江戸川区議会本会議で12月9日、羽田新ルートの変更を求める陳情に係る採決が行われ、反対多数で否決された。
江戸川区では、羽田新ルートが導入される以前から、南風・悪天時に区上空を通過する着陸ルートが運用されてきた。羽田新ルートは、区民にとって泣きっ面に蜂状態なのだが、自公だけで6割超を占める区議会でこの問題が積極的に議論されることはないようだ。
キッカケはM区議のツイート
江戸川区議会本会議で12月9日、羽田新ルートの変更を求める陳情に係る採決が行われ、反対多数で否決された。
このことを知ったキッカケは、M区議(江戸川クラブ)の以下の連ツイ。
先の本会議で羽田新ルートに変更を求める陳情の採決が行われ、数名が採択したが反対多数で否決された。私も反対。
羽田新ルートによる騒音や落下物への不安は、主に品川や太田で顕在化しているが、私なりの調査では江戸川区内に新ルートを問題視する声はほとんど見当たらない。
この種の問題は、住民がどのように感じているのか?を出発点とするべきだが、20近い町会や自治会にヒアリングするも新ルートに対する苦情はなく、区や国交省への電話相談も品川太田の1%程度。騒音測定も平均67dbでは生活に支障をきたす事もない。
つまり、羽田新ルートに対して、現時点では住民の不満はほぼない。現実の測定値もそれを裏付けている。これが不採択とした理由です。
「現時点では住民の不満はほぼない」ので、羽田新ルートの変更を求める陳情の採択に反対票を投じたM議員。
M議員の現状認識は正しいのか?
「区や国交省への電話相談も品川太田の1%程度」だという。
江戸川区議会「20年第3回定例会」決算特別委員会(10月2日)で紹介された資料には「騒音の苦情が25件」とされているので、品川区と比べると明らかに少ない。
では、「騒音測定も平均67dbでは生活に支障をきたす事もない」という認識はどうか?
国交省が公表している最新の騒音測定結果(10月22日、7月1日~8月31日分)によれば、第五葛西小学校での大型機の「実測値の平均」は7月66.8dB、8月65.8dBとされているので、M議員の「騒音測定も平均67db」に間違いはない。
でも、騒音被害を「実測値の平均」で評価してもいいものなのか。
東京都が測定し、毎日公表している小松川第二中学校(第五葛西小学校よりもさらに高い高度を通過)での最大騒音レベルは70dBを超えている(次図)。
羽田新ルート賛成・反対議員の内訳
具体的な陳情内容と採決結果を確認しておこう。
まず、陳情内容の確認。
陳情原文
国土交通省は2020年3月29日から人口密集地を低空で飛行する羽田新飛行ルートの運用を開始しました。
- ① 2020年1月30日~2月12日の実機飛行確認では、江戸川区における現在の南風着陸便よりも平均的には低い騒音値だったが、それでも最大79dBを記録した。3月29日以降連日新ルートで飛んでおり、飛来機数・飛来日数が格段に増えることにより、航路下の住民の環境悪化になることは明らか。
- ② ほぼ全機が区上空を通っており、国土交通省説明のルート図と異なる。
- ③~⑤(省略)
- ⑥ 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、航空便の需要は激減し、当面、新ルート運用の理由はなくなっている。
以上のことから、下記のことを強く要望いたします。
記 航空機需要が激減している現在、羽田新ルート運用をいったん中止し、再検討するよう国や東京都に働きかけてください。
次に、採決結果の確認。
賛成票33、反対票9で否決された。
不採択に賛成ではかり不採択
- 賛成31(自民・公明・江ク・田島)
- 反対12(共産・立民・区民・生ネ・間宮)
次回の区議選の判断材料に資すべく、羽田新ルート賛成・反対議員の内訳をリストアップしておこう。
※敬称略
羽田新ルート賛成派(34)
- 自民(15人)
大西洋平(幹事長)、早川和江(副幹事長)、栗原佑卓(副幹事長)、須賀精二(幹事)、鹿倉勇(幹事)、齊藤翼、白井正三郎、野﨑信、中山隆仁、田中寿一、福本光浩、高木秀隆、藤澤進一、川口俊夫、島村和成
※田中寿一は議長なので投票せず - 公明(12人)
川瀬泰徳(団長)、竹内進(幹事長)、田中淳子(幹事長代行)、中道貴(幹事長代行)、伊藤照子(副幹事長)、窪田龍一(副幹事長)、竹平智春(副幹事長)、佐々木勇一(副幹事長)、所隆宏、太田公弘、堀江創一、関根麻美子 - 江戸川クラブ(4人)
岩田将和(幹事長)、小林あすか(副幹事長)、桝秀行(幹事)、笹本ひさし - えどがわ区民の会(2人)
金井しげる(幹事長)、神尾昭央(副幹事長) - 無所属(1人)
田島寛之
羽田新ルート反対派(9)
- 共産(4人)
小俣則子(幹事長)、牧野けんじ(副幹事長)、瀨端勇(幹事)、大橋美枝子 - 生活者ネット・立民(3人)
本西光枝(幹事長)、伊藤ひとみ(副幹事長)、よぎ(副幹事長) - 無所属(2人)
間宮由美、滝沢泰子
江戸川区民にとって、羽田新ルートは泣きっ面に蜂
北風時に荒川沿いを北上する出発ルート(次図)の運用時間帯は、7時~11時半・15時~19時(15時~19時については、この時間帯のうち実質3時間程度)。北風時の運用は年間運用の約6割と想定されている。つまり、南風時に都心を通過して羽田に向かう到着ルートよりも運用される時間がはるかに長いのである。
FAQ冊子v6.2_P121
加えて、江戸川区では羽田新ルートが導入される以前から、南風で悪天候等により視界が悪く、通常のルートが使用できない時に限り、安全を確保するため、誘導の電波に沿って江戸川区上空を通過する着陸ルートが運用されている(次図)。
航空機騒音|江戸川区
このように、江戸川区民にとって、羽田新ルートは泣きっ面に蜂状態なのである。
ところが、江戸川区議会は44議席のうち自公だけで6割超を占めている。今回の採決では陳情否決に8割近くが票を投じた(次図)。
次回の区議会選でこのパワーバランスが変わらない限り、羽田新ルート問題が区議会で積極的に議論されることはないのではないか。
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