第202回国会(20年9月16日~9月18日)の参議院の質問主意書44件のなかに、16番目として羽田新ルートに係る次の質問主意書が埋もれている。
山添拓 参議院議員(日本共産党)が9月18日提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
ちなみに、羽田新ルート問題に係る山添議員の質問主意書は、昨年の第200回臨時国会(19年10月4日~12月9日)で提出された同じ件名に続き2回目である。
読みやすいように、一問一答形式に再構成しておいた。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
※下記朱書きは、筆者コメント。
山添 拓 参議院議員(共産党、1期、東大⇒早大大学院法務研究科、35歳)
政府は、羽田空港における国際線の発着回数を従来の1日80便からさらに50便増便するためとして、本年3月29日以降、都心を含む人口密集地の上空を超低空かつ多頻度で飛行させる新経路(以下「新飛行ルート」という。)の運用を開始した。
飛行ルート周辺の住民からは、騒音や落下物、墜落の危険をはじめ、様々な懸念が表明されてきた。本年6月には、国土交通省が新飛行ルートを認めたのは違法であるなどとして東京都や川崎市の住民計29人が東京地裁に取消しを求める行政訴訟を提起したほか、品川区では「羽田新飛行ルート運用の賛否を問う品川区民投票」をめざし、区民投票条例の制定に向けた運動も行われている。
また、複数の区議会で、新飛行ルートの見直し等を求める声が上げられており、このうち品川区議会は、2019年9月20日の決議において、「早急かつ具体的にルートの再考および固定化を避ける取り組みを示し、実行に移すことを強く求める」としていた。
さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、世界的にも国内的にも人の移動そのものが制限されたことから航空需要が激減し、特に日本を発着する国際線は9割減便が続いている。その結果、新飛行ルートは、運用開始以降、予定された上限便数による運用が一度も行われることのないまま今日に至っている。
住民の理解を得られないまま、政府が主張した必要性も欠いたまま、新飛行ルートありきで運用を継続することは許されず、直ちに中止すべきである。
そこで、以下質問する。
1.南風運用の割合について
新飛行ルートのうち、離陸・着陸ともに都心上空を低空で飛行し影響の大きい南風運用について、国交省は「南風運用の割合は、運用全体の約4割(年間平均)」としてきた(「羽田空港のこれから」)。
ところが、本年2月の実機飛行確認では、2月2日から3月11日までの期間内に7日間程度実施するとされていた南風運用が2月12日までに所期の目的を達したとして終了している。
11日間で7日実施であるから、約63%が南風運用であった。また、本格運用が始まった3月29日以降でみると、3月の3日間は運用がなかったものの、4月は17日(約57%)、5月は20日(約64%)、6月は21日(70%)と、運用頻度が高く、10日間連続となった週もある。従来の南風運用の割合と比較しても、多い傾向にある。
問1-1:7・8月の南風運用の日数?
7月及び8月の南風運用の日数を明らかにされたい。
答1-1:令和2年7月は20日、8月は23日
東京国際空港(以下「羽田空港」という。)において、南風時に新たな飛行経路を運用する15時から19時までの間(以下「新経路運用時間帯」という。)に南風運用を行った日数は、令和2年7月においては20日、同年8月においては23日である。
※筆者の同時調査によれば、9月は9日(次図)。
問1-2:年間平均4割との見通しは妥当性を欠く?
季節を問わず、南風運用の比率が高い状況が見られる。年間平均4割との見通しは妥当性を欠くのではないかと考えるが、認識を示されたい。
答1-2:評価することは困難
御指摘の国土交通省作成のパンフレット等における「南風運用の割合」が「約4割」との記載は、平成28年から平成30年までの3年間の新経路運用時間帯における、羽田空港に離着陸した航空機の総数に対する南風時の従来の飛行経路を飛行した航空機の総数の割合をお示ししたものであり、羽田空港における新たな飛行経路(以下「新経路」という。)の運用開始後における南風運用の割合の「見通し」をお示ししたものではないが、いずれにせよ、御指摘の「南風運用の比率」については、季節により変動するものであることから、新経路の運用を開始した令和2年3月29日から6か月程度しか経過していない現時点においては、その高低について評価することは困難である。
2.固定化回避に係る技術的方策検討会について
国交省は、本年6月、「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」(以下「同検討会」という。)を設置し、「羽田新経路の固定化を回避するための方策について、最近の航空管制や航空機器の技術革新を踏まえ、技術的観点から検討を行う」としている。
6月30日に第1回検討会が開かれたが、その後は開催されていない。
問2-1:結論を得る時期、今後検討を予定しているテーマ?
