不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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羽田新ルートの「固定化回避」は実現するのか

羽田新ルートに係る「固定化回避」という表現。

いつ、誰がいい出したのか。固定化回避は、いつどのようなかたちで実現するのか。

関係者の過去の発言を整理しておいた。

※以下長文。時間のない方は「要点」と「まとめ・雑感」をお読みいただければと。


要点

最初に「固定化回避」を言い出したのは誰か

羽田新ルートに係る「固定化回避」という表現。いつ、誰がいい出したのか。

国会、都議会、区議会の各議事録で、「羽田」&「固定化」で検索してみた。

16年3月 品川区議会 筒井議員:新飛行ルート案の固定化は避けたい

最初に「固定化回避」を言い出したのは、品川区議会の筒井ようすけ議員(1期、当時の所属会派:維新・無所属品川(維新))で、16年3月とかなり早い時期。

16年3月16日 品川区議会(予算特別委員会)

筒井ようすけ議員(維新)

(前略)区民に少しでも、わずかの希望を持っていただくためにも、この新飛行ルート案の固定化は避けたいので、ぜひとも区としても積極的に国に対して提言を行っていただきたいと考えております。よろしくお願い申し上げます。(以下略)

16年6月23日  品川区議会 第2回定例会(本会議)

筒井ようすけ議員(維新)

(前略)この新飛行ルート案の固定化を絶対に避けるべく、さまざまな代替案、技術革新等の事情の変更が出てきたのならば、また、落下物等による大規模事故が発生したら、即刻撤回するよう国に求めるべきと考えますが、いかがでしょうか。(以下略)

19年6月 品川区議会 都市環境部長:「固定化」の意味といたしましては・・・

最初に「固定化回避」に言及した役人は、品川区の都市環境部長である。鈴木ひろ子議員(共産)との質疑応答のなかで飛び出した。

19年6月27日 品川区議会 第2回定例会(本会議)

  • 鈴木:品川区上空を飛行しないルートへの再考を強く求めるべき
  • 部長:現飛行ルート案を固定化することがないよう早急な検討を強く求める
    (前略)区議会の決議(品川上空を飛行する羽田新飛行ルート計画に関する決議)につきましては、区としても重く受けとめております。(中略)また、都心上空を飛行する現飛行ルート案を固定化することがないよう、早急な検討を強く求める考えでございます。
  • 鈴木:「固定化しないよう求める」ということは、どういう意味なのか?
  • 部長:固定化するようなことがないような案について求めるもの
  • 鈴木:「まずは、飛ばすことを認める」ということなのか?
  • 部長:現新ルートを別の方法で実現する方法がないか・・・検討を求める

    (前略)「固定化」の意味といたしましては、これは経路ですとか、あるいは便数、また、技術的には高度、こういったものも広い意味で含まれるというところでございます。

    現新ルートを別の方法で実現する方法がないかどうかこういったところについて、国に対して検討を求めるというものでございます。

※詳しくは、「羽田新ルート|品川区議会「19年第2回定例会」質疑応答」参照。

その後の「固定化回避」の流れ

18年3月 都議会 伊藤議員(公明):将来にわたって固定化するのではなく

都議会で最初に「固定化回避」に言及したのは伊藤こういち議員(公明、4期、品川区選出)

18年3月14日 都議会(予算特別委員会)

伊藤こういち議員(公明)

(前略)私がまず申し上げておきたいことは、羽田空港新飛行ルート案は、東京2020大会成功のためのルートとし、将来にわたって固定化するのではなく、例えば、茨城空港や静岡空港などの周辺空港も活用するなど、都心の人口密集地域上空の飛行ルートにならない方策の検討も同時に開始すべきであると都と国に強く求めておきたいと思います。(以下略)

20年6月 国会 岡本議員(公明):品川区議会、固定化を避ける取組の決議

区議会や都議会のプレシャーを受けて、国会で最初に「固定化回避」に言及したのは岡本三成 衆議院議員(公明、3期、比例北関東ブロック)

20年6月3日  衆議院(国土交通委員会)

