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6年の極貧生活を脱したシングルマザー司法書士が描く『家賃滞納という貧困』

シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格した著者による『家賃滞納という貧困』(ポプラ新書)を読了。

著者は、家主側の訴訟代理人として2千200件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア。

本書には、著者が現場に足を運び、賃借人に寄り添ってきたリアルな貧困世界が描かれている。 


もくじ

家賃保証会社の台頭で、若年層の家賃滞納増加

家賃保証会社の台頭により、連帯保証人なくして部屋を借りられるようになった若年層の家賃滞納が増えているという。

愛情があってもすれ違う父娘の心

 最近、若年層の家賃滞納が非常に増えています。その原因の多くは、経済的基盤がなくても部屋が簡単に借りられてしまうことではないでしょうか。

 年金代わりにと不動産投資をしたり、相続税対策でアパート経営に乗り出したりする家主が増えたことで、物件数は飛躍的に伸びています。そうして借り手市場となった不動産業界において、家賃保証会社の台頭により、連帯保証人なくして部屋を借りられるようになったことは、「部屋を借りる」ことのハードルを下げたのでしょう。

 山本加奈さん(21歳)は、すでに4カ月も家賃を滞納していました。しかも、滞納は部屋を借りた直後から始まり、その額は30万円を超えています。(以下略)

(P94-95/第2章 そこにあるのは「甘え」なのか)

※家賃保証業者でつくる社団法人全国賃貸保証業協会は9年前から、入居者の信用情報を一括管理する「代位弁済状況(家賃情報)データベース」の運用をしている。
家賃滞納のブラックリストに登録されると、債務が消滅してから5年間は賃貸契約を拒まれる可能性がある。
⇒「家賃滞納データベースの運用が始まった!

そもそも安い部屋が見つからない

昭和40年代に建った木造アパートが老朽化のため建替えられ、安い部屋を探すのが難しくなり、やむなく身の丈以上の部屋を借りるしかないという状況が作り出されている可能性が指摘されている。

そもそも安い部屋が見つからない

 先に述べたように、毎月の最大固定支出となる家賃は、月収人の4分の1以下を目安にした方が安全です。その一方で、賃金もあまり上がっていないため、多くの人が問題なく支払える家賃は決して高くないのに、実際には家賃の金額は上昇傾向にあるのです。

 その要因としては、建物の建替えでしょう。昭和40年代に建った木造アパートが老朽化のため建替えられ、高収益を生む建物に移行しています。空室となるのが怖い家主が、人気物件となることを目指して高スペックの建物を建築しているのです。その結果、安い部屋を探すのが難しくなってしまいました。

6畳一間で共同便所の物件も、最近ではほとんど見かけません。新築される物件は、オートロック、宅配ボックス、温水洗浄便座、インターネット環境等が完備されているような物件ばかり。そうでないとネット検索にもかからないからです。その結果家賃は高騰し、やむなく身の丈以上の部屋を借りるしかない、という状況になっている可能性もあるのです。(以下略)

(P121-122/第3章 家賃滞納の知られざる闇)

※本書では「家賃の金額は上昇傾向にある」とされている。

でも、東京23区の民間家賃はこの10年下落傾向にあるようだ(次図)

東京23区の家賃の推移(物価補正あり)
東京23区 家賃の下落は必然」グラフを最新データに更新

93歳の賃借人に強制執行ができない事態

通算10年近くで滞納額が500万円超になった93歳の賃借人(妻89歳と同居)に明け渡しの判決が出た。でも、強制執行ができない(執行不能)の可能性を見越して、この老夫婦の受け入れ先探しに奔走する著者。

強制執行が断行されないケースとは

(前略)93歳の賃借人には、明け渡しの判決が言い渡されました。しかし強制執行を申し立てたところで、執行不能になる可能性は高いと思われます。それでも家主の次の人に部屋を貸したいという思いは、なんとか実現しなければなりません。本来の司法書士業務とはかけ離れますが、私は役所の福祉課と連携して、この夫婦の受け入れ先を探していくことにしました。

 この先、民間の賃貸物件で、身内の援助もなくこの高齢者夫婦が生活していくのはまず不可能でしょう。そのため狙うのは、夫婦で入れる高齢者施設です。エリアに条件は付けられません。とにかく全国の、介護保険料と僅かな年金で支払える施設に片っ端からアタックするしかありませんでした。

 そうして200件以上当たってみたでしょうか。引き受けてくれる老人ホームが奇跡的に、そう本当に奇跡的に見つかったため、そこに転居してもらいホッと胸をなでおろしました。(以下略)

(P210-211/第6章 家賃滞納で露呈する法律の不条理)

※高齢者だと民間の賃貸マンションが借りにくいが、半官半民のUR物件や公営物件であれば、年齢を理由に断られることはない。ただ、貧困高齢者や老後破綻に向かう高齢者にとってUR物件を借りるのは経済的なハードルが高い。

人生100年時代の住宅セーフティネットの整備が求められる。
⇒「「経済財政運営と改革の基本方針 2018」住環境編

本書の構成

全6章。全228頁。

  • 序章 家賃を滞納すると何が起こる?
  • 第1章 誰もが「紙一重」の家賃滞納
  • 第2章 そこにあるのは「甘え」なのか
  • 第3章 家賃滞納の知られざる闇
  • 第4章 家賃滞納が映し出すシングルマザーの実態
  • 第5章 夢を持てない若者たち
  • 第6章 家賃滞納で露呈する法律の不条理

家賃滞納という貧困

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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