2月9日に発売された日本経済新聞社編『限界都市 あなたの街が蝕まれる』(日経プレミアシリーズ)を読了。
17年4月に部門横断的に立ち上げられた調査報道チームによる、最初のシリーズ記事「限界都市」が大幅に加筆・修正された良書。不都合な真実が浮き彫りに。
中央区がタワマンに投じる補助金1千億円
中央区が2020年までに夕ワーマンション付き再開発に投じる補助金は約1000億円。学校や交通網の整備は後手に回ってしまったという。
開発ありき、かすむ公共性
(前略)大きな転換点は2000年。都市計画の決定主体は市区町村になった。特にバブル期の住民流出に悩んでいた都心部の自治体は再開発をテコに住民を回帰させようと試みた。
饗庭教授は「地方分権で個々の市町村が好き勝手に動くようになったため、全体最適のまちづくりを進めにくくなった。容積率緩和などの規制改革で民間主導のまちづくりを進める狙いも絵に描いた餅に終わり、不動産会社は(再開発時に利益を見込みやすい)高層マンションしか造れなくなってしまった」と指摘する。
代表例はやはり「タワーマンション先進地域」の東京都中央区だ。2020年までに夕ワーマンション付き再開発に投じる補助金は約1000億円。隣の江東区の約4倍で全国首位だ。その効果は大きく、人口は高度成長期の水準まで戻り、区民税も2016年度までの5年で57億円増えた。だが、学校や交通網の整備は後手に回ってしまった。(P51-52/第1章 タワマン乱立、不都合な未来像)
※神戸市は昨年12月14日、市内に乱立するタワマンの現状を踏まえ、持続可能なタワーマンションのあり方まとめた「神戸市におけるタワーマンションのあり方に関する課題と対応策(報告書)」を公開。
⇒「持続可能なタワーマンションのあり方、神戸市有識者研究会スタート」参照。
積立金を確保できない管理組合が融資に依存
積立金を確保できない管理組合が融資への依存を深めていくという指摘。
急増する「融資で穴埋め」
マンションの修繕工事の収支計画に狂いが生じた管理組合が頼るのは何か。
マンション共用部の大規模修繕向け融資を手がける住宅金融支援機構の担当者は、「毎月の積立金の徴収額を計画通りに上げられず、借り入れに頼る管理組合が増えている」と打ち明ける。(中略)住宅金融支援機構の担当者は、積立金の増額に難色を示すのは年金生活の高齢者だけでなく、「生活費のかさむ30~40代も同様だ」と指摘する。こうして積立金を確保できない管理組合が融資への依存を深めていく。(中略)
修繕工事費の不足を借り入れで穴埋めする管理組合も、最終的には積立金を増額して返済する必要がある。融資は金利の支払いも発生し、住民が負担増から逃げ切ることはできないのだ。
(P91-92/第2章 マンション危機、押し寄せる「老い」の波)
※国交省は昨年5月11日、大規模修繕費用の目安を情報提供し、トラブルを未然に防ぐべく、「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」報告書を公開。
⇒「1戸当たりいくらか?国交省「マンション大規模修繕工事 実態調査」参照。
立地適正化計画を持つ自治体の3割が規制を緩和
立地適正化計画を持つ自治体の3割の34市町が規制を緩めていたと回答した。
3割が郊外開発の規制を緩和
(前略)日本経済新聞の独自調査では郊外開発を抑制するどころか、アクセルを踏んでいる実態も見えた。本来は法的に都市開発を厳しく制限する「市街化調整区域」。要件さえ満たせば宅地や店舗を開発できる独自の規制緩和を温存する自治体があるのだ。
立地適正化計画を持つ自治体の3割の34市町が規制を緩めていたと回答した。このうち札幌や富山、岐阜など22市町が緩和をやめない方針を示した。9市町が「見直す予定で検討中」で「(緩和を)撤廃した」はわずか1市、「一部撤廃」は2市にとどまった。(以下略)(P147/第3章 虚構のコンパクトシティー)
※立地適正化計画とは、住まいや公共施設、医療施設、商業施設などを一定の範囲内に収めて、コンパクトな街づくりによって、市街地の空洞化を防止しようもの。
⇒「立地適正化計画の区域外は暴落!?『5年後に笑う不動産』」参照。
本書の構成
4章構成。全226頁。
第1章 タワマン乱立、不都合な未来像
第2章 マンション危機、押し寄せる「老い」の波
第3章 虚構のコンパクトシティー
第4章 脱・限界都市の挑戦