羽田新ルートが20年3月29日から運用開始されたことにより、東京都が昨年12月22日に学識経験者を入れた「航空機騒音に係る環境基準・指定地域」の見直しのための検討会を開催したことをご存じだろうか。
筆者が都知事宛に公文書開示請求したので(?)、2か月経ってようやく会議当日の配布資料が公開された。
※投稿3月5日(追記3月13日)
資料の公開までの経緯
東京都が20年12月22日に「航空機騒音調査に係る検討会(第1回)」を21年1月15日に開催すると公表。
ところがその後、会議当日の議事録はもちろん、配布資料さえ公開されることがなかったので、筆者が関係部局(環境局環境改善部大気保全課)とやり取りを重ねた結果(?)、3月3日にようやく環境局HPで配布資料が公開された(次図)。
ただ、このことは東京都HPの新着情報にも、環境局HPの新着情報にも掲載されていないうえに、環境局HPの深い階層で「航空機騒音に係る環境基準」のページに埋もれているので、弊ブログの読者以外はその存在を知ることは不可能だろう。
- 第1回 会議次第
- 資料1 航空機騒音調査に係る検討会設置要綱及び検討会委員名簿
- 資料2-1 東京国際空港における指定地域の見直し検討について
- 資料2-2 【東京国際空港】指定地域見直し検討スケジュール
- 資料3 航空機騒音に係る環境基準
- 資料4 羽田空港のこれから(国土交通省パンフレット)
- 資料5 東京国際空港周辺航空機騒音予備調査結果
- 資料6 騒音基礎調査について
以下、筆者と東京都関係部署とのやり取りの経緯を列挙する。
1月18日:環境局Twitter公式アカウントに質問
- 東京都環境局【公式】2020年12月22日
【報道発表】 航空機騒音調査に係る検討会(第一回)の開催について- マン点(1月18日リツイート)
議事録はいつ、どのようなかたちで公開されるのでしょうか?
環境局からは特にリツイートがなかったので、都民の声総合窓口のメールフォームで照会した。
1月21日:環境局に照会【第1回目】
筆者(1月21日)
- 航空機騒音調査に係る検討会(第一回)の議事録は、いつ、どのようなかたちで公開されるのでしょうか?
環境局環境改善部大気保全課(2月4日)
- お問い合わせいただきました 航空機騒音調査に係る検討会(第一回)議事内容につきましては、環境局HPにて、準備が整い次第、公表する予定ですので、今しばらくお待ち願います。
- ご希望いただければ、更新の後、連絡させていただきますので、その旨ご返信ください。よろしくお願いいたします。
待てど暮らせど音沙汰がないので、再び大気保全課に問い合わせた。
2月24日:環境局に照会【第2回目】
筆者(1月24日)
- 航空機騒音調査に係る検討会(第一回)議事内容につき、公開予定日時をご教示ください。
環境局環境改善部大気保全課(2月25日)
- 航空機騒音調査に係る検討会(第一回)議事内容の公開予定日時につきまして、公開時期は未定でございます。
- お待たせして申し訳ございません、公開の際は、お知らせいたします。
なかなか連絡がこないので、「東京共同電子申請・届出サービス」を使て公文書の開示請求をすることにした。
2月28日:東京都に公文書開示請求
筆者(2月28日)
- 開示請求に係る公文書の件名又は内容:
令和3年1月15日に開催された「航空機騒音調査に係る検討会(第一回)」に係る議事録および配布資料
4日後に東京都から、議事録以外は環境局のサイトで公開されている旨の通知が届いた。
東京都(3月4日)
- 開示請求内容の議事録および配布資料のうち、配布資料は下記サイトに公開されております。
- https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/noise/noise_vibration/environmentstandards/aircraft_noise/index.html
- 開示請求の対象は「公開資料は除く」ということでよろしいでしょうか。これにより、議事録のみが請求対象となります。(以下略)
以上の経緯をまとめると次のようになる。
筆者が1月21日に都民の声総合窓口から照会しても動きがなかったが、都知事宛の公文書開示請求(2月28日付)の3日後に環境局HPに会議当日の配布資料が公開された。
真摯に対応してくれた担当者にはご苦労をお掛けして申し訳なかったが、都知事宛に公文書開示請求しないと動かない環境局には問題があるのではないだろうか。
ちなみに、「航空機騒音調査に係る検討会設置要綱」(改正13年7月2日)によれば、検討会は公開が原則とされている。
第8条(検討会の公開原則)
検討会の会議は、これを公開する。ただし、次の各号に該当するときは、検討会の決定により、会議の全部又は一部を非公開とすることができる。
- 一 会議において取り扱う情報が東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号)第7条各号の「非開示情報」に該当するとき。
- 二 会議を公開することにより、公正かつ円滑な審議が著しく阻害されるおそれがあると認められるとき。
以下、3月13日追記。
3月 5日:議事録は存在しない!?
