一筋縄ではいかない民泊施策について、2016年を振り返る。
第3弾は、必要な法整備のあり方について。
今後、観光客の利便性と周囲への配慮など公共性を両立させるためにはどのような観点からの法整備が必要なのか。
- 全国一律の規制では民泊問題は解決しない
- 都市型民泊施策に必要な観点:京都方式がヒントになる!
- 地方活性化民泊施策に必要な観点:北九州市がヒントになるかも?
- 民泊推進には実効性のある罰則規定が欠かせない
- 関連記事(2016民泊施策を振り返る)
全国一律の規制では民泊問題は解決しない
民泊は2つに大別できる。
「「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書」では、「家主居住型」と「家主不在型」と呼ばれている。ただ、この呼称が民泊問題の本質を見えにくくしている。
誤解を恐れずに言えば、「家主居住型」は訪日外国人との交流を重視する「ホームステイ型」。「家主不在型」は金儲けを重視する「投資型」だ。
住人視点でとらえた場合、特に問題となるのは都会のマンションを利用した家主不在型(投資型)の民泊だ(次表)。
現在、多くの問題が噴出しているのは、主に都市部のマンションにおける民泊である。
全国でAirbnbに登録されている物件数の分布を調べると、東京・大阪・京都が全体の4分の3を占め、建物種類別ではマンションが全体の7割を占めていることが分かる(次図)。
このような状況を踏まえると、民泊問題は全国一律で捉えるのではなく、「都市部のマンション」と「それ以外(地方のマンション・一軒家)」に分けて議論する必要があるといえる。
現在のように、家主居住型(ホームステイ型)と家主不在型(投資型)に区分するだけでなく、さらに地方と都市に区分して、法整備をする必要があるのだ。
都市×家主不在型(投資型)民泊についてはマンション住人の安心・安全確保にウェイトを置いて検討する。地方×家主居住型(ホームステイ型)民泊については、地方活性化を図ることにウェイトを置いて検討する。
都市×家主不在型(投資型)民泊の法整備を進めるうえでヒントになるのは京都市の取り組みだ。
都市型民泊施策に必要な観点:京都方式がヒントになる!
ざっくり言うと、次の2点。
- 住居専用地域にある集合住宅の民泊は認めない
- 簡易宿所として許可できるものは許可し、周辺住民の合意を得る
現行法令に基づき、簡易宿所として許可できるものは許可し、周辺住民の合意を得るというのが「京都方式」。
京都方式はかなりの成果を上げており、違法民泊が猛烈な勢いで簡易宿所に生まれ変わっている(次図)。
京都方式がうまくいっている背景には、京都市が「民泊通報・相談窓口」(民泊110番)を開設し(16年7月)、違法民泊の絶滅に積極的に取り組んでいることも大きい。
地方×家主居住型(ホームステイ型)民泊の法整備を進めるうえでヒントになりそうなのは事例は少ないが、しいて挙げるならば北九州市の取り組み。
地方活性化民泊施策に必要な観点:北九州市がヒントになるかも?
北九州市が目指す特区民泊は、「外国人をはじめとする観光客等の多様な滞在ニーズに応える」とされている。
大田区の特区民泊との最大の違いは、民泊可能エリアの違い。
北九州市は既存のホテル・旅館との競合を避けるために、ホテル・旅館を建設できないエリアに限定しているのに対して、大田区は既存の都市環境、住環境保全の観点から、ホテル・旅館の建設が可能なエリアに限定しているのである。
北九州市はホテル・旅館との競合回避を優先しているのに対して、大田区は住環境悪化の回避を優先しているのであろう。
- ※くわしくは、「北九州市の特区民泊は地方創生の起爆剤となるか」ご参照。
民泊推進には実効性のある罰則規定が欠かせない
現在、民泊法案(民泊新法)と旅館業法改正法案は、年明けの通常国会への提出に向けて、水面下での調整が進められている。
民泊の規制緩和を進めるのであれば、違法民泊を放置せず、マンション住民の安全・安心を確保すべく、実効的な罰則規定と併せて制定することが肝要である。
「「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書」には、法令違反に対する罰則規定を設ける方向性だけは示されている。
家主不在型に対する規制について(管理者規制)
(前略)法令違反が疑われる場合や感染症の発生時等、必要と認められる場合の行政庁による報告徴収・立入検査、上記業務を怠った場合の業務停止命令、登録取消等の処分、法令違反に対する罰則等を設けるべきである。(P5)
ホテル・旅館に対する規制等の見直し
(前略)旅館業法に基づく営業許可を受けずに営業を行っている者(以下「無許可営業者」という。)その他旅館業法に違反した者に対する罰則については、罰金額を引き上げる等実効性のあるものに見直すべきである。(P8)
しかしながら、いまのところ具体的な罰則規定の内容は聞こえてこない。
現在は、許可を受けないで旅館業を経営した者は「6月以下の懲役又は3万円以下の罰金」が課せられる(旅館業法 第10条)ことになっている。
これまで違法民泊で懲役刑を受けた違反者はいないし、「3万円以下の罰金」くらいでは、闇民泊への抑止力にはならないだろう。
ニューヨーク州が11月1日から施行した「アンチAirbnb法」は、住居を短期滞在(30日未満)のために貸し出すことを目的とした広告をAirbnbなどに掲載した者に対し、3段階で罰金を課すこととしている。
1回目の違反では最高1,000ドル(約10万円)、2回目には最高5,000ドル(約52万円)、3回目以降は最高で7,500ドル(約78万円)の罰金が科せられる。
これくらい経済的なインパクトのある罰則規定があれば、闇民泊への抑止力になりそうだ。
- ※くわしくは、「NY州で「アンチAirbnb法」成立!罰金7500ドル」ご参照。