博報堂は6年連続(17~22年度)で「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」を受注している。6年間の契約金額の合計は約17億円(次表)。
「「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」2.4億円」より
博報堂はどのような業務を実施したのか? 情報開示請求によって、博報堂が国交省に提出した22年度の成果報告書を入手したので、ひも解いてみた。
情報開示請求して2か月で報告書をゲット!
国交省航空局が22年度に委託していた羽田新ルートに関係しそうな件名(5件)につき、成果報告書の納入期限(≒業務委託履行期限)のタイミングをみて開示請求したのが3月26日。
- 新たな管制作業負荷計算手法に関する調査
- 脱炭素化に資する航行方式審査基準等見直しに係る調査
- 空港周辺における安全かつ効率的な運航を実現するための測位衛星を活用した新たな進入方式等に関する調査
- 首都圏空港の運航実態調査
- 羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務
本来は開示請求があった日から30日以内に開示しなければならないことになっているのだが(「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」第10条)、30日の延長処理が行われた。延長理由は「当該開示請求に係る行政文書の調整等に時間を要するため」とされている(次図)。
「開示決定等の期限の延長について(通知)」より
※上図6件のうち、(5)は東京航空局の件名なので、開示請求対象から除外された。
開示請求してから2か月余りが経過。6月7日に送付されてきたCD-Rをパソコンで読み取ろうとしたら、何とデータが書き込まれていなかった。大臣官房総務課公文書監理・情報公開室の担当者にその旨電話すると、6月12日にまともなCD-Rが郵送されてきた。
本日ひも解くのは、「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」に係る次の文書。
2.4億円で博報堂に委託した成果報告書はたったの37枚
仕様書によれば、本業務内容は「(1)情報提供の実施」と「(2)意見把握の実施」の2本立てで、細目は次のように規定されている。
- (1)情報提供の実施
- ① ホームページの更新
- ② メディアでの発信
- ポスティング広告
(新飛行経路下の14区市+1県に各1回(1県は配架)) - WEB 上でのバナー広告(年度を通して実施)
- 経済誌広告(2誌で各1回)
- ニューズレターの作成・発送
通常版(東京・神奈川・埼玉)2回、各40,000 部程度
地域版(千葉)2回、各 6,000 部程度
- ポスティング広告
- ③ その他の情報発信手法の提案
- (2)意見把握の実施
- ①メールフォームに投稿された意見の取りまとめ及び分析
- ②報道クリッピング及びそれに基づく報道傾向分析
- ③ インターネット上の意見分析
- ④その他の意見把握手法の提案
報告書は、A4判37枚。うちのり弁は2枚だけ(次図)。
22年度の契約金額は約2.4億円。22年度の報告書はたったの37枚。よほど中身が濃いのか!?
ちなみに、墨消し部分に関して、国交省は「行政文書開示決定通知書」のなかで、「不開示とした部分とその理由」として次のように記している。
請求文書(6)に係る行政文書「報告書」のうち、研修概要については、当事業を実施する法人のノウハウに関する内容であり、法第5条第2号イに規定する「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するため、当該情報が記録されている部分を不開示とした。
開示された報告書をひも解く
以下、開示された報告書をひも解いていく。
情報提供の実施結果
「ホームページの更新」業務の成果として、国交省が運営しているサイト「羽田空港のこれから」の「トップページ」と「お知らせ記事一覧」が掲載されている(次図)。
「メディアでの発信」業務の成果として、15市区等に配布された「ポスティング公告」(次図)15枚。
「WEB 上でのバナー広告」(配信期間:22年7月~23年3月)として、1枚(次図)。
「経済誌タイアップ広告」として、4枚。
- 週刊ダイヤモンド「羽田空港の機能強化がインバウンドを失った観光地を復活させる」
- ダイヤモンド・オンライン※内容は、週刊ダイヤモンドと同一
- AERA「羽田空港からはじまる日本の活性化」
- AERA dot.※内容は、AERA と同一