同検討会の今後のスケジュールは、「羽田新凝路の固定化回避に向けて考えられる技術的選択肢について多角的な検討を行い、今年度中にそれぞれの方策のメリット・デメリットを整理予定」とされる。
第2回以降の同検討会の開催計画、選択肢の整理を踏まえて結論を得る時期の見通し、及び、今後検討を予定しているテーマについて明らかにされたい。
答2-1:現時点においては未定
羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会(以下「検討会」という。)は、最近の航空管制及び航空機の技術革新の進展を踏まえ、新経路の航空機の騒音による影響(以下「騒音影響」という。)の軽減、固定化回避等の観点から、新経路の見直しが可能な方策がないかについて技術的観点から検討を行うものであり、現在は、第1回検討会における議論を踏まえ、事務局である国土交通省航空局交通管制部交通管制企画課及び管制課において、海外空港における事例調査等により、考えられる技術的選択肢の洗い出しを行っているところである。
お尋ねの「第2回以降の」「開催計画」については、当該事例調査等の状況を踏まえて決定することとしており、現時点においては未定である。
また、お尋ねの「結論を得る時期」の意味するところが必ずしも明らかではないが、検討会においては、考えられる技術的選択肢について、本年度中にそれぞれのメリット及びデメリットを整理することとしており、その後の検討の方向性等については、現時点においては未定である。
※検討会ではメリット・デメリットの整理までは確約しているものの、「その後の検討の方向性等」の整理は行われない可能性がある。
問2-2:検討は、滑走路運用・発着便数の変更を含む?
新飛行ルートがもたらす騒音、落下物、事故の危険など周辺住民のくらしと健康への影響を軽減しようとすれば、都心上空を低空で飛行する離着陸ルートそのものを見直すことが避けられないと考える。
同検討会における検討は、新飛行ルートにおける滑走路運用及び発着便数の変更を含めて行うのか。仮に、現在の新飛行ルートにおける滑走路運用及び発着便数を前提とするのであれば、同検討会が掲げる「新経路の固定化回避」とはなにを意味するのか。説明されたい。
答2-2(&2-4):滑走路運用・発着便数、再検討することは考えていない
(後述)
問2-3:離陸ルートの固定化回避は検討対象とされていない?
新飛行ルートにおける騒音の影響は、南風時B滑走路からの離陸における東京都大田区、川崎市などで甚大である。
ところが、同検討会においては、離陸ルートの固定化回避は検討対象とされていない。これはなぜか。
答2-3:到着経路に限定せず行う予定
新経路の固定化回避については、令和元年6月に東京都品川区から、新経路の運用開始後に同区等の新経路のうち南風時に運用される到着経路(以下「新到着経路」という。)下の地方公共団体や新到着経路下の地域の地方議会議員から、それぞれ要望があったこと等を踏まえ、新到着経路を中心に検討を行っているところである。
なお、検討会においては、同都大田区、神奈川県川崎市等の要望を踏まえ、海外空港における事例調査を到着経路に限定せず行う予定である。
※「到着経路に限定せず行う予定」のは、「海外空港における事例調査」であって、固定化回避の検討であるとは明言していない
問2-4:新型コロナよる減便、滑走路運用・発着便数そのものを再検討すべき
固定化回避を検討するのであれば、新型コロナウイルスの影響による減便等の状況も踏まえて、新飛行ルートの滑走路運用及び発着便数そのものを再検討すべきではないかと考えるが、認識を伺う。
答(2-2&)2-4:再検討、考えていない
お尋ねの「新経路の固定化回避」とは、交通政策審議会航空分科会基本政策部会首都圏空港機能強化技術検討小委員会における検討の結果、平成26年7月8日に「首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ」において羽田空港の航空需要の増大等に対応するための方策として滑走路の運用方法の見直し等が取りまとめられたことを踏まえ、見直し後の滑走路の運用方法を前提とした上で、新経路の将来にわたる固定化を回避することを意味しており、検討会において、「新飛行ルートの滑走路運用及び発着便数」を「再検討」することは考えていない。
3.国交省と千葉県の確認書(19年12月25日)について
赤羽国土交通大臣は、新飛行ルートの運用時には従来の飛行ルートを運用しない旨、千葉県及び県下市町と「確認をとれている」とし(本年5月18日参議院決算委員会)、あたかも新飛行ルートが千葉県の騒音負担軽減のために運用されているかのように説明している。
しかし、2010年の羽田空港第4滑走路の運用開始に当たって、千葉県及び県下市町の連絡協議会と交わされた「羽田再拡張後の飛行ルート等に関する確認書」(2005年9月2日及び2010年3月19日)では、「将来の管制技術等の進展に合わせ検討する事項」に、都心上空における低空飛行を行うこととなる新飛行ルートは想定されていない。
