第216回国会(24年11月28日~12月21日)の参議院の質問主意書を眺めていて、川口市・蕨市のクルド人問題に関する質問主意書があることに気が付いた。
神谷宗幣 参議院議員(参政党)が12月4日に提出した質問主意書に対する政府答弁書が公開されたのでひも解いてみた。
読みやすいように、一問一答形式に再構成。
※時間のない方は、「質疑応答のポイント」と文末の「雑感」をお読みいただければと。
- 神谷宗幣 参議院議員(参政党)
- 問1:警察が被疑者情報を公開する際の基準?
- 問2:情報の公開が差別や偏見を助長しないためにどのような配慮?
- 答1&2:一律基準を設けることとはしていない。プライバシー保護等
- 問3:被疑者国籍などの公開/非公開が捜査に支障を及ぼした事例?
- 答3:お答えすることは困難
- 問4:外国籍運転者数、運転免許証の不正利用で摘発件数?対策?
- 答4の前段:123万8704人。(摘発件数)お答えすることは困難
- 答4の後段:運転免許制度の適切な運用、外国人への交通ルール周知
- 問5:「送還拒否の教唆」を刑事罰の対象に含める法改正を検討?
- 答5:お答えすることは困難
- 問6:トルコ国籍者に対する査証免除措置、一時停止する是非?
- 答6:見直しが必要とは考えていない
- 問7:外国人事案の専門体制の拡充、・・・、検討すべき
- 答7:適切な通訳の確保等を推進してきたところである
- 問8:政府は語学補助員の配置など必要な財政措置を検討?
- 答8:外国人児童生徒の母語を解する支援員派遣に係る取組等に補助
- 雑感(政府答弁は玉虫色…)
神谷宗幣 参議院議員(参政党)
神谷宗幣 参議院議員(1期、参政党、元高校講師、元陸上自衛隊・予備自衛官三等陸曹、関大法科大学院修了:法務博士、47歳)
外国人の人口比率が高い自治体では、外国人住民の増加に伴い、生活習慣や文化の違いから地域社会に様々な課題が生じている。特に、埼玉県川口市においては、令和6年4月1日現在、外国人住民数が4万4441人に達し、総人口の7.32%を占めている。このような急速な人口構成の変化が地域社会に様々な影響を与えている。
川口市には、中国、ベトナム、フィリピン、韓国、ネパールなど多国籍の外国人住民がいるが、犯罪が発生した際、特定の外国人集団が犯罪の主因であるかのような誤解を招く報道やSNSが発信されることがあり、これが地域住民の不安を増幅させる事態につながっている。
犯罪が発生した際に地域住民が求めているのは、被疑者の特定につながる具体的な情報である。例えば、身体的特徴や服装、国籍など、警戒を促す情報が公開されることで、住民間での適切な注意喚起が可能になるが、現状では、これらの情報が十分に公開されておらず、不安を助長し、地域社会の混乱を深めているとの指摘がある。
こうした課題に対応するためには、住民と行政が協力して情報公開基準の明確化等の具体的な対策を進めることが必要であると考える。
以上を踏まえ、質問する。
問1:警察が被疑者情報を公開する際の基準?
犯罪が発生した際、警察が被疑者情報を公開する際の基準を具体的に明らかにされたい。
問2:情報の公開が差別や偏見を助長しないためにどのような配慮?
警察は、被疑者の迅速な特定と地域住民への適切な注意喚起を目的として、身体的特徴や服装、国籍などの具体的な情報の公開基準をどのように設定しているか。
公開基準が存在しない場合、その策定について政府の見解を示されたい。
また、情報の公開が差別や偏見を助長しないためにどのような配慮をしているのか、具体的に明らかにされたい。
答1&2:一律基準を設けることとはしていない。プライバシー保護等
警察においては、犯罪等が発生した際には、事案の内容等に応じ、被疑者の特徴その他の必要な情報を地域住民等に提供し、自主的な防犯対策を促すこととしており、当該情報の提供の要否及びその内容について、一律の基準を設けることとはしていない。
また、当該情報の提供の要否及びその内容については、事案の内容等に応じ、個別に判断すべきものであることから、一律の基準を設けることは適当ではないと考えている。他方で、実際の当該情報の提供に当たっては、事件関係者のプライバシーの保護等に細心の注意を払うこととしている。
問3:被疑者国籍などの公開/非公開が捜査に支障を及ぼした事例?