東京都(3月5日)
- 「議事要旨や議事概要ではなく、議事録で」とのことですが、この議事録とは要点を記録したものではなく、発言等を全て記録した速記録のようなものということでしょうか。
- 仮に、議事要旨や議事概要のみが文書として存在する場合、請求した文書が存在しない旨を通知するということでよいでしょうか。
- 文書交付を行うと手数料が発生してしまうため、確認させてください。
暗に議事録は公開しないという回答は想定内であったので、議事要旨や議事概要をCD-Rにて郵送してほしい旨の返事をしたら、6日後に議事要旨をホームページで公開する旨の回答が送られてきた。
3月12日:議事要旨 をHPで公開
東京都(3月11日)
東京都環境局環境改善部大気保全課でございます。
度々ご連絡をいたしまして、申し訳ございません。情報開示請求をいただきました航空機騒音調査に係る検討会の関係資料につきまして、議事要旨 を明日3月12日(金曜)18時前後に、ホームページへ掲載する予定でございます。
開示請求手続きをこのまま進めますと手数料が発生してしまいますので、(以下略)
大気保全課の担当者が真摯に対応してくれたことには感謝しかないのだが、結局のところ筆者が都知事宛に公文書開示請求しなければ、環境局は会議資料はおろか議事要旨すら公開しなかったのではないか、という思いは残る。
議事要旨が公開されたことは環境局HPの新着情報に掲載されていないので、弊ブログの読者以外はその存在を知ることはできない。
検討会資料をひも解く
会議当日に配布された資料のなかから、興味深い内容を中心に以下に整理する。
検討会の目的・検討事項
※資料1(PDF:188KB)より
- 設置目的
都内の飛行場に係る環境基準地域類型指定地域について技術的な助言等を得るため、検討会を設置する。 - 検討事項
(1) 調査方法について
(2) 騒音コンターの作成について
(3) 素案について
(4) その他必要な事項
検討会の委員
※資料1(同上)より
- 【座長】町⽥信夫 ⽇本⼤学名誉教授
- 森⻑誠 公益財団法⼈防衛基盤整備協会 主任研究員
- ⼭本貢平 ⼀般財団法⼈⼩林理学研究所 理事⻑
航空機騒音に係る環境基準・指定地域
※資料2-1(PDF:304KB)より
現在は次図の緑色で囲まれたエリアだけが指定地域となっている。
指定地域見直し検討スケジュール
※資料2-2( PDF:129KB)より
21年度は春・夏の2回、騒音基礎調査が実施される。最終的に騒音コンタ―図(騒音の等高線図)が完成するのは23年度の予定(次図)。
羽田新ルート周辺の航空機騒音の予備調査結果
※資料5(PDF:1.3MB)より
昨年の夏、4週間(7/28-8/24)にわたって実施された予備調査の結果がA4判22枚にまとめられている。
都の担当者に代わって、筆者が22枚から抽出した目次は以下の通りだ。
1.調査内容
- 1-1.調査⽅法
1-1-1.騒⾳調査
1-1-2.航跡測定- 1-2.調査⽇程
- 1-3.騒⾳調査地点
2.調査結果
- 2-1.騒⾳調査結果
2-1-1.調査地点別測定結果
2-1-2.調査地点別の運⽤別の寄与率
2-1-3. 機種(⼤中⼩)別の騒⾳影響
2-1-4.減便影響の確認- 2-2.航跡調査結果
2-2-1.航跡図
2-2-2.捕捉率と捕捉できない機種の特定
調査地点は20地点(次図)。
調査結果は一覧表(20地点)と、測定地点・機種別のグラフにまとめられている(次表、次図)。
騒音シミュレーション手法
※資料6(PDF:477KB)より
騒音シミュレーションを行うためには、「音源モデル」「航跡モデル」「フライトパターン」を作成する必要がある。21年度実施予定の騒音基礎調査において、各モデルを作成するための調査方法が記されているが、専門的になる過ぎるので割愛。
以下、3月13日追記。
資料5の訂正版(PDF:1,972KB)が公開された。
訂正前の資料はすでに削除されている。こんなこともあろうかと、筆者のPCに保存しておいた訂正前の資料との違いを比較してみた。
訂正か所は1か所だけ。調査地点の番号が違っていただけだった(次図)。
資料名にわざわざ「訂正版」と追記するのであれば、どこをどう訂正したのか、本文に訂正履歴を明記しておいてほしかった。
「議事要旨」をひも解く
※追記3月13日
議事要旨が3月12日、環境局HPで公開された。