また、首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ(2014年)においては、首都圏空港の機能強化、すなわち増便を前提として、新飛行ルートを運用した場合には、従来の到着経路下にある千葉県や東京都における騒音影響がなくなるとしている。機能強化の検討は、空港処理能力の拡大が目的であり、騒音負担軽減のために進められたものではない。
問3-1:新飛行ルート必要性についての政府従来説明と矛盾
こうした点を踏まえれば、国土交通省と千葉県の「羽田再拡張事業に関する県・市町村連絡協議会」による「羽田再拡張後の飛行ルート等に関する確認書」(2019年12月25日)が、「今般、国土交通省は、「羽田空港の機能強化」に際して、千葉県下の騒音影響を増やすことなく更に軽減を進めるため、新たな飛行ルートの設定をはじめとする多面的な方策を講じることを表明した」などとするのは、新飛行ルートの必要性についての政府の従来の説明と矛盾する。どのような認識か、伺う。
答3-1:矛盾するとは考えていない
新経路の運用により首都圏における騒音影響が分散されることについては、これまで千葉県及び関係市町村並びにこれらの地域の住民の方々へ説明を行ってきたところであり、「羽田再拡張後の飛行ルート等に関する確認書(令和元年12月25日)」(以下「確認書」という。)中の御指摘の記載内容が「新飛行ルートの必要性についての政府の従来の説明と矛盾する」とは考えていない。
問3-2:新型コロナの影響、再検討の必要性について?
新型コロナウイルスの影響により、羽田空港は新飛行ルートを運用する必要のない発着回数となるどころか、国際線は9割減便し、国際線・国内線を問わず小型化・軽量化している。
また、この状況が早期に変化する見込みは乏しい。
一方、前述の千葉県との確認書(2019年12月25日)は、新型コロナウイルスの影響が顕在化する前に交わされたものであり、今般の状況を考慮したものではない。
国土交通省は、現下の状況を踏まえ、千葉県に限らず、東京都、神奈川県、埼玉県など新飛行ルート下の関係自治体、議会、そして住民の意見を改めて聴取し、新飛行ルートの運用を継続することの是非について再検討すべきである。関係自治体や議会、住民から現状についてどのような意見が寄せられているか。また、再検討の必要性についてはどのような認識か、伺う。
答3-2:再検討、考えていない
新経路の運用開始後においては、例えば、新経路下の地域の住民の方々からは、「航空機の騒音が大きい」、「新型コロナウイルスの影響により減便が発生していることから新経路を運用する必要はない」等の意見が、千葉県及び関係市町村で構成される「羽田再拡張事業に関する県・市町村連絡協議会」からは、国土交通省と同協議会との間で新経路運用時間帯においては南風時の従来の飛行経路を運用しないこと等を確認している確認書に記載の内容を今後も着実に履行することを求める意見が寄せられているところである。
我が国の国際競争力の強化、首都圏における騒音影響の分散等のためには、新経路の運用は必要不可欠であり、「新飛行ルートの運用を継続することの是非について再検討」することは考えていないが、引き続き、関係地域の地方公共団体及び住民の方々からの意見を伺いつつ、航空機の騒音対策や航空機からの落下物対策を実施してまいりたい。
4.入国制限の緩和に関連して
問4:新飛行ルート上限いっぱいの発着回数、入国者数は最大何人?
政府は、入国制限の緩和に向けて空港検疫を強化するとし、現在、羽田、成田、関空で1日4,300件の検査能力を9月中に1万300件に引き上げるとしている。
仮に、新飛行ルートを上限いっぱいの発着回数で運用し、国際線を1日130便まで増便した場合、羽田空港において想定される1日あたりの入国者数は最大何人か。今後、そのために必要な検査能力を確保していく方針か、明らかにされたい。
答4:お答えすることは困難
航空機は、機種により搭乗できる最大の乗客数が異なるものであり、今後、実際に「新飛行ルートを上限いっぱいの発着回数で運用し、国際線を1日130便まで増便した場合」に、各便がどのような機種により運航されるかは現時点で明らかではないため、「羽田空港において想定される1日あたりの入国者数は最大何人か」及び「そのために必要な検査能力を確保していく方針か」とのお尋ねについてお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、検査能力の確保については適切に対応してまいりたい。
雑感
山添議員の質問主意書においては、よく考えられた良問が多いことに感心させられる。
政府答弁書からは、菅政権に代わっても羽田新ルート問題への頑な対応姿勢は1ミリも変わっていないことが確認できる。
あわせて読みたい