背景には、1人・2人世帯の増加、高齢世帯の増加があり、日々の買い物などの生活環境の良さを求める動きは、今後も変わらないだろうが、今後、テレワークが広まり、定着していけば、これまでの価格差が縮小する可能性は否定できない。
一方で、都市生活も楽しみたい人たち、富裕層の人たちにとっては、都心は依然として魅力的で、価格に糸目をつけずに取得するため、その対象となる住宅価格はきわめて高額となる。
所得・資産の格差社会では、富裕層は、「主観的感情」で取得価格を決める。そのため、時には法外な価格で取引されるため、都心部では経済的合理性を超えた価格で取引されることも少なくない。(以下略)(P220-223/第7章 新しい「住まい」をデザインする)
※23区の新築マンションの発売単価を見ると、21年4月に平均価格が2億円を超える千代田区の大型の高額物件の影響により急上昇したことがある(次図、ピンク囲み)。
ポストコロナの不動産市場、格差拡大
ポストコロナの不動産市場は、全体としては下落傾向下における二極化、格差拡大が進行していくという。
2021年以降、不動産市場では、景気と金融の綱引きが続く
(前略)2020年内は、行政による一時的な金融支援もあって、表面上は小康状態を保っているように見えるが、家計は実質的には相当に厳しくなっているものと思われる。すでに、住宅ローンや家賃の滞納も徐々に増加している。
さて、コロナ特需をサポートしている金融機関が、これからどこまで現在の姿勢を続けていくのか、これが不動産市況の鍵を握っているが、景気の低迷が長引けば、購買意欲も低下していくことは必至で、市況は悪化していく。
2020年6月以降に吹いた住宅市場の「神風」も、いつまでも続くことはない。いずれ不動産全体の市況の低迷期の到来が予想される。
その回復は、リーマンショツク後のような「V字型」ではなく、「L字型」も覚悟しておきたい。ここまでアベノミクスで膨らんできた経済の修復には、少し時間がかかることが想定されるからである。
ポストコロナの不動産市場を予測すると、今後、土地などの不動産価格は、平均値の時代が終わり、全体としては下落傾向下における二極化、格差拡大が進行していく。(P221-222/第8章 「ポストコロナ」の不動産市場)
※23区の発売戸数の割合は、5千万円を境に2極化。5千万円以下の供給割合が極端に低下している。
本書の構成
8章構成。全228頁。
- 第1章 アベノミクスが意図した不動産バブル
- 第2章 新型コロナウイルス感染拡大による住宅・不動産市場の変化
- 第3章 日本社会の構造変化と不動産
- 第4章 超高齢化社会が不動産市場を活発化させる
- 第5章 人口減少で変化する「住まいの条件」
- 第6章 デジタル化の進展が不動産の需給関係を変えていく
- 第7章 地球環境の変化が不動産に影響を与える
- 第8章 「ポストコロナ」の不動産市場
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