5月21日13:23頃、シカゴ発ユナイテッド航空 UA881便のボーイング787が羽田に着陸。
なぜ、羽田新ルート運用開始が許されている15時前に、都心低空飛行が実施されたのか。
備忘録としてまとめておいた。
時間外の都心低空飛行
5月21日13:23頃、シカゴ発ユナイテッド航空 UA881便のボーイング787が羽田に着陸(次図)。
「flightradar24」より
国交省が運用している「羽田空港飛行コース」に公開されている「過去の運用状況」よれば、5月21日の南風時の都心低空飛行は14:30から16:07と16:33から17:35だ。UA881便が都心低空飛行を実施した時間帯の運用は「ILS RWY22/ILS Z RWY23 LDG 」(日中帯南風、好天時以外、B/D滑走路着陸)となっていた。
なぜ、羽田新ルート運用が許されていない時間帯にUA881便は都心低空飛行を実施したのか。
「準緊急事態」が発生していた
航空無線を傍受した航空無線マニア(?)のツイートによれば、「UA881は準緊急事態(PAN-PAN)だった」とされている。
PAN-PAN PAN-PAN PAN-PAN We have Flight Control Trouble. Request RWY16L.
準緊急事態とは、遭難信号(メーデー)を発する一歩手前の準緊急事態に陥ったことを意味する。
パン-パンを三度続けて発信すると、遭難信号(メーデー)を発する一歩手前の準緊急事態に陥ったことを意味する。まだ緊急事態に陥ったわけではないので、乗員の生命や船舶・航空機自体はさしあたって危険に晒されてはいない状況がパン-パンにあたる。
これに対してメーデー(遭難信号)の方は乗員の生命や船舶・航空機自体が目下危険に晒されていることを意味する。従ってパン-パンを発信すると、消防・救急や付近を航行中の船舶・航空機に対し、発信者が緊急事態に陥る恐れがあることを知らせるだけだが、メーデーを送信すると、周囲に全ての活動を中断し救援活動の準備に入るよう要請することになる。
Wikipediaには航空機がパン-パン(準緊急事態)を発信した例として、機内火災やエンジン不調、油圧系統の不調など、けっこうヤバい事案が列挙されている。
- 機内で火災が発生したため緊急着陸を要請したスイス航空111便がパン-パンを発信したことがある。
- またアビアンカ航空52便の事故の初期段階でも目下燃料が不足してきているが、緊急事態にまでは至っていなかったのでパン-パンが発された。
- カンタス航空74便の事故ではサンフランシスコを離陸直後に第四エンジンが不調に陥った際に「パン、パン、パン」と発信している。
- カンタス航空72便も不意に数百フィートほど機体が落下した際にパン-パンを発した。この事故で乗員・乗客の中に重軽傷を負った者もいた。シンガポール発シドニー行きのカンタス航空32便も離陸直後に四機あるエンジンのうち一つが停止した際にパン-パンを発した。
- アブロ バルカンXH558便も2011年8月29日にダンスフォールドの航空・自動車ショーへ向かうため離陸した直後に油圧系統の不調を訴えパン-パンを発信した。最終的に当機はRAFコニングスビーに着陸した。当空港の滑走路が長かったことと、向かい風だったためブレーキをそれほど使わず、ブレーキ用パラシュートで停止することができた。
ちなみに、当日午後の羽田空港周辺の気象状況は次のとおり(次図)。
UA881便が都心低空飛行を実施した時間帯は、南南西の風10m、「周辺でしゅう雨」。
「東京国際空港の過去48時間の天気」を基に筆者作成
何が起こっていたのか
共同通信の記事によれば、ユナイテッド機に主翼のスラット(高揚力装置)のトラブル発生したため、パイロットが羽田で最も長いC滑走路を使いたいと要請したとのこと。
運用時間外に都心の新ルート飛行
緊急事態のユナイテッド機シカゴ発羽田行きのユナイテッド航空機が主翼のスラット(高揚力装置)のトラブルで緊急事態を宣言して羽田空港に着陸する際、東京都心の上空を通過する新ルートを運用時間外に利用していたことが21日、国土交通省への取材で分かった。
国交省によると、緊急事態の場合、時間外でもパイロットからの要請を受けて新ルートを飛行するケースがあり得る。担当者は「これまでも緊急時には都心上空を飛んだ例はあるが、新ルートの利用は初めて」としている。
国交省によると、ユナイテッド機は21日午後0時45分ごろ、緊急事態を宣言。パイロットが、羽田で最も長いC滑走路を使いたいと要請した。
(共同通信 5月21日)
まずは無事に着陸できてなにより。
「緊急時にILSアプローチ完備の最も長い滑走路に着陸依頼を出すのは常識中の常識です」という現役の国際線専業パイロットのツイートが流れている。
今回の事案につき、筆者の問題意識は以下のとおり。
今回のような「準緊急事態」においては時間外であっても羽田新ルートを飛行する場合があり得ることについて、国交省はこれまで住民に説明してこなかった。
なぜユナイテッド機は成田にダイバート(当初の目的地以外の空港などに着陸すること)をしなかったのかなども含め、国交省には”丁寧な説明”が求められる。
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