不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

首都圏を中心に、マンション選びのためのお役立ち情報を提供しています


解明!22年度「脱炭素化に資する航行方式審査基準等見直しに係る調査」【報告書編】

タイトルが「脱炭素化に資する・・・」となっているので、羽田新ルートとは関係ないと思いつつ、念のため開示請求しておいた。

開示された仕様書には、「本調査は、(略)RNP-AR航行の導入促進に資するものである」と記載されていた。「脱炭素化に資する・・・調査」は、羽田新ルートと大いに関係する調査だった。


もくじ

情報開示請求して2か月で報告書をゲット!

国交省航空局が22年度に委託していた羽田新ルートに関係しそうな件名(5件)につき、成果報告書の納入期限(≒業務委託履行期限)のタイミングをみて開示請求したのが3月26日。

  1. 新たな管制作業負荷計算手法に関する調査
  2. 脱炭素化に資する航行方式審査基準等見直しに係る調査
  3. 空港周辺における安全かつ効率的な運航を実現するための測位衛星を活用した新たな進入方式等に関する調査
  4. 首都圏空港の運航実態調査
  5. 羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務

本来は開示請求があった日から30日以内に開示しなければならないことになっているのだが(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」第10条)、30日の延長処理が行われた。延長理由は「当該開示請求に係る行政文書の調整等に時間を要するため」とされている(次図)。

延長理由
「開示決定等の期限の延長について(通知)」より
※上図6件のうち、(5)は東京航空局の件名なので、開示請求対象から除外された。

開示請求してから2か月余りが経過。6月7日に送付されてきたCD-Rをパソコンで読み取ろうとしたら、何とデータが書き込まれていなかった。大臣官房総務課公文書監理・情報公開室の担当者にその旨電話すると、6月12日にまともなCD-Rが郵送されてきた。

本日ひも解くのは、「脱炭素化に資する航行方式審査基準等見直しに係る調査」に係る次の文書。

件名は「脱炭素化に資する・・・調査」だが、実態は「RNP-AR航行の導入促進調査」

タイトルが「脱炭素化に資する・・・」となっているので、羽田新ルートとは関係ないと思いつつ、念のため開示請求しておいた。

入手した仕様書の「目的」の文章の前半には「航空機運航分野における CO2 削減に関する検討会」と出てくるので羽田新ルートとは関係ないように見える。

1.2 目的

2050年カーボンニュートラル及びICAOの「グローバル削減目標」達成に向け、航空の脱炭素化を進めるため、運航方式の改善による運航効率向上の努力を積み重ねていく必要があり、航空局においては、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」を令和3年2月より立ち上げ、必要な取り組みを進めることとしているところである。

ところが、中盤の文章には羽田新ルートでお馴染みの「RNAV航行」という表現で出てくる。

これを踏まえ、航空局安全政策課においては、令和3年度に関係事業者にアンケート調査を実施し、「RNAV航行の許可基準及び審査要領」(平成19年6月7日制定、国空航第195号・国航機第249号)(以下、「RNAV基準」という。)に係る課題等を整理したところである。当該調査においては、訓練の負担感が明確となり、RNAV基準の見直しのみならず、事業者が行う訓練全般に係る適正化・合理化の検討の必要性について明らかになったところである。

最期の一文に「本調査は、(略)RNP-AR航行の導入促進に資するものである」と記載されている。であるならば、「脱炭素化に資する航行方式審査基準等見直しに係る調査」ではなく、「RNP-AR航行の導入促進調査」としたほうが調査件名と調査内容が一致するように思うのだが……。

本調査は、RNAV基準に係る諸外国での審査基準の策定状況を精査することにより、RNP-AR航行の導入促進に資するものである。

実際、「調査項目」としては、次のように「諸外国におけるRNAV基準の策定状況」に限定されている。

2.調査事項
諸外国におけるRNAV基準の策定状況

  • ICAO、FAA、EASAにおける以下の関係文書を比較し、RNAVに関係する基準の策定状況を整理するとともに、我が国におけるRNAV基準との差分を明確化すること

「RNP-AR航行」とは、「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」が固定化回避の実現に向けた技術的選択肢となり得る2種類の飛行方式のひとつ。直近の検討会(22年8月3日開催)では、「飛行方式(RNP-AR)に関する基準見直し等の検討」が課題として認識されている。

ということなので、「脱炭素化に資する・・・調査」は、羽田新ルートと大いに関係する調査なのである。

報告書をひも解く

ICAO(国際民間航空機関)の基準に海苔が付いている

報告書は全201枚。本文10枚、別紙188枚。

ところどころ海苔が付いている(次図、次々図)。

報告書 本文
(報告書 本文)

報告書 別紙 P14~45
(報告書 別紙 P14~45)

