「第7回 羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会」が、12月23日午後、1年ぶりに開催された。
タイトルからして難解だが、扱っているテーマは単純である。羽田空港の新経路は、このまま「固定化」されてしまうのか。それとも、騒音負担を軽減する別の選択肢は本当に存在するのか。その可能性を技術面から検討する場が、この検討会である。
ただし、配布資料は専門用語が並び、航空行政に詳しくない読者には敷居が高い。しかも、肝心の議事概要は現時点で未公開だ。そこで本稿では、12月23日に公表された配布資料を丹念に読み解き、「何が示され、何が示されなかったのか」を、一般読者にも分かる言葉で整理する。
結論を急がず、資料の行間を追いながら、羽田新経路をめぐる“現在地”を確認していこう。
※投稿25年12月25日(追記26年1月16日)
配布資料をひも解く
12月23日に公開された資料(PDF形式)は次の11件。
※議事概要は、まだ公開されていない(12月25日現在)。
- 議事次第
- 【資料1-1】羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会について
- 【資料1-2】前回(第6回)の振り返りについて
- 【資料2】飛行方式に関する国際動向調査について
- 【資料3】RNP-AR方式に対応可能な機材の導入状況について
- 【資料3参考資料】RNP-AR方式に対応可能な機材の導入状況について(本邦事業者・着陸数ベース)
- 【資料4】羽田空港航空機衝突事故への対策実施状況について ※後日掲載予定
- 【資料5】航空機の更なる騒音負担軽減策に関する国際動向調査について
- 【資料5参考資料】海外空港における騒音対策の事例
- 【資料6】航空機の騒音負荷軽減に関する取り組みのご紹介 (JAXA)
- 【資料7】今後の方向性(案)について
飛行方式に関する国際動向調査について
海外の各空港において、RNP-AR方式を活用した柔軟な経路設定の事例が複数存在。
- ロナルド・レーガン・ワシントン・ナショナル空港(アメリカ)
川に沿った経路をRNP-AR方式で設定し、住宅地への騒音削減と制限空域の確実な回避を実現。

- サントス・ドゥモン空港(ブラジル)
旋回半径は0.9海里、最終直線距離は0.87海里と小回りかつ直線距離が非常に短い。

- 天津浜海空港(中国)
RNP-AR方式の導入により、ILSとの同時進入を達成。

- ストックホルム・アーランダ空港(スウェーデン)
滑走路01Rに上図のとおりRNP-AR方式による複数の曲線進入経路を設定。
他方で、ILSとRNP-ARが混在することにより運用が複雑となり年間数回程度の使用にとどまる。

羽田空港C滑走路におけるRNP-AR方式を用いた経路における、海上ルート実現の可能性について、航空機メーカー等にヒアリングを実施。
- 羽田空港において海上ルートを導入するためには、解決すべき様々な課題があると認識。
- 航空機が2本の滑走路に同時に着陸(同時進入)する等の羽田空港特有の事情を考慮した検討を進めていくため、空港周辺の空域の運用等についてより詳細な情報交換等を進めるとともに、羽田空港への適用可能性については、引き続き慎重に検討を進めていく必要がある。
RNP-AR方式に係る研究機関等の研究動向
チャルマース工科大学(スウェーデン)らにおけるRNP-AR方式における曲線半径の小回り化に係る研究。

RNP-AR方式に対応可能な機材の導入状況について
RNP-AR方式に対応可能機材の導入割合(RNP-AR対応率)は、本邦事業者が77%、外国事業者が71%にとどまっている(次図)。
- 調査対象
- 事業者:羽田空港に就航している全ての航空運送事業者
- 機材:2025年4月1日現在で羽田空港に乗り入れている機材
- 調査期間:2025年6月 ~ 2025年9月

羽田空港航空機衝突事故への対策実施状況について
「※後日掲載予定」とされている。
航空機の更なる騒音負担軽減策に関する国際動向調査について
「着陸料における騒音料金の各空港比較」が掲載されている(次図)。

ゴチャゴチャして分かりにくいので可視化した(次図)。
羽田空港の着陸料は、ヒースロー空港やフランクフルト空港よりも高いこと、料金が主に重量で決まっていることが分かる。

羽田空港の国際線の着陸料体系を2020年1月に見直したということになっているが(次図)、最大でも「(騒音値-83)×6,100円 」だから、大したインパクトがないことは、上図からも分かる。

「航空機の更なる騒音負担軽減策に関する国際動向調査について」P5
海外空港における騒音対策の事例
海外の9つの空港における騒音負担軽減策が整理されている。
■ サンフランシスコ国際空港(SFO)

■ ロサンゼルス国際空港(LAX)

■ サンディエゴ国際空港(SAN)

■ ジョン・F・ケネディ国際空港(JFK)

