不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

首都圏を中心に、マンション選びのためのお役立ち情報を提供しています


大田区の特区民泊|2016民泊施策を振り返る(1)

年内にも規制緩和が行われようとしていた民泊新法であったが、「年間営業日数の上限」や「自治体が独自に条例で営業日数を決められる仕組みをどうするか」など、利害関係者との調整がつかず、先送りになった(臨時国会「民泊新法」提出見送り 二つの論点)。

一筋縄ではいかない民泊施策について、2016年を振り返ってみたい。

まずは、政府の肝いりでスタートした大田区の特区民泊から。


もくじ

政府の肝いりでスタートした大田区の特区民泊の現状

政府の肝いりで、全国に先駆けて4月1日から民泊条例を施行し、特区民泊を実施している大田区。

大田区の特区民泊の成果を踏まえ、民泊の規制緩和を進めようとする目論見もあったのだろうが、いかんせん大田区の特区民泊を先導モデルとするには、民泊需要が少なすぎる。ShinjukuやShibuyaと違って、外国人からの知名度が低い大田区は民泊需要が少ないのである。

 

民泊仲介サイトAirbnbに登録されている物件(大半は違法民泊)は、新宿区の約3,300件に対して、大田区は315件(12月1日現在)。新宿区の10分の1にも満たない(次図)。23区内のランキングは14位。

Airbnb登録件数(東京23区)
Airbnb登録件数 1都2府伸び鈍化」より

 

政府の後押しを受けた大田区は、民泊条例を遵守した合法民泊の推進に注力している。ただ、残念なことに、民泊条例が施行されたあと、いったんAirbnb登録件数(大半が違法民泊)が減少に転じるが、再び増加しているのである(次図)。

皮肉なことに、大田区が全面協力した合法民泊ドラマ!?「拝啓、民泊様。」の放送が切っ掛けで、民泊ビジネスのうま味を知ったニワカ大家さんが増えたようにみえる。

Airbnb登録件数の推移(大田区)
「拝啓、民泊様。」の影響!?大田区内で違法民泊増加」より

 

国家戦略特区諮問会議は現状認識できていない?

国家戦略特区諮問会議は、「特区民泊は、順調に実績を伸ばしてきていると評価できる」としているが、本当にそうだろうか?

内外観光客等の宿泊ニーズの急増に対応するため、本年2月より東京都大田区や大阪府門真市・藤井寺市などの国家戦略特区において行っている、いわゆる「民泊」事業(特区民泊)については、現時点で、既に 22 事業者(うち個人事業者6人)が運営する 27 の宿泊施設(63 室)を認定することにより、滞在者の合計は 208 人(うち外国人 104 人)にも上っており、特区民泊は、順調に実績を伸ばしてきていると評価できる

(「第23回 国家戦略特区諮問会議」(9月9日開催)資料2-2 )より

 

大田区がこれまでに認定した民泊施設の数は26件(12月1日現在)。

大田区が発表してきた認定民泊施設数の推移を可視化すると、次図のように、9月以降ほとんど増加していないことが分かる。

大田区が認定した民泊施設の数の推移

 

合法民泊はあまり増えていないのに、違法民泊は民泊禁止エリア内を含め、シッカリ根をはっているのである(次図)。 特区民泊認定施設
地図で可視化!大田区のAirbnb登録物件 vs 特区民泊認定施設」より 

 

 

なぜ、大田区では闇民泊が横行しているのか?

大田区は、合法民泊を推進するために、特区民泊の条例を施行し、特区民泊の効果を地域経済へと波及させるため、積極的に区内経済団体との連携を図っているという。

しかも、特区民泊利用者を対象とした「銭湯手ぶらセット(タオルやシャンプー等が入った特別手ぶらセット引換券及び銭湯多言語マップ)」事業まで推進しているのである(次図)。

大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)
大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(特区民泊)」より

 

大田区では、「銭湯手ぶらセット」を配布してまで合法民泊の推進には注力しているのだが、違法民泊に対応したという具体的な話は聞こえてこない。大田区は違法民泊を放置したままなのではないか。

住居専用地域にある集合住宅の民泊は認めない」と断言する京都市長のような、民泊に対する強い姿勢が見受けられないのである。 

違法民泊への対応に本気度が欠ける大田区の姿勢を見透かして、違法民泊が横行しているのであろう。

 

特区民泊制度と現状とのギャップ

大田区では民泊条例は施行された。ただ、同条例には罰則規定がないので実効性が担保されているとはいえない。上述のように、違法民泊が減少しないばかりか、増加していることがその証左ではないか。

特区民泊の政令(国家戦略特別区域法施行令の一部を改正する政令)の改正によって、条例を改正すれば、最低宿泊日数が「6泊7日以上」から「2泊3日以上」に緩和できるようになった。これまで現実的でないと言われていた「6泊7日以上」ルールが緩和されたのである。

大阪市はさっそく来年1月1日から「2泊3日以上」に緩和する条例を施行する。でも、大田区は「2泊3日以上」への条例変更には慎重な姿勢を示している。

中途半端な規制緩和(「6泊7日以上」のまま)だと、合法民泊は増加しない。また、「2泊3日以上」に緩和しようがしまいが、区の違法民泊放置スタンスが変わらなければ、違法民泊は増加し続けるであろう。

民泊条例を契機として、「2泊3日以上」などの緩和と違法民泊に対する絶滅スタンスのバランスをとることが、民泊施策の成功のカギである。

大田区の特区民泊はどこに向かおうとしているのか――。

関連記事(2016民泊施策を振り返る)

2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
Copyright(C)マンション・チラシの定点観測. All rights reserved.