 

墨消し部分に関して、国交省は「行政文書開示決定通知書」のなかで、「不開示とした部分とその理由」として次のように記している。

請求文書(2)に係る行政文書「概要」及び「報告書」のうち、国際民間航空機関(以下「ICAO」という。)が発行する基準については、一般に公開されておらず、公にすることにより、ICAOとの信頼関係が損なわれるおそれがあることから、法第5条第3号に規定する「国際機関との信頼関係が損なわれるおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。

目次構成

目次構成を以下に示す。

  • 1. 調査概要
  • 2. 諸外国におけるRNAVに関する基準の策定状況
    • 2.1 諸外国における基準の策定状況
    • 2.2 ICAO基準の策定状況
    • 2.3 米国の基準の策定状況
    • 2.4 欧州の基準の策定状況
    • 2.5 我が国の基準の策定状況
  • 3. 我が国の基準と諸外国の基準との主な相違点
    • 3.1 諸外国における基準の比較
    • 3.2 航空機の要件に関する主な相違点
    • 3.3 運用手順に関する主な相違点
    • 3.4 操縦者の知識及び訓練に関する主な相違点
    • 3.5 その他特記すべき事項
  • 別紙
    • 別紙 1 RNAV 10(RNP 10)方式に対する基準の比較表
    • 別紙 2 RNAV 5 方式に対する基準の比較表
    • 別紙 3 RNAV 1 & 2 方式に対する基準の比較表
    • 別紙 4 RNP 4 方式に対する基準の比較表
    • 別紙 5 RNP 2 方式に対する基準の比較表
    • 別紙 6 RNP 1(Basic-RNP 1)方式に対する基準の比較表
    • 別紙 7 RNP APCH(LNAV)方式に対する基準の比較表
    • 別紙 8 RNP APCH(LNAV/VNAV)方式に対する基準の比較表
    • 別紙 9 RNP APCH(LPV)方式に対する基準の比較表
    • 別紙 10 RNP AR APCH 方式に対する基準の比較表

概要版をひも解く

報告書は専門用語が多いので、門外漢に向けて要約するのは難しい。でも幸いなことに、本調査では概要版が作成されている。

そこで概要版(PDF8枚)のうち、「3. 我が国の基準と諸外国の基準との主な相違点」の「3.1 諸外国における基準の比較」を以下抜粋するので、雰囲気を感じ取っていただければと。

3.1   諸外国における基準の比較

第 2 章における ICAO 及び各国における RNAV に関する基準の策定状況を踏まえ、ICAO 及び各国における基準の比較が可能な 10 の方式(RNAV 10(RNP 10)、 RNAV 5、RNAV 1 & 2、RNP 4、RNP 2、RNP1(Basic-RNP 1)、 RNP APCH(LNAV)、 RNP APCH(LNAV/VNAV)、 PNP APCH(LPV)及び RNP AR APCH)を対象として基準の比較を行った。比較対象とした ICAO 及び各国における基準は以下の表のとおりである。

 諸外国における基準の比較

 

ICAOの部分だけは、シッカリ墨消しされている。

雑感(なぜ「RNP-AR航行の導入促進調査」でないのか)

なぜ、「RNP-AR航行の導入促進調査」ではなく、「脱炭素化に資する航行方式審査基準等見直しに係る調査」としたのか。

以下に示す3つの理由が考え得るのではないか。

ひとつは、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」と紐づけたほうが予算を確保しやすいというテクニカルな理由

もう一つの理由は、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」と「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」の委員長が同じ屋井鉄雄 東京工業大学環境・社会理工学院教授だから。

「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」では、空分野におけるCO2排出削減のアプローチのうち特に運航に関わる次の3分野について具体策を検討するとしている。

  1. 機材・装備品等への新技術導入
  2. 管制の高度化による運航方式の改善
    経路短縮など消費燃料削減に資する新たな運航方式の導入促進策、新技術の活用等
  3. 持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進

「管制の高度化による運航方式の改善」のなかには確かに「RNP-AR運航基準見直し」が掲げられている(次図)。

航空の脱炭素化推進に係る工程表
航空の脱炭素化推進に係る工程表」21年12月、より

諸外国の「RNP-AR運航基準」策定状況調査でえられた結果は、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」での活用はもちろん、「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」での活用も可能だ。両検討会の委員長を務める屋井鉄雄委員長にとっては、一石二鳥なのである

3つ目に考えられる理由は、「RNP-AR航行の導入促進調査」としてしまうと、羽田新ルート関係者の注目を集めてしまうから、なんてね。

あわせて読みたい

羽田新ルートに係る22年度報告書を開示請求した記事

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
Copyright(C)マンション・チラシの定点観測. All rights reserved.