国交省は7月16日、川崎区の大師地区町内会長会議において、南風時にB滑走路を出発して川崎市上空を通過するルート(以下、「川崎ルート」)につき、「国内線のB777(略)当面の羽田空港の減便を踏まえた暫定運用として、伊丹便1便の離陸を1日の上限とすることとし、那覇便を含むその他のB777については、A滑走路からの離陸に振り替える」と報告。
これは羽田新ルート反対派にとって朗報なのかという話。
FAQ冊子v6.2_P25にピンクを加筆
キッカケは川崎市議(共産)のリツイート
「B滑走路離陸時B777は伊丹便1便に、他のB777は海の上空へ出るルートへ振り替える」ことになったという川崎市議(共産)のツイートが流れてきた。
川崎市まちづくり局長が7月17日、川崎市議宛に発信した文書とともに資料2・3も添付されていたのでひも解いてみよう。
「減便中の騒音軽減策」という、まやかし
国交省は、減便中の騒音軽減策として「国内線のB777(略)当面の羽田空港の減便を踏まえた暫定運用として、伊丹便1便の離陸を1日の上限とすることとし、那覇便を含むその他のB777については、A滑走路からの離陸に振り替える」としている(下記朱書き文章)。
令和2年7月17日
川崎市議会議員各位
まちづくり局長
「羽田空港の新飛行経路の運用について」(情報提供)
羽田空港の新飛行経路については、令和2年3月29日から運用が開始されたところでございますが、7月16日に開催された大師地区町内会長会議において、国土交通省から、新経路の運用状況(資料1)や7月16日現在のダイヤ(資料2)について報告がありましたので、情報提供いたします。
また、南風時のB滑走路西向き離陸の当面の運用として、次の通り、減便中における騒音軽減策(資料3)について説明がありましたので、併せて情報提供いたします。詳細につきましては、別添資料をご覧ください。
【減便中における騒音軽減策について】
国内線のB777の南風時新経路運用時間帯のB滑走路西向き離陸については、当面の羽田空港の減便を踏まえた暫定運用として、伊丹便1便の離陸を1日の上限とすることとし、那覇便を含むその他のB777については、A滑走路からの離陸に振り替えることとする。本市といたしましては、騒音影響の大きい機材によるB滑走路からの離陸運用の見直し等について、国土交通大臣あてに要望をしておりますので、引き続き、それらの要望に関する国の対応状況を確認するとともに、騒音・安全対策等の必要な対応を国に対し求めてまいります。
【資料】
- 羽田空港の新経路運用状況(7月5日現在)(国土交通省)
- 2020年夏ダイヤ(15時台~18時台)においてB滑走路から離陸する可能性のある便一覧(7月16日現在)(国土交通省)
- 減便中における騒音軽減策(南風新経路時間(15~19時))(国土交通省)
国交省の暫定運用を具体的に確認してみる。
資料2「2020年夏ダイヤ(15時台~18時台)においてB滑走路から離陸する可能性のある便一覧(7月16日現在)」には全77便(運航53、運休24)の内訳が掲載されている(次図)。
⇒拡大(PDF:252KB)
川崎ルート全77便のうちB777便は6便(運航4、運休1)(7月16日現在)。
また、伊丹便は全9便のうちB777は4便(運航3・運休1)だから、3便のうちの1便だけが川崎ルートの飛行を許されるということになる(次表)。
(資料2をもとに筆者作成)
結局どういうことなのか。
全77便の内訳を可視化すると、国交省の狡猾さが見えてくる(次図)。
7月16日現在運航されているB777は4便(うち伊丹便は3便)。だから国交省のいう「減便中における騒音軽減策」の実態は、たったの3便のB777を海上ルートに振り替えたに過ぎないのである。
なぜ川崎ルートだけが暫定見直しできたのか?
とは言え、なぜ川崎ルートだけが見直しされたのか。なぜ都心を通過して羽田に到着するルートは見直されないのか。
考えられる理由は、次の通りだ。
コロナ減便にも関わらず赤羽国交大臣が羽田新ルートを強行している理由に「新経路のフル運用に向けた助走期間論」(3月27日記者会見)を公言してしまったことと関係があるのではないか。
なかでも、羽田到着ルートの降下角3.45度問題。特に気温が高くなる夏場は問題が深刻化すると指摘されている。そのためのデータを収集するためにも助走期間が必要だと発言したのである(3月24日記者会見)。
降下角引き上げによる効果については、これまでの降下角3度で降下した場合に比べ、1つは3.45度のまま降下する場合、もう1つは一旦3.45度超で降下して3度のパスに会合する場合の2通りの調査をしましたが、いずれも一定の騒音軽減効果が見られました。
ただし、実機飛行確認中のサンプル数が少ないことから、3月29日後もデータを収集し、情報公開を進めるとともに、これまで説明してきました推計平均値を著しく上回る結果となった場合には原因究明を行い、必要に応じて対策も考えてまいりたいと思っております。
川崎ルートについては、降下角3.45度問題は存在しないので、今回暫定措置として、A滑走路からの離陸(海上に向かって離陸)に振り替えても大臣発言との整合性が確保できる。
【追記】川崎ルート騒音データを可視化
※7月21日更新
神奈川県の騒音測定局の位置
神奈川県が川崎ルート周辺で騒音をモニタリングしている測定局は、次の6か所(次図)。
- 殿町小学校
- 川崎区役所大師分室
- 臨港消防署千鳥町出張所
- 自動車税管理事務所川崎駐在事務所
- 川崎市環境総合研究所
- 川崎生活環境事業所
最大騒音レベル(6か所)の推移
神奈川県は、年4回、6地点で1週間から2週間の騒音測定を実施し、県のホームページで公開している。
7月10日に公表された「2020年度第一期(2020年4月~6月)」データを可視化したのが次図。
川崎ルート直下から約1.2km離れた殿町小学校の最大騒音レベルは80dBを超えている。
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