■ ストックホルム・アーランダ空港(ARN)

■ ロンドン・ヒースロー空港(LHR)

■ 海外空港に共通する騒音対策の特徴
- 航空機の静音化を促す評価制度・料金制度の活用
- 住宅防音や情報公開など、周辺住民への直接的な配慮
- 海上優先ルートや高精度航法による飛行経路の工夫
- 夜間規制や滑走路運用ルールによる時間帯・空間管理
航空機の騒音負荷軽減に関する取り組みのご紹介 (JAXA)
航空機騒音を抑えるための技術開発や研究の現状が整理されている。
JAXAによる騒音源の実測・解析を通じ、着陸・離陸時に騒音を生じさせる脚やフラップなどの要因を明らかにし、低騒音化技術の開発や飛行実証を進めている。
これらの成果は、将来の航空機設計や運航改善に活用され、騒音負荷の軽減につながることが期待されている。

「航空機の騒音負荷軽減に関する取り組みのご紹介」P9
今後の方向性(案)について

「今後の方向性(案)について」P1
雑感(技術検討の積み重ねと、残された核心)
1年ぶりに開催された第7回検討会である(次図)。

公開資料を通読すると、事務局がこの1年間、何もしなかったわけではないことは分かる。海外空港の事例を集め、RNP-AR方式の可能性を整理し、対応機材の導入率まで調査している。資料としての完成度は高い。だが、それ以上でも、それ以下でもない。
要するにこれは、「固定化回避は簡単ではない」と直接言えないための、周辺整理資料集である。早期実現が困難であることは、誰の目にも明らかだが、それを正面から表現する言葉は、どこにも存在しない。
象徴的なのが「今後の方向性(案)」という表現である。本来、検討会の終盤で示されるべきは「進め方」や「工程表」のはずだ。それをあえて「方向性」とぼかしている時点で、具体的なスケジュールを描ける段階にないことを自白しているようなものだろう。
そこに毎度おなじみの「丁寧な情報提供」「更なる充実化」が重ねられる。何を、いつまでに、どこまで進めるのかは曖昧なまま、「やっている感」だけが丁寧に演出される。この構図は、これまでの羽田新ルートを巡る議論と何一つ変わっていない。
もちろん、技術的検討は重要である。しかし、技術の話を積み上げるほど、「では、いつ固定化を回避できるのか」という核心的な問いから、議論は遠ざかっていく。
この検討会は、固定化回避に向けた“前進”を示す場というより、「前進していないことを、分かりにくく説明する場」になってはいないか。その疑念を、今回の資料は拭いきれていない。
【追記】「議事概要」について
※追記26年1月16日
国交省HPに1月14日17時、議事概要(A4判3枚)が公開された。
各委員の発言から、議論が向かっている方向と、なお避けられている論点がくっきり浮かび上がる。
論点1:海上ルートは「技術」ではなく「調整」の問題に
海上ルートを巡る議論では、純粋な技術否定はほぼ見られない。千葉県上空6,000ftという条件に対し、関空での5,000ft通過事例を引き合いに出し、「地元調整次第では再考の余地がある」と示唆する意見が出た。
つまり壁は技術ではなく、社会的合意形成であるという認識が共有され始めている。
論点2:RNP-ARは「導入可能か」ではなく「どう現実化するか」
RNP-AR方式については、安全性そのものを疑問視する声はない。一方で、機材対応率、乗員訓練、非対応機材との混在運用といった現実的制約が繰り返し指摘された。特に、時間値90回の確保が困難になる可能性は、同方式が机上の空論に終わるリスクを示している。
論点3:議論の閉鎖性への違和感
天津空港の事例深掘りや、パイロットへのヒアリング、チャルマース工科大学の研究プロセスを引き合いに出し、「オープンで官民連携の検討」を求める意見が示された。これは、事務局主導で完結しがちな検討会運営に対する、控えめだが明確な問題提起である。
論点4:騒音対策は運航改善から制度設計へ
騒音軽減策では、フラップ操作など運航面の限界が共有され、機体そのものの低騒音化、さらには着陸料金制度によるインセンティブ設計へと視点が移っている。即効性はないが、長期戦を前提とした現実的な議論だ。
論点5:「次の技術」を待つ姿勢の是非
RNP-VPTなど新方式への言及は、現行手段での突破が難しいことの裏返しでもある。技術進歩を待つのか、その間の負担をどう引き受けるのか。この問いは、今回も正面からは語られていない。
全体を通じ、検討会は前進している。しかしその速度は遅く、判断の重心は常に「先送り」に置かれている。
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- 羽田新経路の固定化回避に係る技術的方策検討会(まとめ)※適宜更新
各回の検討会で公表された資料を中心に解説した記事