不慮の事故といえば、交通事故、転倒・転落、溺死・溺水、窒息などが思い浮かぶ。どれも身近で、毎年多くの人が命を落としている。
しかし、その実態は必ずしも正確に伝えられていない。テレビは「絵になる事故」を好む。高齢ドライバーによる交通事故が繰り返し報じられる結果、あたかも“暴走老人”が社会にあふれているかのような印象が作られてきた。
だが、数字は違うことを語っている。厚生労働省が公表する人口動態調査の「不慮の事故」データを丁寧に読み解くと、事故の“主役”は別のところにいる。
※初投稿2022年4月9日(更新2025年12月13日:2024年データ反映)
不慮の事故による死亡者数、交通事故よりも転倒・転落が多い
交通事故による死亡者数は年々減少している。2024年は3,511人、1日あたり9.6人である。
一方、不慮の事故全体で見ると、死亡要因の順位はすでに逆転している。1位は「転倒・転落」、2位が「溺死・溺水」、3位が「窒息」だ(次図)。
とくに転倒・転落は増加基調が続く。2017年に急増し、いったん頭打ちとなったものの、2021年に1万人を突破。2024年は11,935人、1日あたり32.7人に達した。

「第5.13表 死因(死因簡単分類)別にみた性・年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」を元に筆者作成
交通事故で死亡する割合、高齢者よりも「15~29歳」が高い
2024年の不慮の事故について、死因別・年齢別の死亡者数を示したのが次図である。
絶対人数で見ると、65歳以上が圧倒的に多い。転倒・転落、窒息、溺死・溺水はいずれも80歳以上で大きく跳ね上がる。

「第5.31表」を元に筆者作成
ところが、死亡数百分率(=当該死亡者数÷当該対象総人口×100)で見直すと、景色は一変する(次図)。
交通事故による死亡割合は、高齢者よりも「15~29歳」のほうが高い。 報道で強調されがちな「高齢者の事故」は、実数が多いだけで、割合として突出しているわけではない。多くの高齢者は、交通事故を起こしていないのである。

「第5.32表」を元に筆者作成
「不慮の事故」の内訳(2024年)
ここからは、死亡者数の多い「転倒・転落」「溺死・溺水」「窒息」について、内訳を確認する。
転倒・転落で65歳以上、毎日27人死亡
転倒・転落の内訳で圧倒的なのが、65歳以上の「スリップ、つまづき及びよろめきによる同一平面上での転倒」である(次図)。
65歳以上だけで9,737人。1日あたり26.7人、ほぼ毎日27人が自宅や身近な場所で転倒し、命を落としている。

「第5.31表」を元に筆者作成
死亡数百分率で見ても傾向は変わらない。65歳以上では、同一平面上での転倒が突出して高い(次図)。

「第5.32表」を元に筆者作成
浴槽で死亡する割合、5~14歳は65~79歳と同程度
不慮の溺死・溺水は、大きく次の2つに分かれる。
- 浴槽内での及び浴槽への転落による溺死・溺水
- 自然の水域内での及び自然の水域への転落による溺死・溺水
65歳以上の浴槽内での死亡は7,363人、1日あたり20.2人と多い。

「第5.31表」を元に筆者作成
一方、死亡数百分率で見ると別のリスクが浮かび上がる(次図)。
5~9歳は自然水域での事故割合が高い。さらに注目すべきは、5~14歳の浴槽での死亡割合が、65~79歳とほぼ同水準である点である。

「第5.32表」を元に筆者作成
不慮の窒息、割合では乳幼児のリスクが高い
不慮の窒息は、次の4区分に整理されている。
- 胃内容物の誤えん
- 食物の誤えん
- その他の物体の誤えん
- 詳細不明
人数で最も多いのは、65歳以上の食物の誤えんによる死亡である。2024年は3,992人、1日あたり10.9人にのぼる。

「第5.31表」を元に筆者作成
しかし、死亡数百分率で見ると、乳幼児のリスクが際立つ。 「胃内容物」や「食物」の誤えんで窒息による死亡割合は、高齢者よりも乳幼児ほうが高い(次図)。

「第5.32表」を元に筆者作成
まとめ
不慮の事故は、実数だけを見ると高齢者の問題に見える。だが、死亡数百分率で可視化すると、年齢ごとに異なるリスクがはっきりする。
- 転倒・転落
死亡者数の大半は65歳以上。とくに同一平面上での転倒が多く、毎日27人が命を落としている。 - 溺死・溺水
浴槽での死亡は高齢者が多いが、5~14歳の浴槽事故割合は65~79歳と同水準である。 - 窒息
実数では高齢者が多いものの、割合で見ると乳幼児のリスクがより高い。
事故の実像は、センセーショナルな報道の外側にある。数字をどう見るかで、見える社会は大きく変わるのである。
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