過去の犯罪捜査において、被疑者の身体的特徴や服装、国籍などの公開又は非公開が捜査に支障を及ぼした事例はあるか。
ある場合、どのような支障を及ぼしたのか、具体的な事例を挙げて明らかにされたい。
答3:お答えすることは困難
お尋ねの「公開又は非公開が捜査に支障を及ぼした事例」の具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難であるが、一般論としては、警察が被疑者の特徴その他の情報を公開することにより、有益な情報を得られる可能性があるほか、地域住民等に自主的な防犯対策を促すことができる一方で、罪証隠滅のおそれが高まることもあり得るため、当該情報の公開に当たっては、こうした捜査に与える影響等を勘案して判断している。
問4:外国籍運転者数、運転免許証の不正利用で摘発件数?対策?
最近、外国人が国際運転免許証を不正取得した上、重大な交通事故を引き起こした事例が報道されている。また、住民として居住していない外国人が、滞在先のホテルを住所として日本の運転免許証を取得している事例も指摘されている。
この状況を踏まえ、日本国内における外国籍運転者数(免許別)、運転免許証の不正取得や不正利用で摘発された件数、外国籍運転者による事故の事例、件数(免許別)、被害の実態を示されたい。
また、当面考えられる法や規則の改正などの対策についても政府の見解を示されたい。
答4の前段:123万8704人。(摘発件数)お答えすることは困難
お尋ねの「外国籍運転者数(免許別)」の意味するところが必ずしも明らかではないが、我が国の運転免許(仮運転免許を除く。以下同じ。)を受けている者のうち、外国籍を有する者の数は、令和6年10月末時点において、123万8704人である。その運転免許の種類ごとの内訳については、第1種運転免許及び第2種運転免許の別に、運転免許の種類別の運転免許を受けている者の数をお示しすると、それぞれ次のとおりである。
1 第1種運転免許
- 大型自動車免許 3万2032人
- 中型自動車免許 33万1183人
- 準中型自動車免許 30万6088人
- 普通自動車免許 48万8502人
- 大型自動2輪車免許、普通自動2輪車免許又は原動機付自転車免許 6万5641人
- その他の運転免許 75人
2 第2種運転免許
- 大型自動車第2種免許 3415人
- 中型自動車第2種免許 5804人
- 普通自動車第2種免許 5954人
- その他の運転免許 10人
なお、第1種運転免許と第2種運転免許の双方を受けている者については、第2種運転免許を受けている者として、第1種運転免許のうち複数の運転免許を受けている者については、道路交通法(昭和35年法律第105号)第71条の5第2項に規定する上位免許を受けている者として、第1種運転免許のうち大型自動二輪車免許、普通自動二輪車免許又は原動機付自転車免許とこれら以外の運転免許(小型特殊自動車免許を除く。)の双方を受けている者については、後者の運転免許を受けている者として、それぞれ集計している。
また、お尋ねの「運転免許証の不正取得や不正利用で摘発された件数」については、その具体的に意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である。
さらに、お尋ねの「外国籍運転者による事故の事例」については、調査に膨大な作業を要するため、網羅的にお答えすることは困難であるが、例えば、令和6年9月29日に埼玉県川口市において発生した、我が国の運転免許を同法第99条第1項に規定する指定自動車教習所で検定を受けた上で学科試験を経て取得した中華人民共和国の国籍を有する運転者が第一当事者であった死亡事故があるものと承知している。
加えて、お尋ねの「外国籍運転者による事故」の「件数(免許別)」及び「被害の実態」の意味するところが必ずしも明らかではないが、令和5年中、同法第107条の2に規定する国際運転免許証を所持する外国籍を有する者が第一当事者であった交通事故(人の死傷を伴うものに限る。以下同じ。)は190件発生し、死者数は5人、負傷者数は233人であり、同条に規定する外国運転免許証を所持する外国籍を有する者が第一当事者であった交通事故は34件発生し、死者はおらず、負傷者数は43人であり、我が国の運転免許を受けている外国籍を有する者が第一当事者であった交通事故は6367件発生し、死者数は39人、負傷者数は7983人である。
また、これらの運転免許の種類ごとの内訳については、網羅的に把握しておらず、お答えすることは困難である。
答4の後段:運転免許制度の適切な運用、外国人への交通ルール周知
御指摘の「当面考えられる法や規則の改正などの対策」の具体的に指し示す範囲が必ずしも明らかではないが、外国人向けの交通安全対策については、警察では、これまでも外国人に対し、リーフレットを配布するなどして交通ルールの周知を行ってきたところ、引き続き、交通事故の発生状況等を注視しつつ、運転免許制度の適切な運用及び外国人に対する交通ルールの周知による道路交通の安全確保に努めてまいりたい。
問5:「送還拒否の教唆」を刑事罰の対象に含める法改正を検討?
