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住宅ローンが「最後の一押し」になる恐怖。最新データで判明した、破綻者の約6割が抱える「複合苦」の正体

「変動金利、ついに上昇か」

連日のように流れるニュースを見て、胃がキリキリしている人は多いはずだ。
これから家を買う人はもちろん、すでにローンを返済中の人にとって、金利上昇は家計を直撃する死活問題である。

「もし払えなくなったら、どうなるのか?」
「実際にどれくらいの人が、住宅ローンで破綻しているのか?」

残念ながら、金融庁や銀行は、この「不都合な真実」を大々的には公表していない

そこで今回、日本弁護士連合会(日弁連)が2025年8月に作成した最新の「2023年破産事件及び個人再生事件記録調査」と、裁判所の司法統計を掛け合わせ、独自にその実態を推計した。

そこから見えてきたのは、数字上の「破綻件数減少」という安心材料の裏に隠された、現代特有の「複合破綻」という静かなる危機だった。


もくじ

そもそも、どうやって「住宅ローン破綻数」を出すのか?

本題に入る前に、推計のロジックを簡単に説明しておく。
住宅ローン破綻には、大きく分けて2つのパターンがある。

  1. 自己破産:家を手放し、すべての借金をチャラにする(最終手段)。
  2. 個人再生:家を残しつつ、それ以外の借金を大幅に減額してもらう(家を守る手段)。

今回の推計では、司法統計にある「全破綻件数」に、日弁連の調査による「住宅購入が原因で破綻した人の割合」を掛け合わせることで、その実数を算出した。

ここで一つ、非常に重要な事実をお伝えしなければならない。
日弁連の調査データは「複数回答」であるということだ。
たとえば、ある人の破綻理由が「住宅ローン」と「給料減」の両方であれば、それぞれにカウントされる。これは単なる集計上のルールではない。「破綻する人は、複数の悩みを同時に抱えている」という残酷な現実を示しているのだ。

住宅ローン苦による「自己破産」のリアル

まずは「自己破産」のデータから見ていこう(次図)。家を手放さざるを得なかった人たちだ。

2023年の日弁連データによると、自己破産の理由として「住宅購入」を挙げた人は全体の6.08%。
「たった6%か」と思っただろうか? だが、この数字を単独で見てはいけない。
自己破産理由のトップは、ダントツで「生活苦・低所得」であり、その割合は65.86%に達している。これは2000年以降で最も高い水準だ。

自己破産理由(多重債務に陥った原因の推移)

グラフを見てほしい。「住宅購入(ピンク色)」の割合自体は、ピーク時の2014年(16.05%)から下がっている。しかし、全体の背景にある「生活苦(青色)」は右肩上がりだ。
これは何を意味するのか。

「住宅ローン単体」で破綻する人は稀だということだ。多くのケースでは、「生活苦」というベースがあり、そこに病気や収入減などのトラブルが起き、最後に「毎月の住宅ローン」という固定費が逃げ場を塞いで、破産へと追い込まれている。

住宅ローンは、破綻の「主犯」ではないかもしれない。しかし、ギリギリの家計における「最後の一押し(トドメ)」になっている可能性が高いのだ。

家を守ろうともがく「個人再生」の実態

次に、「個人再生」のデータを見る(次図)。こちらは「家だけは守りたい」と法的手続きをとった人たちだ。

個人再生申立理由(多重債務に陥った原因)の推移

こちらの傾向は、自己破産とは全く異なる。
「住宅購入」を理由に挙げた人は21.86%。理由の第3位にランクインしている。自己破産(6.08%)と比べて圧倒的に割合が高い。
なぜか?

