国交省は20年8月4日、「新飛行経路 定期運用報告」のうち、2か月に1回公表するとしていた「航空機騒音の測定結果(3/29~4/30)」と「部品欠落件数及び欠落部品内容(2019年度)」を公表した。
「航空機騒音の測定結果(3/29~4/30)」の中身を読み解いてみよう。
※投稿20年8月5日(更新21年9月18日:NEW)
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」A4判25枚
騒音実測値、住民説明会との齟齬はあったのか?
国交省がこれまで住民説明会などで説明してきた騒音値と比べて、齟齬はあったのか?
国交省の説明:約18%は推計平均値以上
国交省は、住民説明会などで説明してきた騒音値と比べて、「約18%は推計平均値以上」だったとしている。
全体総括
- 騒音測定の地点ごとに計算した機体サイズ別の実測値の平均と、住民説明会等でお示しした推計平均値を比較したところ、約65%は推計平均値と同等、約18%は推計平均値以上、約18%は推計平均値以下であることが確認できた。
- 上記の結果については、新型コロナウイルスの影響により、通常より便数が少なく、かつ、小型化・軽量化の状況下での結果であることに留意する必要。
- 今後の騒音発生状況の把握については、経路下の各地に設置した騒音測定局における測定のほか、別途1~2週間程度の短期的な測定を検討するなど、引き続きデータを収集して精査していく。なお、今後の進め方等については関係自治体と調整していくこととする。
「約18%は推計平均値以上」については、騒音測定局(19か所)ごとに「大型機」「中型機」「小型機」の騒音レベルを比較した結果、51か所のうち9か所がピンク色であったこと(9÷51⇒17.6%)をその根拠としている(次表)。
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」P2
筆者のコメント:またも「推計平均値」というごまかし
国交省が騒音測定結果を説明するために「推計平均値」という指標を持ち出したのは今回が初めてではない。「実機飛行確認における騒音測定結果」のときからである。測定値がこれまで住民説明会で説明してきた最大騒音レベルをたびたび上回ることを取り繕うために持ち出した指標である、と筆者は考えている。
以下、「実機飛行確認における騒音測定結果」を解説したときの繰り返しで恐縮。
国交省の説明を額面通りに受け取るとするならば、これまで住民説明会で説明してきた最大騒音レベルは、全国の空港周辺で測定した複数の最大騒音レベルを平均した推計値であると(次図)。
だから、比較の対象とすべき今回の実測値も最大値の最大値ではなく最大値の平均値にしたという理屈である。
「実機飛行確認の騒音測定結果(精査版)を読み解く」より
国交省のこの理屈は、誠実さを欠いている。
国交省がこれまで説明してきた資料には、「平均値を採用している」などとはどこにも記されていなかった(というか、曖昧にしてきた)。
たとえば、FAQ冊子v.5.1.2の次の記述がそうだ。
- 上表の騒音値は、過去の航空機騒音調査によって取得したデータベースから、飛行経路下における地上観測地点での最大騒音値※を推計した値。
- ※航空機1機が観測地点の真上を通過する際に騒音値がピークを迎えるという前提にたって、計算上求められる騒音のピーク値。
(「FAQ冊子v.5.1.2」P51)
「FAQ冊子v.5.1.2」P51に筆者ピンク追記
国交省は今回の精査版で「推計平均値」を持ち出すことによって、論点をずらしている。羽田新ルート周辺の住民に影響を与えるのは、平均値ではなく最大値だ。
実機飛行確認のときよりもさらにヒドイのは、今回の「定期運用報告の騒音測定結果」では日ごとの騒音データが公表されていないこと。実機飛行確認のような踏み込んだ分析(次図)ができない。
降下角3.45度の騒音低減効果はあったのか?
国交省の説明:一定程度の騒音軽減が確認できた
ILS運用時(降下角3.0度)とRNAV運用時(降下角3.45度)の騒音実測結果を比較して、「一定程度の軽減効果(▲1.6~0.1dB)」が確認できたとしている(次図)。
ILS運用時(3度の降下角)の実測値の平均を基準にRNAV運用時(3.45度の降下角)の実測値の平均を比較したところ、RNAV運用時において一定程度の騒音軽減が確認できた。
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」P23
また、「RNAV運用(降下角3.45度)」と「RNAV運用(2段階降下)」は、ILS運用(降下角3度)と比較して、騒音低減効果がそれぞれ▲2.4~▲0.5dB(効果大)、▲1.6~0.6dB(効果小)あったとしている(次図)。
RNAV運用時(3.45度の降下角)に角度をできるだけ維持して降下している着陸機(図示A)と2段階降下(1,500ft付近で3度に会合)をしている着陸機(図示B)の実測値の平均を比較したところ、角度をできるだけ維持している着陸機の方が騒音軽減効果がより大きい傾向にあることが確認できた。
「羽田空港新飛行経路に係る航空機騒音の測定結果」P24
筆者のコメント:誤差範囲である
ILS運用時(降下角3.0度)とRNAV運用時(降下角3.45度)の騒音レベルの差「▲1.6~0.1dB」は、「一定程度の軽減効果」と胸を張れるような数字ではなく、誤差の範囲だ。
しかも、ILS運用日は実機飛行確認時2月3日と本格運用後4月18日(A滑走路に8機、C滑走路に11機が着陸)のみでしかないので、この結果をもって、「一定程度の軽減効果」が確認できたとはとても言えないだろう。
また、降下角3.45度の騒音低減効果は、▲2.4~▲0.5dB(効果大)としているが、広尾中や田道小、高輪台小や大森第五小といった肝心の学校施設での騒音低減効果はないに等しい。
東京都が平日毎日公表している速報値では、渋谷区の猿楽小学校と千駄谷小学校の最大騒音レベルは75dBを超える日が数多く観測されている(次図)。
国交省はこの事実をなんと説明するのだろうか。
↓ NEW
「羽田新ルート|東京都の騒音測定結果を可視化【随時更新】」より
国交省が不誠実なのは、グラフの見せ方がいかにも騒音低減効果があったような印象を与える描き方になっていることだ。
各地点での差ではなく、騒音レベルそのもので比較すれば、国交省がいう騒音低減効果など誤差範囲であることが一目瞭然であろう(次図)。
【追記】降下角の違いによる騒音低減効果※NEW
※更新21年9月18日
21年9月14日に航空機騒音の測定結果(5月1日~6月30日分)が公表(第8回)されたので、同公表データを反映した結果を次図示す。
国交省がいう騒音低減効果など誤差範囲であることが一目瞭然であろう。
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