博報堂は5年連続(17~21年度)で「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」を受注している。5年間の契約金額の合計は14億円を超える(次表)。
国交省航空局「公共調達の適正化に係る情報の公表」などをもとに筆者作成
博報堂はどのような業務を実施したのか? 情報開示請求によって、博報堂が国交省に提出した20年度の同業務に係る報告書の一部を入手したので、ひも解いてみた。
※20年度の同業務に係る「決裁文書」と「請負契約書」の分析記事については、「決裁文書編」参照。
報告書で開示されたのはたったの9枚、うち2枚は全面真っ黒
20年度の「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」に係る報告書は、「決裁文書編」で判明したように、下記の項目から構成されている。
博報堂がどのような情報を国交省に上げているのか興味があったので、下記の3項目(朱書き)を情報開示請求の対象とした。
1.情報提供の実施
- ①ホームページの更新
- ②メディアでの発信
- ③ニュースレターの作成
- ④コンテンツの作成
- ⑤報道クリッピング及びそれに基づく報道傾向分析
- ⑥電話窓口の運営
- ⑦羽田空港の機能強化に関する世論分析
- ⑧研修の実施
- ⑨その他の情報発信手法の提案
2.情報提供・意見把握の実施結果・効果の収集、分析
やはりというべきか、開示されたのはたったの9枚。しかも、ところどころマスキングされていて、6枚がいわゆるのり弁。うち2枚は全面真っ黒である(次図)。
開示文書(一式):令和2年度報告書「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」(PDF:1MB)
企画競争実施の公示文書には次の記載があったにもかかわらず、たったの9枚しか開示されなかった。
(7)特定した提案内容については、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(平成11年法律第42号)において、行政機関が取得した文書について、開示請求者からの開示請求があった場合は、当該企業等の権利や競争上の地位等を害するおそれがないものについては、開示対象となる場合がある。
なぜ、たったの9枚しか開示しないのか。
「行政文書開示決定通知書」には、法人のノウハウに関する内容の一部を非開示とした理由が次のように記されていた。
不開示とした部分とその理由
- 文書のうち、「報道分析例」、「SNSにおける発言等の分析例」の一部と、「情報提供・意見把握の実施結果・効果の収集・分析・提案の例」、「電話窓口の運営の定期的報告例」については、当事業を実施する法人のノウハウに関する内容であり、法第5条第2らイの「公にすることにより、当該法人又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
開示された情報をひも解く
以下、開示された情報の3項目をひも解く。
※いずれの添付画像も不鮮明な部分が多い。筆者のPC処理が原因ではなく、国交省から郵送されてきたDVDに収納されたPDFが不鮮明なため。
「報道クリッピング及びそれに基づく報道傾向分析」
※3枚(P46~48)
「報道クリッピング例」として、「ユナイテッド航空及びボーイング機エンジントラブル」と「羽田新ルート関連」のテレビ報道がリストアップされている(次図)。
「報道分析例」として、ユナイテッド航空・ボーイング機エンジントラブルに係る情報番組(Nスタ、バンキシャ、ゴゴスマ、ひるおび、ワイドスクランブル)の出演者のネガティブなコメントがピックアップされている。残念ながら総括文章(?)は黒塗りで確認できない(次図)。
<TBSゴゴスマ>2/22
- 石井氏:「仮に、東京都心でこんな大きなものがボロボロ落ちてきたら、密集地だとしたら怖い話ですよね」
- ユージ氏:「怖い話ですし、各航空会社、コロナ禍で大変な思いをされていると思うんですよ。観光客もへっているので。例えば整備不良のような、傷口を広げることにならなければいいのですが」
- 石塚氏:「どこを飛ぶかということ、風向きとか、騒音だとか色々問題あるけど、いつも問題になりますけど、やっぱりこういうことみちゃうと、どこを飛ぶのかというのは大変大きなテーマなんだなと、改めて分かりますよね。」
定量評価として、報道メディア件数がグラフ化されている(次図)。
定性評価としての報道要素分析は、真っ黒(次図)。
「羽田空港の機能強化に関する世論分析」
※3枚(P52~54)
「SNSにおける発言等の収集・整理例」として、共同通信の2月21日配信記事「米住宅地に旅客機の部品落下」に対して「ヤフーコメント」に記された個人の意見が切り張りされている(次図)。
「SNSにおける発言等の分析例」として、「調査実施概要」は真っ黒。定量評価として、Tweet投稿件数の日別推移とTweet投稿件数の累積量の図表が掲載されている(次図)。
「情報提供・意見把握の実施結果・効果の収集、分析」
※3枚(P64~66)
「情報提供・意見把握の実施結果・効果の収集・分析・提案の例」は全面のり弁(次図)。
雑感(監視社会…)
国交省に情報開示請求して、20年度の「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」に係る報告書の一部を入手した。
この報告書をひも解いて明らかになったのは、国交省が博報堂を使って、羽田新ルートに係るメディアの報道状況と国民の反応を報告させていたこと。
新聞折込チラシやWEB広告、フリーペーパー広告やポスティング広告といった住民への”丁寧な説明”だけでなく、世論分析を含め3億円を超える血税を費やしていたのである。なんとも気持ち悪い監視社会の一端を垣間見た。
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