  • 岡本:区議会の決議、地域の方々の不安の声、どう受け止めているか?
    (前略)地域住民、とりわけ品川のあたりが最も大きな被害を受けているというふうに認識しておりますけれども、品川区議会では、この新飛行ルートに関しまして、過去に2度にわたりまして、新ルートの再考や固定化を避ける取組の決議を行っており、国交省にお届けもされています。(以下略)
  • 局長:真摯に受け止めております
  • 岡本:品川・目黒・港区の公明党議員、大臣に直接、緊急の要望
  • 大臣:新経路の固定化回避、有識者・専門家検討会を今月中にも立ち上げ

    (前略)今般、私から航空局長に対しまして、新経路の固定化を回避するための方策を早急に検討するため、有識者および専門家による検討会を今月中にも立ち上げるよう指示をさせていただいたところでございます。(以下略) 

※詳しくは、「衆院「国土交通委員会」赤羽大臣が折れた!? 」参照。

20年6月 赤羽大臣:検討会を立ち上げ

お尻に火が付いた赤羽国交大臣は定例記者会見で20年6月16日、技術的な課題を検討する有識者会議「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」の開催を正式に表明したのである。

赤羽国交大臣

(前略)正式名称は「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」です。
羽田空港の新経路については、関係自治体等から、新経路の固定化回避に向けた御要望をいただいてまいりました。
「騒音軽減等の観点から継続的に検討する」と国土交通省から回答をしてきたところです。
このような御要望を踏まえまして、この度、現在の滑走路の使い方を前提としつつ、騒音軽減等の観点から見直しが可能な方策がないかについて検討を行うためにこの検討会を立ち上げ、6月30日に第1回を開催することといたしました。

固定化回避は実現するのか

20年6月 赤羽大臣:現在の滑走路の使い方を前提

技術的方策検討会で固定化回避の検討を約束した赤羽大臣。では、固定化回避はホントに実現するのか。そもそも固定化が回避されたあとの形はどのようなものになるのか。

赤羽大臣は上記のとおり、20年6月16日の記者会見で、わざわざ「現在の滑走路の使い方を前提」と明言している。

また、第1回目の検討会(20年6月30日午後開催)に先立ち、午前中の記者会見で赤羽大臣は、「新経路に変更するという前提に立つのではなくて」と念押ししている。

赤羽大臣

(前略)現在の滑走路の使い方を前提としつつ、最近の航空管制、また航空機器の技術革新、こうしたものを勘案しながら、騒音軽減、また固定化回避などの観点、新経路の見直しが可能な方策がないものかどうか、技術的な観点から検討を行うということで今回の検討会を立ち上げたところです。

新経路に変更するという前提に立つのではなくて、技術力で様々な知恵がないかという状況ですので、(以下略)

※詳しくは、「羽田新ルート|不透明感が漂う有識者会議」参照。

 

さらに言えば、国交大臣どころか政府として20年10月2日、山添拓 参議院議員(共産)の質問主意書に答える形で、固定化回避が見直し後の滑走路の運用方法が前提であることを閣議決定しているのである。

お尋ねの「新経路の固定化回避」とは、交通政策審議会航空分科会基本政策部会首都圏空港機能強化技術検討小委員会における検討の結果、平成26年7月8日に「首都圏空港機能強化技術検討小委員会の中間取りまとめ」において羽田空港の航空需要の増大等に対応するための方策として滑走路の運用方法の見直し等が取りまとめられたことを踏まえ、見直し後の滑走路の運用方法を前提とした上で、新経路の将来にわたる固定化を回避することを意味しており、検討会において、「新飛行ルートの滑走路運用及び発着便数」を「再検討」することは考えていない。

※詳しくは、「羽田新ルート|質問主意書(羽田新ルート(2))山添参議院議員」参照。

21年4月 元JAL機長:あり得ないことを国交省は検討している

元JALの機長で航空評論家の杉江弘氏は21年4月24日、羽田問題解決プロジェクト主催のシンポジウムの講演「“固定化させない検討会中間報告"から見えてくるもの」のなかで、パイロットから見たらあり得ないことを国交省は検討しているのだという