 

個人再生を選ぶ人は、当然ながら「マイホームへの執着」が強い。「住宅ローン特則」という制度を使えば、住宅ローンを払い続けることで家を残せるからだ。

しかし、冷静に考えてみてほしい。
生活が苦しくて借金を整理しようとしているのに、「住宅ローンだけは払い続ける」という選択は、家計にとって修羅の道だ。

この21.86%という数字は、「他のすべてを犠牲にしてでも家を守りたい」という悲痛な叫びの数でもある。

「住宅ローン破綻」の正体は「複合破綻」である

今回の分析で最も注目すべきは、2023年データの「回答合計値」だ。
自己破産理由の各項目のパーセンテージを合計すると、なんと約250%になる。
これはどういうことか。

単純計算で、破産者は1人あたり「平均2.5個」の深刻な原因を併発しているということだ。

  • 「住宅ローン」×「生活苦」
  • 「住宅ローン」×「病気・医療費(26.44%)」
  • 「住宅ローン」×「教育資金(9.49%)」

これこそが、現代の破綻の正体、「複合破綻」だ。

健康で、給料が入っているうちは、多少無理なローンでも返せる。しかし、人生には「まさか」がつきものだ。
病気になったり、子供の教育費がピークを迎えたりした時、そこに「高額な住宅ローン」という重石があると、家計は一瞬でバランスを崩す。

金利上昇の恐怖はここにある。
ただでさえ「複合的な悩み」を抱えている家計に、「利払い増」という新たな爆弾が投げ込まれることになるからだ。

破綻件数は「過去最低」。これをどう読むか?

最後に、独自推計した「住宅ローン破綻件数(自己破産+個人再生)」の推移を見てみよう(次図)。

住宅ローン破たん件数の推移(推計)

住宅ローンを破綻理由の一つとして挙げた「住宅ローン関連破綻」の推計件数は、2023年で6,356件。前述の通り、この中には「病気」や「生活苦」など他の理由を併発している人も含まれるが、住宅ローンが重荷となっていたことは事実だ。この数字は、2005年のピーク(2万5千件)と比較すると4分の1になり、直近の2020年(8,161件)と比べても減少している。

「なんだ、破綻者は減っているじゃないか」

そう安心するのは早計だ。むしろ危険である。
この数字が低い背景には、コロナ禍における「実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)」や、金融機関による「返済猶予(モラトリアム)」の効果が残っていた可能性がある。

つまり、本来なら破綻していたはずの層が、国の支援策によって一時的に延命されているだけかもしれないのだ。

さらに重要なのは、このデータが「2023年の記録」である点だ。
本格的な物価高や、日銀の金利引き上げの影響が家計に反映されるのは、これからである。
このグラフの右端が下がっているのは、「嵐の前の静けさ」である可能性が高い。

まとめ:1800人に1人の「ロシアンルーレット」

それでは、この実態を「現在ローンを借りている人全体」の中で見るとどうなるか。

国土交通省の2024年調査による融資残高のある総件数(現在ローンを借りている人の総数)は、11,500,056件である。

この最新の数字を分母にすると、住宅ローンが要因となった破綻率は約0.055%。 およそ「1800人に1人」の割合となる。

「たったそれだけ?」と思うかもしれない。しかし、この数字は「住宅ローンさえなければ持ちこたえられたかもしれない人」の数でもある。

この数字を「自分には関係ないレアケース」と笑い飛ばせるだろうか?
1800人に1人が、夢のマイホームによって人生設計を崩壊させている。
そしてその多くは、「まさか自分が」と思っていたはずだ。彼らの敗因は、無謀だったからではなく、「複数の不運が重なった時に、耐えられるバッファ(余裕)がなかった」ことにある。

これから変動金利のローンを組む人、あるいは既に組んでいる人に伝えたい。
銀行の審査が通った額は、「返せる額」ではない。「何もトラブルがなければ返せる額」に過ぎない。
金利上昇時代において、家を守る最強の盾は「低金利」ではない。「余裕資金」だ。
「金利が1%上がったら、返済額はいくら増えるか?」
まずはスマホを取り出し、シミュレーションすることから始めてみてほしい。正常性バイアスを捨てることが、あなたの生活を守る第一歩になる。

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2025年6月1日、このブログ開設から21周年を迎えました (^_^)/
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