本来送還されるべき不法滞在者や虚偽の難民申請者に対し、送還を拒否するよう促す「送還拒否の教唆」は、現状で刑事罰の対象外となっている。
「送還拒否の教唆」が出入国管理や送還を妨げるリスクについて、政府はどのような防止策を講じているか。また、「送還拒否の教唆」を刑事罰の対象に含める法改正を検討する考えがあるか、政府の見解を示されたい。
答5:お答えすることは困難
御指摘の「送還拒否の教唆」の意味するところが明らかではないため、お尋ねについてお答えすることは困難であるが、いずれにせよ、退去強制令書の発付を受けたにもかかわらず、本邦からの退去を拒んでいる者については、適切に対処してまいりたい。
問6:トルコ国籍者に対する査証免除措置、一時停止する是非?
川口市及び蕨市において、トルコ国籍のクルド人の人口が増加している問題について、政府は現状をどのように認識し、トルコ政府や駐日トルコ大使館とどのような協議や連携を行っているのか、具体的な施策を示されたい。
また、トルコ国籍者に対する査証免除措置が滞在期限直前の難民申請につながっているとの指摘があるが、この措置を一時停止することの是非について政府の見解を示されたい。
答6:見直しが必要とは考えていない
前段のお尋ねのうち、「認識」については、御指摘の「トルコ国籍のクルド人の人口が増加している問題」の意味するところが必ずしも明らかではないが、令和5年12月末時点で埼玉県内に居住するトルコ共和国の国籍を有する者は1786人であり、これは平成25年と比較すると約3倍に増加していると承知している。
また、前段のお尋ねのうち、「トルコ政府や駐日トルコ大使館とどのような協議や連携を行っているのか」については、相手国との関係もあり、特定の国に関し、お答えすることは差し控えたいが、一般的には、政府としては、多言語で「生活.就労ガイドブック」を作成するなど、「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」(令和4年6月14日外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定、令和6年6月21日1部変更)等に基づき、地域における外国人との共生社会の実現に向けた取組を進めている。
また、後段のお尋ねについては、御指摘の「トルコ国籍者に対する査証免除措置」と「滞在期限直前の難民申請」との因果関係が明らかではないため、お答えすることは困難であるが、政府としては、現時点で、トルコ共和国の国籍を有する者の短期滞在に係る「査証免除措置」の見直しが必要とは考えていない。
問7:外国人事案の専門体制の拡充、・・・、検討すべき
川口市など外国人人口が多い地域における治安確保や地域相談活動において、埼玉県警察の外国人事案への対応体制が不十分であるとの指摘がある。
外国人による重大な事件が発生している状況を踏まえ、迅速な対応を可能にするため、外国人事案の専門体制の拡充、警察署、駐在所、交番の増設などを含む特別な追加予算措置、人員体制の見直し、言語対応能力向上のための技術支援を政府として検討すべきではないか。
答7:適切な通訳の確保等を推進してきたところである
政府としては、日本人と外国人が安心して安全に暮らせる社会を実現することが重要であると考えており、「「世界一安全な日本」創造戦略2022」(令和4年12月20日閣議決定)及び「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和6年度改訂)」(令和6年6月21日外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議決定)に基づき、警察における人的基盤の強化や外国人とのコミュニケーションの円滑化のための装備資機材の活用、適切な通訳の確保等を推進してきたところである。引き続き、これらの取組を推進してまいりたい。
問8:政府は語学補助員の配置など必要な財政措置を検討?
川口市の公立小中学校では、日本語でのコミュニケーションが難しい外国人児童・生徒が多数在籍しており、特に、中国語など教職員が対応困難な言語を母語とする児童・生徒の受入れにより、学校運営に特別な負担が生じている。
このような教育現場の状況に対し、政府は語学補助員の配置など必要な財政措置を検討しているか示されたい。
答8:外国人児童生徒の母語を解する支援員派遣に係る取組等に補助
文部科学省においては、地方公共団体が行う各学校における日本語指導が必要な児童生徒の受入体制の整備について、平成25年度から「帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業」により、外国人児童生徒の母語を解する支援員の派遣に係る取組等について補助を行っているところである。
雑感(政府答弁は玉虫色…)
川口市・蕨市において、トルコ国籍のクルド人の人口が増加している問題(1,786人。23年12月末)。
神谷宗幣 参議院議員(参政党)は、「犯罪が発生した際に地域住民が求めているのは、被疑者の特定につながる具体的な情報で、(略)住民と行政が協力して情報公開基準の明確化等の具体的な対策を進めることが必要である」と訴えている。それに対して「当該情報の提供の要否及びその内容について、一律の基準を設けることとはしていない。(略)事案の内容等に応じ、個別に判断すべき」というのが政府答弁。
また、現状で刑事罰の対象外となっている「『送還拒否の教唆』を刑事罰の対象に含める法改正を検討する考えがあるか」との質問に対して、「本邦からの退去を拒んでいる者については、適切に対処してまいりたい」と政府答弁は玉虫色……。
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