意味がない 見直し
(杉江弘氏の講演画像に筆者がピンクを加筆)

(前略)今の進入(ルート)は、この新宿と中野のここんとこ(ルート)では1000フィートの、300メートルの高度差を取って、ずらして運用してんですよ。ニアミスを避けるためにね。
それをこんな滑走路の間近のところで、それをやるとなると、片一方の飛行機はとてつもない高いところから急降下しなきゃいけない。そういう理屈になりますよね。そんなことやったら、今よりも、もっともっと危険になるんですね。
だからこれはもうプロのパイロットから見たらあり得ない。あり得ないことを(国交省は)検討してんですよ

(中略)

例えば、赤羽から川口に通っているのを(ルートを)新宿のほうから池袋を通ってこういうふうにもってくるとか、中野のほうから戸田の埼玉県のほうに持ってくるとか、こういうルート変更は理屈の上では可能です。そうするとどうなりますか。

国交省としては、「いや、検討した結果、ルート見直ししましたよ」と。だけどこんなところのルートを変えられたって被害にある区が変わるだけでしょ。板橋が北区になるだけじゃないですか。だから、それは東京都民にとっては、こんなルートの変更は何の意味もない。(以下略)

まとめ・雑感

まとめ

最初に「固定化回避」を言い出した品川区議(16年3月)から、赤羽大臣の「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」の開催表明(20年6月16日)までの流れを以下に示す。

  • 固定化の回避に初めて言及したのは、品川区議の筒井ようすけ議員(1期目、当時の所属会派:維新・無所属品川(維新))。5年前の16年3月16日の予算特別委員会。かなり早い時期であった。同議員が2期目途中でこの7月、羽田新ルートを推進している都民ファーストの公認候補として都議選に挑むことになるとは、なんと皮肉なことか。

  • 役人で固定化回避に初めて言及したのは、品川区の都市環境部長。羽田新ルート問題の答弁を逃げ回る濱野区長に代わって毎回苦しい答弁を強いられている都市環境部長。鈴木ひろ子議員(共産)との質疑応答のなかで言及(19年6月27日 第2回定例会本会議)。

  • 都議会で最初に「固定化回避」に言及したのは伊藤こういち議員(公明、4期、品川区選出)。羽田新ルートを推進している公明党の品川区選出議員としては、「将来にわたって固定化するのではなく」と固定化回避論を持ち出すことで、品川区の支持者にもアピールできる(18年3月14日 予算特別委員会)。

  • 国会で最初に「固定化回避」に言及したのは岡本三成 衆議院議員(公明、3期、比例北関東ブロック)同じ公明党出身の赤羽大臣に「固定化回避」を訴えることで支持者にアピールできる(20年6月3日 国土交通委員会)。

  • 公明党の区議や都議からの「固定化回避」の訴えで、お尻に火が付いた赤羽国交大臣は、「羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」の開催を正式に表明(20年6月16日 定例記者会見)。ただ、「現在の滑走路の使い方を前提」と明言もしている。

  • さらに、国交大臣どころか政府として20年10月2日、山添拓 参議院議員(共産)の質問主意書に答える形で、固定化回避が見直し後の滑走路の運用方法が前提であることを閣議決定している
雑感(固定化回避、羽田新ルート推進議員にとって都合のいい表現)

技術的方策検討会の検討により、固定化回避は実現するのか。

元JALの機長で航空評論家の杉江弘氏は21年4月24日、羽田問題解決プロジェクト主催のシンポジウムの講演「“固定化させない検討会中間報告"から見えてくるもの」のなかで、パイロットから見たらあり得ないことを国交省は検討しているのだという

固定化回避とは、羽田新ルートによって現在騒音などの悪影響を受けている市民にとって、将来緩和されるかような幻想を抱かせる表現。これから都議選や衆院選に挑む公明党などの羽田新ルートを推進している議員にとって、なんとも都合のいい表現なのである

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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