普通に考えれば、親会社が分譲したマンションは子会社が管理受託することになるのだが、必ずしもそうではないようだ。管理組合に対して、「管理委託費の値上げ」や「管理仕様の変更」などを申し入れた結果、受け入れられず、管理委託が契約解約になるケースが管理会社大手を中心に増加しているという。
2022年マンション総合管理受託戸数ランキング上位10社のうち、親会社が分譲会社である7社につき、可視化分析してみた。
- 40万戸超:東急コミュニティー・日本ハウズイング・大京アステージ
- 大手中心に「管理費見直し」顕著に(マンション管理新聞)
- 管理受託戸数の減少傾向が大きい(2社)
- 管理受託戸数の減少傾向が中程度(2社)
- 管理受託戸数の減少傾向が見られない(3社)
- まとめ
40万戸超:東急コミュニティー・日本ハウズイング・大京アステージ
「マンション管理新聞」のバックナンバーをひも解き、上位10社の過去13年間のマンション管理戸数の推移を可視化したのが次のグラフ。
東急コミュニティーは21年10月、前年12位だった100%子会社のコミュニティワンを吸収合併したことにより50万戸を突破。日本ハウズイングの増加は著しく、17年に大京アステージを抜きその差は年々広がっている。
東急コミュニティー、大京アステージ、三菱地所コミュニティ、長谷エコミュニティ、三井不動産レジデンシャルサービルは、グループ会社が販売したマンションを自動的に管理受託しているから自ずと戸数が多くなる。独立系の管理会社である日本ハウズイングが管理受託戸数を伸ばしているのは、低コストを武器に他社の受託戸数を侵食しているからなのであろう。
詳しくは、「マンション管理会社、総合管理受託戸数ランキング2022」参照。
大手中心に「管理費見直し」顕著に(マンション管理新聞)
上図の元データとなった「マンション管理新聞」22年5月25日号によれば、管理組合に対して、「管理委託費の値上げ」や「管理仕様の変更」などを申し入れた結果、受け入れられず、管理委託が契約解約になるケースが管理会社大手を中心に増加しているという。
大手中心に「管理費見直し」顕著に
(前略) 昨今の人手不足、人件費や資材などの高騰、協力会社からの値上げ要請などを背景に、管理組合に対して、「管理委託費の値上げ」や「管理仕様の変更」などを申し入れた結果、受け入れられず、管理委託が契約解約になるケースが管理会社大手を中心に増加している。
三菱地所コミュニティは昨年より5,545戸減らした。前回も1,906戸減らしており、2年続けての受託管理戸数減だ。リゾートマンションなど遠隔地の管理事業見直しが減少幅を広げた要因だ。
増加戸数ランキング上位の常連、大和ハウスグループの大和ライフネクストとグローバルコミュニティの2社共に増加戸数1,000戸に届かなかった。
住友不動産建物サービスは、ここ3年ほど前述した理由等で大幅に受託戸数を減らしたが、その流れは昨年1年も続いたようだ。1,644戸増加させたものの、管理組合数は5組合減らしている。親会社の積極的なマンション供給を考慮すると、管理見直しの動きが続いたと考えられる。
デベロッパー系列の管理会社が総じて受託戸数の伸びを鈍化させているのは、分譲マンション供給の減少も一つの要因となっている。(以下略)(マンション管理新聞 22年5月25日号)
普通に考えれば、親会社が分譲したマンションは子会社が管理受託することになる。従って、その子会社が管理受託する戸数は年々増加していくはずだ。ところが、最近は上述したように見直し・解除が行われるので、必ずしも管理受託戸数が増高しているとは限らないということになる。
実際にはどうなのか。親会社が過去4年間(17~21年)に分譲したマンションの戸数と子会社が翌年4年間(18~22年)に管理受託した戸数とのギャップを可視化分析してみよう。
【メモ】
- マンション管理受託戸数データは、マンション管理新聞に掲載されているデータに拠った。
- 分譲戸数データは、不動産経済研究所が毎年2月に発表する「全国マンション市場動向」に掲載されている「売上・事業主別発売戸数(全国)」に拠った。
管理受託戸数の減少傾向が大きい(2社)
上位10から独立系2社(日本ハウズイング、合人社計画研究所)と長谷工コミュニティを除いた7社のうち、管理受託戸数の減少傾向が大きいのは2社。以下、順に説明する。
三井不動産Rサ一ビス(三井不動産R)
三井不動産レジデンシャルサ一ビスの管理受託戸数は5年間(18年~22年)で▲2,495戸減少。三井不動産レジデンシャルが5年間(17~21年)に分譲した戸数は15,666戸なので、その差▲13,171戸。
つまり、これまでに三井不動産レジデンシャルが分譲したマンションのうち約1万3千戸の管理受託が子会社以外の管理会社に変更になったと考えられる。
変更理由としては、低価格な提案(これを「リプレイス」という)を仕掛ける独立系の管理会社への変更や、昨今の人手不足による人件費高騰を背景とした契約辞退の可能性が考えられる。
住友不動産建物サ一ビス(住友不動産)
住友不動産建物サ一ビスの管理受託戸数は5年間(18年~22年)で▲8,476戸減少。住友不動産が5年間(17~21年)に分譲した戸数は25,967戸なので、その差▲34,443戸。
つまり、これまでに住友不動産が分譲したマンションのうち約3万4千戸の管理受託が子会社以外の管理会社に変更になったと考えられる。
