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羽田新ルート|「騒音負担共有論」は妥当なのか?

赤羽大臣肝いりの「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」の第1回目が6月30日開催された。

国交省HPにコッソリと公開されていた配布資料をひも解いてみると……。

※追記21年6月28日(「結論」に追記)


もくじ

国交省、隠密作戦展開中…

国交省の6月26日の報道発表では、30日開催の第1回羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会の「議事要旨等については、後日、国土交通省ホームページにて公開します」とされていたので、関係資料が公開されるのを待っていたところ、なんと同日18時に配布資料がコッソリと公開されていたのである。

第1回 羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会
第1回 羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会|国交省


国交省の新着情報はもとより、航空局の新着情報にさえ掲載されていないので、一般の人がその存在に気づくことはほとんど不可能だろう。

 

公開された配布資料のうち「【資料1】羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会について(案)」をひも解くと、同検討会の非公開なスタンスに不信感が募る

4.議事の公開

  • (1)本検討会については冒頭部分を公開とし傍聴は不可とする。
  • (2)本検討会の資料は、開催後、速やかに公開する。ただし、事務局が必要であると認めるときは座長の確認を得たのち、資料の全部又は一部を非公開とすることができる。
  • (3)本検討会の議事要旨は、事務局が座長の確認を得たのち、公開する

傍聴が許されないことはもとより、事務局(=国交省航空局交通管制部交通管制企画課及び管制課)が資料を非公開とする建付けになっている。

さらにいえば議事録は公開されない。公開されるのは議事録もどきの「議事要旨」である。この検討会の座長は、屋井鉄雄 東工大教授(日経記事 6月30日)。これまで国交省関係の数々の委員を歴任してきた同教授は、国民の期待に沿えない議事要旨にダメ出しできるのだろうか。

羽田新ルート導入ロジックがすり替わっている!?

配布資料1~5のなかで、最も驚かされたのは資料2(本検討会について)の最初のページに記された「羽田空港の新経路の導入背景」。「国際競争力強化等の実現」だけでなく「首都圏全体での騒音負担の共有」が併記されているのだ(次図)

羽田空港の新経路の導入背景


従来の国交省の説明では、羽田新ルート導入の必要性として、3点(国際競争力強化、訪日外国人の増加、日本全国の地域活性化)だけが掲げられていた(次図)。

従来の国交省の説明
首都圏空港機能強化技術検討小委員会「中間取りまとめ」(14年7月8日)参考資料 P4)


同中間取りまとめのなかでは、「首都圏全体での騒音負担の共有」については、わずかしか触れられていなかった。

首都圏における騒音負担の分担

新飛行経路での運用を行うことにより、南風時は東京都、神奈川県、埼玉県内の新飛行経路下の地域において、一定の時間帯に新たな騒音影響が発生することとなる。

現行の到着経路下にある千葉県及び東京都の地域については、一定の時間帯の騒音影響が無くなり、1 日あたりの騒音発生回数も減少する。(以下略)

首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ 本文」(P14)

 

新型コロナの影響で東京オリンピック中止や訪日外国人激減したことから、羽田新ルート導入の必要性3点(国際競争力強化、訪日外国人の増加、日本全国の地域活性化)の前提条件が崩れたので、「首都圏全体での騒音負担の共有」を強調し始めたのではないのか。

 

そのようなロジックのすり替えとも思われる動きはいつから始まったのか。

「騒音負担共有論」を最初に言い出したのは、13年4月15日衆議院「予算委員会」田村明比古航空局長(現、成田国際空港株式会社代表取締役社長)。奥野総一郎議員(千葉9区、当時の民主党)の質問に対する政府参考人としての答弁。

  • 奥野:(前略)なぜ羽田の騒音を千葉市民が我慢しなきゃいけないんだ、もっと首都圏全体で引き受けてくれないかという声があるんですが、その点についていかがでしょうか。
  • 田村:(前略)現在のルートを直ちに大きく変更するということはなかなか容易ではございませんけれども、首都圏全体での騒音共有という課題は、今後の機材の低騒音化、あるいは将来の技術の進展等にあわせて取り組むべき長期的課題として、引き続き検討してまいりたいというふうに考えております。

そのときはまだ「長期的課題」と位置付けられていた。

その後、羽田新ルートの運用が開始され、「首都圏全体での騒音負担の共有」を強調し始めたのは、今年4月6日の衆議院「決算行政監視委員会第四分科会」で松原仁 議員の質問を受けた航空局長の次の答弁

羽田空港の騒音は、これまで主に千葉県側で負担をいただいておりましたけれども、新飛行経路の運用によりまして、首都圏全体での騒音共有が図られることになります

千葉県や関係25市町との確認書におきましても、15時から19時までのうち3時間程度においては、従来より使用されている飛行経路を運用しない旨確認をしているところでございます。

※千葉県は19年12月25日付けで国交省航空局長と羽田新ルートに係る「羽田再拡張後の飛行ルート等に関する確認書」を交わした。松原議員は、この確認書の件につき国交省が事前に都民との調整を十分に図らなかった姿勢を「独善的」として強く批判している。

