20年にわたり家主側の訴訟代理人として2500件以上の不動産トラブルを扱ってきた司法書士、太田垣章子氏の新著『不動産大異変: 「在宅時代」の住まいと生き方』ポプラ新書(2021/4/14)を読了。
家主側の訴訟代理人が見た、シビアな住宅事情が描かれている。
※朱書きは、私のメモ。
事故物件の需要が増えた?
アウトレット不動産(株)代表で事故物件に詳しい昆氏との対談。
事故物件の需要が増えた?
(前略)
- 太田垣:なぜ私がそのような質問をしたかというと、私のところに相談に来るような滞納で困っている学生さんや、社会人になって割とまだ年数が経っていない人は、すごくお金がないからなんです。大学の奨学金の返済もあるし、コロナでアルバイトが減ってしまって、生活に困窮すると、「事故物件で安いところはないですか」つて聞かれることがすごく多くなりました。
- 昆:背に腹は代えられない感じですね。
- 太田垣:そうなんです。今の6万円、7万円の家賃では、奨学金を返済して、家賃を払っていったら、手元に数万円しか残らない。そこから光熱費を払って、食費を払っていくと完璧に赤字です。そこでダブルワークをしたり、風俗系のアルバイトをしたりしているんですが、それだったら事故物件で安いところに引っ越したほうがいいと。そこまで追い詰められている人も多いですね。(以下略)
(P97/第3章 コロナ禍で事故物件はどうなる?)
※UR賃貸の特別募集住宅(=事故物件)の掲載件数の推移をみると、関東のほうが関西よりも件数が少ないのは、関東のほうが事故物件の人気が高く募集一覧に残らないことが一因。
住宅ローンを組むということ
背伸びをして住宅ローンを組む人に対する著者の懸念。
住宅ローンを組むということ
それほど先が見えない混沌とした中で、私が不思議に思ったことがあります。
このコロナ禍でありながら、家を購入しようという人が後を絶たないのです。
(中略)
さらに物件の購入を急ぐ人たちには、理由がありました。
来年になれば収入が下がってしまう可能性がある、だから昨年の年収で審査される今の属性のうちに最大限の住宅ローンを引っ張って購入してしまいたい。多くの人がそう考えて物件の購入をしていると聞きました。信じられない思いもある中で、2020年の緊急事態宣言の解除以降、不動産の売買業界ではかなり物件が動きました。純粋な司法書士業務は、私の想像と反して、とても忙しい毎日だったのです。
当時取引された物件は、高額な物件はもちろんのこと、少し都心から離れた戸建ても在庫がなくなると言われたほど取引されたのです。属性のいい間に住宅ローンを組みたい、その気持ちは分かります。
ただ20年、30年と払い続けることの責任というか怖さはないのでしょうか。(以下略)(P163-167/第5章 不動産ドミノ倒しはあるのか)
※住宅金融支援機構の融資を利用した人は、千人に3人が住宅ローン破綻しているという現実。
コロナでローンが払えない人が急増
NPO法人「住宅ローン問題支援ネット」高橋愛子代表理事との対談。
コロナでローンが払えない人が急増
(前略)
- 高橋:若い人でも、ギリギリでローンを組んでいる人がたくさんいますし、今は低金利なのでとりあえずフルローンで組む人が多いです。夫婦合算のペアローン等も目立ちますが、離婚のときは、このペアローン問題は本当に厄介です。
- 太田垣:結局、皆さんギリギリ過ぎるのよね。
- 高橋:今回のコロナのようなことが起こって、収入が減ったり途絶えたりしたら、一気に家計が回らなくなってしまうという人がとても多いと思いました。
他にもサラリーマン時代にローンを組んで家を購入し、その後脱サラをしてフリーランスになって独立したけれども、コロナの影響で仕事がなくなったという人も少なくありませんでした。今後、低金利によって無理してローンを組んでしまった人の低金利破綻が必ず起こるでしょうね。(P207-208/第6章 コロナで変わる任意売却の実態)
※「住宅ローン問題支援ネット」のホームページに、「住宅ローン問題:住宅ローンが払えなくなったらどうなるのか?」「8つの解決策」「任意売却・競売」などが掲載されている。ローンの返済が厳しい人は一度目を通しておくといいだろう。
本書の構成
7章構成。全253頁。
- 第1章 不機嫌な隣人たち
- 第2章 深刻さが増す在宅時代のトラブル
- 第3章 コロナ禍で事故物件はどうなる?
- 第4章 コロナ時代の「家」とは
- 第5章 不動産ドミノ倒しはあるのか
- 第6章 コロナで変わる任意売却の実態
- 終章 コロナ禍から見えた住宅事情
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