国交省は新経路案に関する意見について、内容別の件数の集計を行っていないという。
国交省が公開している「みなさんからいただいたご意見の取りまとめ」という528頁に及ぶ資料を可視化・分析してみた。
国交省は1.7万件もの意見を集めたのだが…
松原仁 衆議院議員が11月30日に提出した羽田新ルートに係る質問主意書に対する答弁書にはとっても気なる記述がある。
同議員の質問「政府は、新飛行ルート周辺下の住民における計画に対する賛否の割合はどの程度であると認識しているか」に対して、「新経路案に関する御意見については、その内容別の件数の集計を行っていない」というのである。
新経路案に関する御意見については、その内容別の件数の集計を行っていないが、国土交通省の特設ホームページ「羽田空港のこれから」においてその内容を公開しているところである。
※詳しくは、「羽田新ルート|質問主意書(松原仁議員)を読む」参照。
内容別の件数の集計を行っていないご意見とは、いったい何のことなのか?
住民説明会や特設電話窓口などを通じて寄せられた1.7万件にも及ぶ意見のことを指している。
でも、その存在を知っている人は少ないのではないだろうか。国交省が運営している「羽田空港のこれから」というサイトで公開されているのだが、簡単にアクセスすることはできないからだ。
同サイトのトップページをスクロールしていくと、一番下に掲載されているサイトマップに「いただいたご意見についての検討」という項目があることをご存じだろうか(次図)。
同項目をクリックし、表示されたページを下にスクロールしていくと、「意見冊子」という見出しの下に「「羽田空港のこれから」みなさんからいただいたご意見の取りまとめ【PDF】(152.8MB)」というリンクが表示されている(次図)。じつはここに「内容別の件数の集計を行っていないご意見」が公開されているのである。
でも、決してこのリンクをクリックしてはいけない。なぜならば、PDFのサイズは152.8MBというトンデモナイ大きさなのだから。ただでさえ国交省のHPから資料をダウンロードするのに昼間はとっても時間が掛かるのに、152.8MBではほとんどフリーズ状態になる。
なぜ国交省はこんなに重いファイルをアップしているのか?
ワード(あるいはエクセル)で作成した資料を直接PDF化しているのではなく、わざわざ紙に印刷した資料をスキャンしたうえでPDF化しているのだ。これでは、データが重いだけでなく、PDFに表示されているテキストのコピペもできない。本件の担当者がよほどITに無知なのか、悪意を持ってPDFを作成したとしか思えないほどだ。
第1フェーズから(15年7月から)第4フェーズまで(18年4月30日まで)2年10か月の間に寄せられた意見16,976 件の内訳(表形式のデータ)を可視化したのが次図。可視化することによって気づくのは、フェーズ3以降、意見が半減していることだ。
なぜフェーズ3以降、意見が半減してしまったのか?
原因として考えられるのは、1日当たりの来場者数が増加傾向にあったのに、開催延べ日数が減ったことだ(次図)。国交省は羽田新ルート問題を多くの人に知ってもらいたくないのではないのかと思ってしまう。
1.7万件の意見を集計。内容別(中分類)1位は…
次に、これまでに寄せられた意見16,976件を整理・分析する。
公表されている資料には、寄せられた意見をもとに分類したカテゴリーが2頁にわたって表形式で掲載されている(次表)。
寄せられた意見は、516ページを費やして掲載されている(次図)。
寄せられた意見は、フェーズ1からフェーズ4の件数を合計すると全部で16,976件。ただ、文言が同一の意見については、代表する一つのみを表示し、特定の個人や企業等に関する情報、著作物の抵触が懸念される情報は、削除されているという。
寄せられた意見16,976件は、小分類(77件)ごとに整理はされている。でも、せっかく収集した貴重な意見なのに、516ページも費やして並べただけなんて、国交省の本件担当者以外に読む人はいるのだろうか(しかも、一般の人はこの資料にたどり着くことさえ困難なうえに、データが重すぎて簡単に開けないのだ)。
国交省が作成したカテゴリー表(上述)に基づき、516ページにわたって掲載されている意見数を中分類単位で集計した結果を次表に示す。
「その他」を除いて1千件を超えたのは次の5件。「提案方策に関わる心配、懸念」が約2,500件で圧倒的に多いことが分かった。
- 1位:提案方策に関わる心配、懸念(約2,500件)
- 2位:情報提供(約1,800件)
- 3位:コミュニケーション方法(約1,500件)
- 4位:羽田空港国際線増便の必要性(約1,400件)
- 5位:環境上の方策、その他の周辺対策に関すること(約1,100件)。
※同じ意見が複数の項目に分類されている場合がある。したがって、上表の数字の合計は実際に寄せられた意見数の合計よりも多くなる。
「意見要旨」ランキングから見えること
516ページにわたって掲載されている意見は、同じ趣旨の意見ごとに並べられていて、その見出しとして「意見要旨」が付けられている(次図)。
この「意見要旨」345件に紐づいている意見の件数の傾向を調べるために、横軸を「意見要旨」ランキング、縦軸に件数で描いたのが次図。
「意見要旨」に100件以上の意見が紐づいているのは、上位29位まで。30位以下になると途端に紐づいている意見が少なくなっていることが分かる。このことから、寄せられた1.7万件の意見は、30件程度の「意見要旨」に集約できると言えるのではないか。