その後、赤羽国交大臣は、機会あるごとにこの「騒音負担共有論」をPRするようになった。

  • 5月18日:参院「決算委員会」
    大事な視点が欠けてましてね、いまの主張には。この新ルートの導入に際して、実はこれまでこの首都圏の、特に羽田空港離着陸時の騒音は、千葉県に負担してもらってるんですよ。(略)
    ですから新飛行ルートをやめろということは、千葉県の皆さんに負担をかけるということなので、そう簡単に行くような話ではないということは申し添えておきたいと思います。
  • 6月3日:衆院「国土交通委員会」
    新しい飛行経路を採用しないと容量が間に合わないということでお決めになった。と同時に、これまで千葉県に偏っていたこの騒音の負担を平準化するべきだと。千葉の県下の25市町からも大変強い要望がございまして、こうした二つの視点から導入されたものでございます。
  • 6月30日:赤羽大臣記者会見

    そもそも羽田空港の新経路につきましては、よく御承知かと思いますが、2つの視点がありまして、1つは首都東京の国際競争力の強化と同時に首都圏空港の機能の強化
    こういった1つの柱と、もう1つは、かねてより千葉県に偏っておりました首都圏における騒音負担の平準化

千葉県民も我慢しているんだから都民も我慢すべきだと言わんばかりの、千葉県民vs都民という新たなロジックに活路を見出した赤羽大臣の頭の中には、羽田新ルートの導入を回避すべく第3の道を探ろうという意思はホントにあるのだろうか。

助走期間論」(コロナ減便期間を羽田新経路のフル運用に向けた助走期間と位置付けること)を言い始めた時のように、和田航空局長(東大法卒、87年運輸省入省)の手のひらで踊らされているだけではないのか。

「騒音負担共有論」は妥当なのか?

赤羽大臣が好んで使い始めた「騒音負担共有論」は妥当なのか?

千葉県従来ルートの飛行高度に係る評価

資料2(本検討会について)に掲載されている「羽田空港における従来の飛行経路」(P2)には、「従来の飛行経路においては、航空機はほぼ千葉県上空を利用して羽田空港に離着陸」と記されている(次図)。

羽田空港における従来の飛行経路
南風時到着経路(濃い赤色)は、「6000ft未満」(≒1.8km)と記されている。この「未満」という表現は、これより低い高度で飛行することを強調し過ぎていないだろうか。「6000ft未満」というからには「〇〇ft以上」という情報も併記しないとフェアではないのではないか。

実際のeAIP(電子航空路誌)で確認すると、次の通りだ。

南風時に南側からB滑走路(RWY22)に進入するメインのルートは、千葉上空を概ね5000ft(≒1.5km)以上で通過することになっている(次図)。

南風時に南側からB滑走路(RWY22)に進入するメインのルート


また、南風時に北側からD滑走路(RWY23)に進入するメインのルートは、千葉上空を概ね4000ft(≒1.2km)以上で通過することになっている(次図)。

南風時に北側からD滑走路(RWY23)に進入するメインのルート

このようにどちらのルートも千葉県内では、かなり上空を飛行していることが分かる。

千葉県を通過する従来ルートが1.2km(D滑走路ルート)~1.5km(B滑走路ルート)に対して、羽田新ルートが都心を通過する高度ははるかに低い(港区750m、品川区600m)。

千葉県従来ルート周辺人口に係る評価

筆者の独自調査によれば、羽田新ルートによって騒音の影響を受ける都民の人口は約109万人(ルート直下から水平距離500mの住民、2015年国勢調査人口)だった。

では、千葉県従来ルートで騒音の影響を受ける千葉県民はどのくらいいるのだろうか?

都民影響調査と同様の手法で、千葉県従来ルートのうち、より低く飛ぶD滑走路到着ルート周辺の人口を調べてみた(写真)。

D滑走路到着ルート周辺の250mメッシュ人口図
(D滑走路到着ルート周辺の人口分布_250mメッシュ・データ)

結果は、約7.3万人となった。

従来ルートで騒音影響を受ける千葉県民(約7.3万人)の負担を軽減するために、その15倍の都民(約109万人)に影響を及ぼす羽田新ルートを運用するというロジックは合理的といえるか

※千葉県内を通過するB滑走路到着ルート周辺の人口を加えたとしても、千葉県民影響人口よりも都民影響人口がはるかに多いという結論が変わることはない。さらにいえば、羽田新ルートの場合は埼玉県民騒音影響人口が加わるので、千葉県民影響人口との差はもっと広がる。

 

結論

以上をまとめと、赤羽大臣が最近盛んに言い始めた、千葉県に偏っていたこの騒音の負担を平準化するべきという「騒音負担共有論」は、飛行高度的にも騒音影響人口的にも無理筋に持ち出したロジックであると断定せざるを得ない。

 

※追記21年6月28日

上述の検討において千葉県従来ルートについては、好天時ルートのみを比較検討の対象としたが(悪天時ルートは人口の多い船橋市や習志野市を通過する)、悪天時ルートを考慮しても結論は変わらない。なぜなら、年間を通して悪天時にB滑走路到着ルートを通過する機数の割合は2~4%程度と極めて少ないからである(次図)。

悪天時に江戸川区上空を飛行する B滑走路到着ルートを通過する機数・率の変化
江戸川区「令和元年度着陸機騒音調査結果」を元に作成

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