東京都は3月30日、「『未来の東京』戦略」を公表。あわせてパブリックコメントの結果についても公表した。羽田新ルートに係る部分を読み解いてみた。
※投稿21年4月7日(追記21年5月21日)
意見の7割に対して、ほぼ同じ文章で回答
東京都は3月30日、「『未来の東京』戦略」を公表。あわせてパブリックコメント(2月12日~3月13日)の結果についても公表した。
「『未来の東京』戦略」は本文だけでも400ページ近い膨大な資料。そのなかに「羽田空港の更なる機能強化のあり方検討」が埋もれていることについては過日、このブログで紹介した。
本日はパブリックコメントの結果(全116枚、PDF:2.3MB)をひも解いてみよう。
寄せられた意見は「意見内容」として、「総論」「ビジョン」「戦略」「全体」の4つの区分で整理されていて、それぞれに「都の考え方」が記されている(次図)。
都の資料によれば、意見総数160通(365件)とされている。筆者の集計によれば、そのうちの77件(21%)が羽田新ルート関連。
注目すべきは、77件の「意見内容」よりも、「都の考え方」のほうである。
77件のうち41件(53.2%)が5項目(①②③④⑤)からなる、まったく同じ文章なのだ(次図)。
さらに、12件(15.6%)は上記5項目(①②③④⑤)に、別の1項目を加えた文章で構成されている。
ようするに、77件の多様な「意見内容」に対して、7割近くがほぼ同じ文章で機械的に処理されているのである。
77件の「意見内容」は決して同じような意見ばかりではない。77件の「意見内容」の詳細については、「『未来の東京』戦略(案)」パブコメ結果のうち、羽田新ルートに係る意見一覧|マン点note」をご参照。
ずさんな処理
都の担当者も筆者のような面倒な分析をしている人間がいるとは思わなかったのであろうか、完璧な間違いを犯している部分が1か所ある。
まったく同じ「意見内容」に対して、異なる「都の考え」を示しているのである(次図、ピンク囲み文章が異なっている)。
見やすいように、上図をテキストにしたのが以下。
まず、「意見内容」は同じ。
意見内容
- 稼ぐことよりも、経済よりも、この戦略(案)の中核であることが望まれる「安全で安心な、健康な生活」を優先すべきである。稼ぐ手段やツールを充実させることで、「安全で安心な、健康な生活」を毀損しては本末転倒である。本末転倒の最たる例が羽田空港新ルートであり、即刻中止すべきである。
次に、「都の考え方」。P75とP76とでは朱書きの文章が異なっている。
都の考え(P75)
- 将来にわたって、東京が国際競争力をもって持続的な発展を続けていくためには、国内外に豊富なネットワークを有する羽田空港の機能強化を図ることが不可欠です。
- 新飛行経路の導入に当たり、都は、国に対して丁寧な情報提供や騒音影響の軽減、安全管理の徹底を求め、それを踏まえて、国は住民説明会の実施や低騒音機の導入促進、落下物防止対策の義務づけなど、様々な対策を実施して運用を開始しました。
- 運用開始後も、国はさらに、新飛行経路下における航空機騒音の測定結果の公表や落下物対策として機体チェックの体制強化等を行っています。
- 引き続き国に対し、都民の理解が更に深まるよう、丁寧な情報提供と騒音・安全対策の着実な実施を求めてまいります。
- 頂いた御意見は、今後の参考とさせていただきます。
都の考え(P76)
- 将来にわたって、東京が国際競争力をもって持続的な発展を続けていくためには、国内外に豊富なネットワークを有する羽田空港の機能強化を図ることが不可欠です。
- 新飛行経路の導入に当たり、都は、国に対して丁寧な情報提供や騒音影響の軽減、安全管理の徹底を求め、それを踏まえて、国は住民説明会の実施や低騒音機の導入促進、落下物防止対策の義務づけなど、様々な対策を実施して運用を開始しました。
- 運用開始後も、国はさらに、新飛行経路下における航空機騒音の測定結果の公表や落下物対策として機体チェックの体制強化等を行っています。
- また、国は、昨年、地元区の意見等を踏まえ、羽田新経路の固定化回避に係る技術的な方策について、現在の滑走路の使い方を前提として多角的に検討する会を設置し、検討が進められています。
- 引き続き国に対し、都民の理解が更に深まるよう、丁寧な情報提供と騒音・安全対策の着実な実施を求めてまいります。
連続したページに同じ「意見内容」を張り付けてしまったというミスを犯したうえで、さらに異なる「都の考え方」で回答してしまったというダブルミス。羽田新ルートに関しては、市民の声に聴く耳をもたず「『未来の東京』戦略」(案)を押し通しているうちに、処理がずさんになってしまったということなのだろうか……。
念のため申し添えておくと、今回公表された『未来の東京』戦略」は、少なくとも羽田新ルートに関しては、77件の意見を経てもなお、案から変更された部分は見当たらなかった。
【追記】政策企画局からの回答
※追記21年5月21日
まったく同じ「意見内容」がコピペされている件(上述)を読んだ港区在住のC氏から、その投稿をしたのは自分なので政策企画局にパブコメのミスを訂正するよう訴えたのだが対応してくれないとのツイートが流れてきた(4月23日)。
政策企画局長の上司は知事なので、「知事への提言」に投稿されたほうが話が早いかもとリツイートで助言(同日)。その後再びC氏から、知事への提言に投稿したが都からは反応がない旨のリツイートが流れてきた(5月13日)。
そこで筆者が5月18日、都民の声総合窓口のメールフォームから問合せてみた。
政策企画局計画部計画課御中
3月30日に公表された「『未来の東京』戦略(案)」に係るパブリックコメントの結果(下記URL)に記された「意見内容」のうち、P75とP76に同じ文章が掲載されています。
しかも、この同じ文章に対して「都の考え」が同じではありません。上記事象につき、政策企画局の見解をお伺いいたしたく。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/m_public_comment.pdf rel="nofollow"
3日後(5月21日)、政策企画局計画部計画課から次のような回答が送られてきた。
76頁の「都の考え」につきまして、
同一の内容の御意見に異なる回答を記載していたため、修正致しました。
https://www.seisakukikaku.metro.tokyo.lg.jp/basic-plan/choki-plan/
なお、ご指摘頂いた「意見内容」につきまして、75頁と76頁が同一の内容ですが、異なる提出方法で2件の御意見が寄せられたため、別々の方の御意見として掲載しております。
都の回答文書にはポイントが二つある。
一つは、同じ意見に対して「都の考え方」がP75とP76で異なっていたこと。
これについては、P76の「都の考え方」の一部が加除されて、P75と整合するように修正されていることが確認できた(次図)。
もう一つは、「異なる提出方法で2件の御意見が寄せられたため、別々の方の御意見として掲載しております」という回答。
C氏の5月21日の連ツイ(1) (2)には次のように記されている。
二つの提出方法とは、都のHPの提出フォームとメールで同じ内容のものを送付したので、それを指しているものと推察致します。しかしながら、当方は羽田新ルートに絡めたコメント10項目致しました。全く同じコメントを両方から送付しました。
しかし他の9箇所では重複とミスは起きていません。従い提出方法が複数だったのが原因、と言う説明は筋が通っていない様に思います。単なる都庁職員のチェックミスだと思いますが、責任転嫁は止めて頂きたいものです。
C氏のこのツイートの内容が事実だとすれば、都の回答は虚偽ではないが極めて不誠実な対応ということになる。
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