国交省は博報堂と4連続、「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」を随意契約している。
今般、20年度の同業務に係る「決裁文書」と「請負契約書」を入手したのでひも解いてみた。
※追記21年7月28日
21年度も博報堂が受注したので5年連続。詳しくは、「解明!21年度「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」2.5億円 」参照。
羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務
国交省が21年3月1日に「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」に係る企画提案書の提出を招請する公告を出している。その後、どの企業にいくらで決まったのか、いまだに結果が公表されていない。
じつはこの業務は過去4年間連続で、企画競争をへて随意契約で博報堂が受注している。落札率は99%(次表)。
21年3月1日の公告によれば、業務内容は以下とされている。
本業務は、2020年3月29日より羽田空港において運用が開始された新飛行経路の運用状況や、騒音対策・落下物対策に関する国の取組み等について、各種広告媒体を通じた情報提供を行うとともに、新飛行経路に対する住民の意見把握を行うものである。
19年度は5億円近く、20年度は3億円を超える血税を使って「新飛行経路に対する住民の意見把握を行う」という業務の具体的な内容はベールに覆われていた。
ところが先日、ブログの読者から20年度の同業務に係る「決裁文書」(PDF:0.9MB)と「請負契約書」(PDF:1.6MB)を提供していただいた(次図)。聞けば苦労して国交省に開示請求してようやく入手した文書だという。
本人の了解を得たので、両文書をひも解いてみよう。
(請負契約書23枚、決裁文書22枚)
請負契約書
まずは請負契約書をひも解く。
2枚目に記載されている履行期間(20年4月4日~21年3月31日)と請負代金額(3億360万円)の情報以外はさしたる重要な情報は見当たらない(次図)。
3枚目以降に記された各条文は、「役務の提供等」の契約に使用される標準的な請負契約書。たとえば東京航空局HPの「入札・契約関係の要領等」にも公開されている。
決裁文書
請負契約書と違って、決裁文書のほうはこれまで公表されていなかった貴重な情報が掲載されている。
正式な件名は「令和2年度 羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務の実施及び見積徴収執行について」。機密区分は「なし」。保存期間は5年。
決裁者20名+供覧者10名
20年3月31日に起案されて、2日後の4月2日に決済、同日施行されている。
たった3日間で決済された文書に、和田航空局長以下20名の決裁者と10名の供覧者が2ページにわたって名を連ねている(次図)。実際には時間をかけて根回しをしているのであろう。責任が充分に分散された役所の性格がよく表れている。
伺い文:博報堂への見積もり徴収
博報堂への見積もり徴収することへの伺い文。
羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務について、別添のとおり実施及び企画競争委員会において審査、特定した「株式会社博報堂」に対し見積徴収することとしてよろしいか伺う。
※令和2年度案件
【業務内容】
- 本業務は羽田空港における新飛行経路の運用開始後である令和2年度においても引き続き、国際線の増便によるメリットや効果、新飛行経路の運用状況、騒音・落下物対策、騒音値の状況等について、主に飛行経路下の住民を対象に情報提供を行うものである。
実施理由:意見把握を行う必要があるため
実施理由は「できるだけ多くの方々の理解を頂くため・・・意見把握を行う必要があるため」とされている。
羽田空港の機能強化については、関係自治体や航空会社等の関係者との協議を経て、令和2年3月29 日から新飛行経路の運用を開始している。
一方で、できるだけ多くの方々の理解を頂くため、新飛行経路の運用開始後においても引き続き、新飛行経路の運用状況や、騒音・落下物等に対する対策、騒音値の状況等について、正確でわかりやすい情報提供に取り組むとともに、意見把握を行う必要があるため。
随意契約理由:マーケティング・広告業務に係る豊富な知識・経験が必要