注意深く見ていかないと、議事要旨が公開されたことには気が付かないような表示になっている(次図)。
下記の議事項目に従って、気になった点を整理しておいた。
(1)東京国際空港における指定地域の見直し検討について
(2)東京国際空港周辺航空機騒音予備調査結果について
(3)騒音基礎調査について
(4)その他
東京国際空港における指定地域の見直し検討
本検討会は騒音コンター図を作成するための技術的助言まで。地域指定の線引きは、都が総合的に判断するとされている。
(略)本検討会の位置づけは、基本的に騒音コンター図を作成するための技術的助言をすることで、地域指定の線引きにまでは踏み込まないということか。(山本委員)
- (略)本検討会の位置づけは騒音コンター図の作成に関するところまで。地域指定にはおいては、科学的知見だけではなく、関係区をはじめとした様々な意見を踏まえて都として総合的に判断する。(事務局)
指定地域指定の目安としてのdB値の判断も本検討会の外。
騒音コンター図を作成し何 dB の辺りを目安にしようかという判断になると思うが、その判断の基となる規則はないと理解している。この判断についても検討会の外ということでよいか。また、現在の指定地域を指定した際はどういった値をベースとしたのか。(森長委員)
- 何 dB を目安にするかといった判断は検討会の外となる。(事務局)
東京国際空港周辺航空機騒音予備調査結果
森長・山本両委員の提案に対して、原案で乗り切ろうとする事務局。
最終的に Lden で整合がとれていることが重要であると考えるが、Lden のみで検証するとなると、短期間の測定と年平均した予測値は一致しないかもしれないので、測定期間を揃えた予測値と比較する必要がある。(森長委員)
基礎調査地点の選定方針は事務局の考え方で問題ないが、離陸音を捕捉する地点が不足している。国土交通省のデータ等でこれらを補うことも視野に入れてはどうか。(山本委員)
- まずは都として測定を行った基礎調査結果を用いて音源モデルを作成したい。国土交通省のデータは再現性の確認に使用したいと考えている。(事務局)
騒音基礎調査
今後、次の4地点を追加した補足調査が予定されている。
- 埋立管理事務所
- 大田区城南島付近
- 大田区羽田付近
- 大田区京浜島付近
- 品川区内
資料 6 図 1 で、騒音基礎調査選定地点一覧の表中で、枠の中に 2 地点入っているのはどういうことか。また選定地点の B から E はどのように考えるのか(町田座長)
- 2 地点のうちのいずれか 1 地点を選定したいと考えている。選定地点 B から E についてはこれから地点を検討する。また、基礎調査に加えて、追加で補足調査を実施することも考えている。(事務局)
その他
基礎調査実施の是非・時期は、3 月下旬を目途に各委員に個別に相談するとしている。
今後の指定地域見なおし検討スケジュールについて、新型コロナウイルスの影響で減便されており、令和 3 年度春期の基礎調査ではデータが十分に取れない可能性があるため、基礎調査実施の是非及びその時期については令和 3 年 3 月下旬を目途に各委員に個別に相談する旨を事務局から説明し、了承を得た。
【参考】騒音対策区域に指定されるメリット
※追記3月13日
この検討会は、「航空機騒音調査に係る検討会設置要綱」(改正13年7月25日)に基づき設置されている。同検討会の目的は「都内の飛行場に係る環境基準地域類型指定地域について技術的な助言等を得る」こと。
第2条(設置目的)
- 「航空機騒音に係る環境基準について(昭和48年12月27日環境庁告示第154号)」を受け、都内の飛行場に係る環境基準地域類型指定地域について技術的な助言等を得るため、検討会を設置する。
じつはこの条文には大切なことが記されている。以下に解説する。
環境基本法第16条(環境基準)2項で、環境基準地域類型指定地域について、航空機騒音は適用除外とされている。
では、航空機騒音はどうなるのかといえば、「航空機騒音に係る環境基準(昭和48.12.27 環境庁告示第154号)」の地域の類型ごとに知事が指定する地域は「航空機騒音に係る環境基準の地域類型の指定(1976年11月1日告示第1068号)」で定められることになっている。
本検討会の結果を踏まえ「航空機騒音に係る環境基準の指定地域」に指定されると、住宅防音工事や生活保護等世帯空気調和機器稼働費など、国からの補助が受けられるメリットがあるのだ(次図)。
あわせて読みたい