不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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『宅地崩壊』なぜ都市で土砂災害が起こるのか

台風21号に伴う記録的な大雨で、各地で河川の氾濫や、土砂災害などの被害が発生した。

京都大学防災研究所教授、釜井俊孝 著『宅地崩壊』NHK出版 (2019/4/10)。なぜ都市で土砂災害が起こるのか、分かりやすくかつ辛辣に語る良書。

※被害を受けられた皆様に心よりお見舞い申し上げます。


もくじ

傾斜地マンション、地質調査をケチる業界の慣行

横浜の傾斜マンション問題は、地質調査をケチるというこの業界の慣行にも問題があるという指摘。

傾斜地マンション

(前略)2014年と2015年、横浜市のマンションで立て続けに傾斜、沈下被害が発生し、社会問題化しました。

(中略)

この問題では、主に杭を施工した下請け業者が非難されました。しかし、彼らの単純なミスで片付けられない業界全体の構造に根差す深刻な問題には、あまり目が向けられなかったと思います。それは、地質調査をケチるというこの業界の慣行です。

建築の場合、よほど重要な建物でない限り、敷地全体の綿密な地質調査が行われることはまれです。普通は敷地中央部でボーリングを一本掘削し、その結果を水平に敷地全体に拡げて地盤を評価しています。

都心のような沖積平野の真ん中では、大抵の場合、これで大きな問題は生じませんでした。しかし、最近、開発の対象となった台地・丘陵地や平野の縁辺部では、地山そのものの傾斜や古い盛土の存在によって、基礎地盤が複雑になっている可能性が高いのです。だから、地質調査は念入りに行わなければなりません。(以下略)

(P170-171/第4章 ゆらぐ「持ち家社会」)

※横浜の傾斜マンションはその後、どの業者がどれだけ補償費を負担するのか泥沼化していた(傾斜マンション問題のその後……泥沼化!? )。

産経記事(19年2月5日)によれば、20年12月に新たなマンションが完成する予定とされている。

23区内に分布する盛土はごく少数というミスリード

ある区役所が配布している地震ハザードマップでは、区内に盛土がほとんどないことになっていて、住民は二重に間違った情報提供を受けているという事態が起きているという。

「大規模宅地盛土分布図」の意義と矛盾

(前略)さて、問題は東京都の分布図です。2015年に公開された東京都の地図では、盛土は多摩ニュータウンとその周辺に集中し、23区内に分布する盛土はごく少数という表現になっています。しかし、古い地形図や現地でのボーリング、地球物理学的探査の結果を総合すると、この地図には大きな問題があると思います。

東京23区には戦前の開発によるものも含め、多くの古い谷埋め盛土が分布しているにもかかわらず、これらの多くが表現されていないからです(図4-9)。

さらに深刻なことに、23区内の古い盛土では、地下水位が地表近くまで上昇している場合があり、最近の盛土に比べて地すべりのリスクは高いと考えられます。つまり、東京都は、「リスクが高いにもかかわらず、それは存在していない」という、誤りでしかも危険なメッセージを都民に送っていることになるのです。

23区では、この東京都の公式情報をもとに地震ハザードマップが作られています。その結果、ある区役所が配布している地震ハザードマップでは、区内に盛土がほとんどないことになっていて、住民は二重に間違った情報提供を受けているという事態が起きています。(以下略)

(P188/第4章 ゆらぐ「持ち家社会」)

※国交省が運営しているサイト「ハザードマップポータルサイト」では水害リスクだけでなく、土砂災害リスクなども簡単に調べることができる(マン点流!裏ワザ(水害リスクを簡単に調べる方法))。でも、その元データを構成する谷埋め盛土情報が適切でなければ、その実効性に疑問符が付いてくる。

災害リスクによって固定資産税に差をつける

固定資産税に差をつけるようにして、地価が災害リスクによって変動するようになれば、住民も本気でハザードマップを見るようになるという提案。

リスクと税金

2018年の7月豪雨災害では、固定資産税の高いほうの団地が土石流で被害を受けたのに対し、評価の安いほうでは災害が起きませんでした。つまり、税金の評価の面では、命よりも利便性や人気が優先されているのです。

(中略)

そもそも、固定資産税を10パーセント負けてもらっていても、死んでしまったり、住宅が壊れては元も子もありません。個人にとって災害は、不動産鑑定にまつわるさまざまな思惑をすべて押し流してしまうものなのです。

固定資産税は、行政から住民に対する重要なメッセージです。それに反映される災害リスク分がこの程度では、住民が行政の本気度を疑うのも無理はないのではないでしょうか。

もっと、固定資産税に差をつけるようにして、地価が災害リスクによって変動するようになれば、住民も本気でハザードマップを見るようになると思います。「未災」の意識改革は、財布に直結することから始めるのが効果的かもしれません。

(P239-240/第5章 わが家の生存戦略)

※現状ではハザードマップで自宅付近の水害リスクを確認している人は約4割(ハザードマップで水害リスクを確認する人はどのくらいいるのか?)。

本書の構成

全5章、263頁。

  • 第1章 宅地崩壊の時代
  • 第2章 遅れてきた公害
  • 第3章 盛土のミカタ
  • 第4章 ゆらぐ「持ち家社会」
  • 第5章 わが家の生存戦略

宅地崩壊

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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