随意契約理由は「マーケティング及び広告業務に係る豊富な知識及び経験を有する民間事業者から」「価格面の競争ではなく技術面の提案による競争が不可欠であることから」企画競争方式にしたとされている。
羽田空港の機能強化については、関係自治体や航空会社等の関係者との協議を経て、令和2年3月29日から新飛行経路の運用を開始している。一方で、できるだけ多くの方々の理解を頂くため、新飛行経路の運用開始後においても新飛行経路の運用状況や、騒音・落下物等に対する対策、国際線の増便による効果等について、正確でわかりやすい情報提供に取り組むとともに、引き続き意見を把握する必要がある。
本業務は、上記のことを達成するため、幅広い情報提供や意見把握等を行うものである。
本業務を適切に実施するためには、マーケティング及び広告業務に係る豊富な知識及び経験を有する民間事業者からの提案を元に進めていくことが必要であり、価格面の競争ではなく技術面の提案による競争が不可欠であることから、最も優れた提案を行った民間事業者を選定することができる企画競争方式により発注することとした。
企画競争を実施した結果、上記業者が高い評価を受けたことにより、上記業者の企画提案書が特定されたことから、会計法第29条の3第4項及び予算決算及び会計令第102条の4第3項により、上記業者と随意契約を締結するものである。
仕様書:国交省はSNSを常時監視
伺い書に添付された仕様書には「業務の内容」として、次の2項目が掲げられている。
- 1)情報提供の実施
①ホームページの更新
②メディアでの発信
③ニュースレターの作成
④コンテンツの作成
⑤報道クリッピング及びそれに基づく報道傾向分析
⑥電話窓口の運営
⑦羽田空港の機能強化に関する世論分析
⑧研修の実施
⑨その他の情報発信手法の提案 - 2)情報提供・意見把握の実施結果・効果の収集、分析
なかでも興味深いのは、1)の②⑤⑦だ(上記の朱書き項目)。以下、順に解説する。
②メディアでの発信
「ポスティング広告(5区程度に各2回実施)」とされているが、国交省が20年2月1日に公表した情報では「ポスティングによりお配りしたものと同一の内容です(配布時期:2020年12月~2021年2月)」とされている。両者の配布のエリア・回数は一致しているのだろうか。
- 新聞折込チラシ(首都圏エリア、6紙に各2回)
- WEB 上でのバナー広告(12ヶ月)
- 空港フリーペーパー広告(4C1P を1回以上)
- ポスティング広告(5区程度に各2回実施)
- 経済誌広告(3誌に各1回)
ちなみに、業者提案(黒塗り)を受けて、「②メディアでの発信」朱書きのように修正されている(次図)。
国交省案では当初、「新聞折込チラシ(首都圏エリア、6紙に各2回)」は含まれていなかった。次図には修正後も「新聞広告(全国紙、155段モノクロ、6紙に各1回)」が記載されているが、上記からは消えてしまっている。新聞折込チラシを追加するなど代わりに新聞広告を取り止めたのだろうか……。
⑤報道クリッピング及びそれに基づく報道傾向分析
国交省は羽田新ルート関連記事などを常時監視していることが分かる。
羽田空港の機能強化に関して取り上げられた新聞、雑誌、WEB 記事、テレビ番組等を随時クリッピングし、報道傾向や影響等について、分析・把握する。
⑦羽田空港の機能強化に関する世論分析
国交省はこのブログも常時監視の対象にしているのだろうか。羽田新ルート反対派のツイートも常時監視の対象だとすると、何とも気持ちの悪い監視社会である。
WEB 記事に対して寄せられたコメントやSNS における発言等について、拡散状況や住民の方々への影響を分析し、結果について整理、報告する。
雑感
ブログの読者が国交省に情報開示請求して、20年度の「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」に係る「決裁文書」と「請負契約書」を入手。
これらの文書をひも解いて明らかになったのは、国交省が博報堂を使って、羽田新ルートに係るメディアの報道状況と住民の反応を報告させていること。
新聞折込チラシやWEB広告、フリーペーパー広告やポスティング広告といった住民への”丁寧な説明”だけでなく、世論分析を含め年間3億円を超える血税を費やしていたのである。なんとも気持ち悪い監視社会である。
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