「ニューズレターの作成・発送」として、6枚。
「その他の情報発信手法の提案」として、羽田空港内ディスプレイで放映する動画を改訂した画面1枚(次図)。
あと、今回の仕様書には規定されていないが、「航空局の担当職員が、住民及びメディアに対して適切に対応できるよう、研修を実施した」として、のり弁状態の研修概要2枚(次図)。
意見把握の実施結果
「意見把握の実施結果」として、次の文章が1枚に収められている。仕様書に規定された4項目は掲げられているが、具体的な内容は一切掲載されていない。
- ➀メールフォームに投稿された意見の取りまとめ及び分析
- 「羽田空港のこれから」内のメールフォームに投稿された意見をとりまとめ、発注者に報告した。
- あわせて、それらの内容を分析し、2.の情報提供にも活かした。
- ②報道等のクリッピング及びそれに基づく傾向分析
- 羽田空港の機能強化に関して取り上げられた新聞、雑誌、WEB 記事、テレビ番組等を随時クリッピングし、報道傾向や影響等も踏まえつつ、2.の情報提供にも活かした。
- ③インターネット上の意見分析
- 新飛行経路下の住民等のインターネット上の意見(羽田空港の機能強化に関する WEB 記事に対するコメントや SNS における発言等)の傾向や拡散状況、新飛行経路下の他の住民に与える影響を分析し、2.の情報提供にも活かした。
- ④その他の意見把握手法の提案
- 上記以外にも、より効果的な意見把握の手法等について、随時検討・提案を行った。
20年度の報告書では、情報番組(Nスタ、バンキシャ、ゴゴスマ、ひるおび、ワイドスクランブル)の出演者のネガティブなコメントを総括した「報道傾向分析」や「ヤフーコメント」に記された個人の意見などに基づく「世論分析」などの一例が掲載されていた(次図)。
情報開示請求対策として、肝心の中身を報告書から外すことは許されるのか。会計検査院の意見も聞きたいところだ。
「20年度「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」【報告書】」より
最期のページに「4.令和4年度業務全体の振り返りと次年度への課題」が記されている。
(前略)本年度実施した情報提供・意見把握の結果を踏まえると、次年度においても、引き続き、羽田空港の機能強化について多様な広報施策を進めるとともに、地域住民の関心事項である「新飛行経路の運用状況」「騒音対策」「落下物・安全対策」等について、継続的・定期的に情報提供していくことが重要である。
また、水際対策の大幅な緩和による復便傾向も踏まえながら、情報発信の一層の強化に努め、改めて羽田空港機能強化の意義・目的について、分かりやすく情報発信していくことも重要である。
引き続き、様々な受け手を想定し分かりやすい形で丁寧に情報提供していくことが課題であると認識している。
「次年度においても、引き続き、(略)継続的・定期的に情報提供していくことが重要である」という文言は、コンサルが来年度も仕事を受注するための常套句。国交省としてもそのような文言があることで、予算をつけやすいという事情もあるのではないか。
雑感(開示請求対策で、肝心の中身を報告書から外した!?)
- 博報堂は6年連続(17~22年度)で「羽田空港機能強化に係る情報提供・意見把握検討等業務」を受注している(6年間の契約金額の合計は約17億円)。開示請求で入手した22年度の成果報告書はたったの37枚。契約金額約2.4億円で37枚というのはいかがなものか。
- 報告書37枚のうち墨消しは2枚だけ。決して透明性が高いのではなく、開示請求対策として、肝心の中身を報告書から外したと疑いたくなるような建付けになっているのだ。
- 20年度の報告書では、情報番組(Nスタ、バンキシャ、ゴゴスマ、ひるおび、ワイドスクランブル)の出演者のネガティブなコメントを総括した「報道傾向分析」や「ヤフーコメント」に記された個人の意見などに基づく「世論分析」の一例などが掲載されていたのだが、22年度の報告書ではそれさえもない。
- 仕様書をよく読むと、分析結果は「発注者に報告する」と記されている。分析結果は報告書に記載しなくても、口頭、メール、メモ書きなどで報告すればいいということにしているのかもしれない。
- ちなみに、筆者は開示請求文書で「成果物(報告書および参考資料等)および仕様書」の開示を求めていた。お役所言葉としては、参考資料等にはメールやメモ書きも含まれるのではないのか。国交省の担当者は博報堂担当者からのメールやメモ書きを廃棄させられているのか……。
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