100件超の意見が紐づいた「意見要旨」のランキング29(後述)から、次の傾向が読み取れる。
- 1位の「その他」を除けば、事故によるリスクを心配する声が最も多い(2位437件)。そのほかにも騒音(4位307件)や落下物被害(5位288件)など、羽田新ルートの運用を心配する意見が5位以内に入っている。不動産価値(11位188件)は11位。
- 「地域別の詳細情報(3位402件)」や「もっと多くの人に周知すべき(9位217件)」、「教室型の説明会も開催してほしい(10位200件)」といった、国交省の情報公開に後ろ向きな姿勢を問う意見も10位以内に入っている。
- 11位以下を見ても、「試験飛行(13位163件)・(18位131件)」の実施を望む意見や「住民の意見をしっかりと聞き、反映してほしい(19位130件)」、「説明会の周知を図る工夫が必要(19位130件)」など国交省への批判の声が多い。
なかには「説明会や意見収集等は、アリバイ作りではないのか(22位123件)」という意見まである。 - 羽田新ルートの推進に好意的な意見は「羽田空港の機能を強化し、国際線を増便することに期待する(24位111件)」だけである。
「意見要旨」ランキング29は次のとおりである。
- 1位:その他(質問や問い合わせ)(734)
- 2位:新飛行経路は人の多い街中や住宅地を低空で飛行するので、事故によるリスクが高いのではないか(437)
- 3位:音や経路、高度などについて、現在示されているものよりももっと細かい地域別の詳細情報があると良い(402)
- 4位:騒音が気になる(307)
- 5位:飛行機からの落下物により被害が生じないか心配だ(288)
- 6位:騒音や安全性を考えれば、海や川の上など、できる限り住宅地や公共施設を避けた飛行経路とすべき(229)
- 7位:提案された飛行経路には反対だ(222)
- 8位:羽田空港のみに集中させず、周辺の地方空港を活用してほしい(219)
- 9位:今回の提案案について、もっと多くの人に周知すべきである(217)
- 10位:住民間で意見共有がしにくい。集合型、教室型の説明会も開催してほしい(200)
- 11位:住環境が悪化することで不動産の価値が下がったり、入居者が減少することを懸念している(188)
- 12位:その他(174)
- 13位:ヘッドホンだけでは実感がわかない。実際の音を聞いてみたいので試験飛行(テスト飛行)をしてほしい(163)
- 14位:住民の生活よりも経済を優先させる計画には納得がいかない(160)
- 15位:羽田空港の機能を強化しなくても、更なる増便やアクセス改善等により成田空港をもっと活用すれば十分ではないか(147)
- 16位:天候や風向きによる運用割合、時間帯、飛行回教などの詳細な情報がほしい(146)
- 17位:騒音への対策をしっかりしてほしい(142)
- 18位:実際に体験しないと影響がわからないので、試験飛行(テスト飛行)を実施した上で意見を聞いてほしい(131)
- 19位:住民の意見をしっかりと聞き、反映してほしい(130)
- 19位:インターネットや広報紙、メディアの活用など、様々な手段を使い、説明会の周知を図る工夫が必要ではないか(130)
- 21位:住宅地やオフィス街を飛行するので、騒音影響が心配だ(127)
- 22位:説明会や意見収集等は、アリバイ作りではないのか(123)
- 23位:深夜・早朝時をはじめ、羽田空港のアクセス充実に取り組んでほしい(122)
- 24位:羽田空港の機能を強化し、国際線を増便することに期待する(111)
- 24位:新飛行経路毎の開始時期はいつか(111)
- 26位:提案は既に決定した事項か。経路の変更はあり得るのか(110)
- 27位:落下物対策をしっかり行ってほしい(106)
- 28位:住民にとってわかりやすい情報提供を心がけてほしい(104)
- 28位:騒音や安全対策などの説明を更に充実してほしい(104)
まとめ
国交省は1.7万件もの意見を集めたのだが、内容別の件数の集計を行っていないという(衆院質問主意書)。国交省の担当者に代わって分析して見えてきたのは、羽田新ルートの運用を心配・懸念する声や国交省の情報公開に後ろ向きな姿勢を問う意見が多いことだ。
- 寄せられた意見16,976件を中分類(17項目)単位で整理すると、1千件を超えたの5件。1位「提案方策に関わる心配、懸念」が約2,500件で圧倒的に多い。
- 寄せられた意見16,976件を「意見要旨」(345件)単位で整理すると
― 羽田新ルートの運用を心配する意見が5位以内
― 国交省の情報公開に後ろ向きな姿勢を問う意見は10位以内
― 11位から29位には、国交省への批判の声が多い
― 羽田新ルートの推進に好意的な意見は24位「羽田空港の機能を強化し、国際線を増便することに期待する」だけである
※本集計には慎重を期しているが、集計の精度について保証するものではない。これらの情報を利用することによって生ずるいかなる損害に対しても一切責任を負うものではない。念のため。
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⇒「羽田新ルート|国交省に寄せられた意見をテキストマイニングしてみた」
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