コーポラティブハウスのプロデュースを手掛けている(株)アーキネットの代表取締役・織山和久氏の著書『自滅する大都市』ユウブックス(2021/1/26)を読了。
都市問題を40のQA形式で、事実に照らし合わせながら分析されている。
※朱書きは、私のメモ。
都市集積の利益は誰の手に
都市集積の利益は、農地解放で広大な土地を得た都市部の大地主にあるという、定量評価。
21.都市集積の利益は誰の手に?(前略)都市集積の経済を求めて人や企業は集まりますが、住宅やオフィスの需要が高まり、結局、都市集積の経済は土地代の上昇にすべて吸収されてしまいます。こうして、先々代が上京して居を構えた、農地解放のときに広大な土地を得た、といった都市部のもともとの大地主が莫大な資産差益を手にしました。
都区部の宅地で見ると、わずか1,175人の1万m2以上の土地を所有する個人・法人が宅地全体面積の10%を、つまり23区の地価平均が171万円/m2程度なので1人当たり平均で約422億円分の資産を所有することになります。そして1,000m2以上の土地所有者は、3万2,881人。彼らが宅地全体面積の36%、1人当たり平均で約53億円の資産を所有しています。このようにたまたま先に東京に土地をもてたかどうかによって著しい資産格差が生じています。(以下略)
(P123-124/第2章 都市が壊れる)
※江戸川区長を巻き込んだ生産緑地の偽装問題というのがあった。
生産緑地に指定されながら耕作放棄された地区を江戸川区が看過。同地区の所有者が小岩地域では有名な大地主で多田正見区長の支援者であったことが当時の新聞に取り上げられている。
詳しくは、「懲りない江戸川区の生産緑地!?」参照。
江戸は緑化都市だった
1830年の江戸の緑化率は42.9%と推定されているという。
27.江戸は緑化都市だった?
1830年の江戸の緑化率は42.9%と推定されています。シンガポールを遥かに先取りした緑化都市でした。
これは市中の寺社地、大規模武家地、小規模武家地の緑被率がそれぞれ70%、50%、30%と高く、それぞれが市中の面積のうち16%、36%、24%と大勢を占めていたためです。園芸は社会階層を超えて愛好され、町人地でもささやかな空間にキク、オモト、マツバラン、アサガオをはじめさまざまな園芸種が栽培・鑑賞されていました。(以下略)
(P153/第3章 江戸の都市に学ぶ)
※東京都が5年ごとに実施している「みどり率」の調査の最新データ(2018年)によれば、23区の「みどり率」は24.2%。江戸時代の水準には遠く及ばない。
みどり率とは、緑が地表を覆う部分に公園区域・水面を加えた面積が、地域全体に占める割合のこと。
詳しくは、「平成30年「みどり率」の調査結果について」(東京都環境19年9月24日)
国の果たすべき役割
中央政府の役割は、独占や外部不経済を抑えて公共財を充実させるように、公正で効率的な制度設計とその運用に絞られるという。
40.国の果たすべき役割はどうなるのか?
(前略)国益や公共性云々を名目に、軍事産業や建設・土木など特定の業界や業種に肩入れしてルールを変更し、あるいは保護・支援するものではありません。公共事業や政府系機関も同じルールに従います。
たとえば実質官営の産業革新機構が特定企業を支援するのは明らかに政府の役割を逸脱しています。
都市再生を名目に都心の容積率を緩和するのは、特定不動産会社に利益供与することになり、著しく公平性に欠きます。
(中略)
地域主権の考え方を推し進めると、中央政府の役割は、独占や外部不経済を抑えて公共財を充実させるように、公正で効率的な制度設計とその運用に絞られます。結果として、社会全体が格段に豊かになると思われます。反面、中央政府が経済をコントロールできるという幻想は捨てるべきでしょう。財政政策は将来の増税を予測して人びとが消費を手控える、金融政策も物価変動で相殺されることとなり、詰まるところ利権漁りの口実になっています。
(P234-237/第4章 未来の都市を探る)
※大前研一氏は、容積率を緩和して「土地ボーナス」を開放する政策を提言している。日本に残された成長余力は、「土地ボーナス」しかないことを理解し、その開放に全力を尽くすべきだという。
詳しくは、「日本に残された成長余力は、「土地ボーナス」しかない」参照。
本書の構成
4章構成。全255頁。
- 第1章 いまの都市のかたち
- 第2章 都市が壊れる
- 第3章 江戸の都市に学ぶ
- 第4章 未来の都市を探る
『自滅する大都市』
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