変更理由としては、低価格な提案(これを「リプレイス」という)を仕掛ける独立系の管理会社への変更だけなく、昨今の人手不足による人件費高騰を背景とした契約辞退の可能性も考えられる。
管理受託戸数の減少傾向が中程度(2社)
上位10から独立系2社(日本ハウズイング、合人社計画研究所)と長谷工コミュニティを除いた7社のうち、管理受託戸数の中程度の減少傾向が見られるのは2社。以下、順に説明する。
三菱地所コミュニティ(三菱地所レジデンス)
三菱地所コミュニティの管理受託戸数は5年間(18年~22年)で8,114戸増加。三菱地所レジデンスが5年間(17~21年)に分譲した戸数は14,061戸なので、その差▲5,947戸。
三菱地所コミュニティは、20年までは親会社の分譲マンション以外にも営業して管理受託戸数を伸ばしていたが、21年以降は「リゾートマンションなど遠隔地の管理事業見直しが減少幅を広げた要因」(マンション管理新聞)により減少している。
野村不動産パートナーズ(野村不動産)
野村不動産パートナーズの管理受託戸数は5年間(18年~22年)で18,914戸増加。野村不動産が5年間(17~21年)に分譲した戸数は22,128戸なので、その差▲3,214戸。
つまり、これまでに野村不動産が分譲したマンションのうち約3,200戸の管理受託が子会社以外の管理会社に変更になったと考えられる。
変更理由としては、日本ハウズイングなど、低価格な提案(これを「リプレイス」という)を仕掛ける独立系の管理会社への変更や、昨今の人手不足による人件費高騰を背景とした契約辞退の可能性が考えられる。
管理受託戸数の減少傾向が見られない(3社)
上位10から独立系2社(日本ハウズイング、合人社計画研究所)と長谷工コミュニティを除いた7社のうち、管理受託戸数の減少傾向が見られないのは3社。以下、順に説明する。
東急コミュニティー(東急不動産)
東急コミュニティーの管理受託戸数は5年間(18年~22年)で173,862戸増加。東急不動産が5年間(17~21年)に分譲した戸数は7,528戸なので、その差166,334戸。
東急コミュニティーは21年10月、前年12位だった100%子会社のコミュニティワンを吸収合併したことにより管理受託戸数を大きく伸ばした。
大和ライフネクスト(大和ハウス工業)
大和ライフネクストの管理受託戸数は5年間(18年~22年)で19,499戸増加。大和ハウス工業が5年間(17~21年)に分譲した戸数は11,100戸なので、その差8,399戸。
大和ライフネクストは、親会社の分譲マンション以外にも営業して管理受託戸数を伸ばしたのか、あるいは大和ハウスグループ間で管理受託戸数の融通を行った結果なのか。
大和ハウスグループ間で管理受託戸数の融通を行った可能性を考えたのは、大和ハウスグループ全体の22年の管理受託戸数377,747戸に対して、大和ライフネクスト単体の同年の管理受託戸数は275,846戸(73%)と必ずしも高くないからである(次図)。
【参考】大京アステージ(大京)
※大京の21年の供給実績は不明なので、以下の分析は参考扱いとする。
大京アステージの管理受託戸数は4年間(18年~21年)で5,072戸増加。大京が4年間(17~20年)に分譲した戸数は4,573戸なので、その差499戸。
大京アステージは、親会社の分譲マンション以外にも営業して管理受託戸数を伸ばしているということなのだろうか。
まとめ
管理組合に対して、「管理委託費の値上げ」や「管理仕様の変更」などを申し入れた結果、受け入れられず、管理委託が契約解約になるケースが管理会社大手を中心に増加しているという。
2022年マンション総合管理受託戸数ランキング上位10社のうち、親会社が分譲会社で上位10から独立系2社(日本ハウズイング、合人社計画研究所)と長谷工コミュニティを除いた7社につき、親会社が過去5年間(17~21年)に分譲したマンションの戸数と子会社が翌年5年間(18年~22年)に管理受託した戸数とのギャップを可視化分析した結果は、以下の通りである。
- 管理受託戸数の減少傾向が大きいのは2社
(三井不動産Rサ一ビス、住友不動産建物サ一ビス)。- 主な減少理由としては、低価格な提案(これを「リプレイス」という)を仕掛ける独立系の管理会社への変更だけなく、昨今の人手不足による人件費高騰を背景とした契約辞退の可能性も考えられる。
- 管理受託戸数の減少傾向が中程度は2社
(三菱地所コミュニティ、野村不動産パートナーズ)- 三菱地所コミュニティは、20年までは親会社の分譲マンション以外にも営業して管理受託戸数を伸ばしていたが、21年以降は「リゾートマンションなど遠隔地の管理事業見直しが減少幅を広げた要因。
- 野村不動産パートナーズの減少要因は、三井不動産Rサ一ビス・住友不動産建物サ一ビスと同様。
- 管理受託戸数の減少傾向が見られないのは3社
(東急コミュニティー、大和ライフネクスト、大京アステージ)- 東急コミュニティーは21年10月、前年12位だった100%子会社のコミュニティワンを吸収合併したことにより管理受託戸数を大きく伸ばした。
- 大和ライフネクストは、親会社の分譲マンション以外にも営業して管理受託戸数を伸ばしたのか、あるいは大和ハウスグループ間で管理受託戸数の融通を行った結果なのか。
- 大京アステージは、親会社の分譲マンション以外にも営業して管理受託戸数を伸ばしているということなのだろうか。
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