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『感染列島強靱化論』晶文社

感染列島強靱化論』 晶文社(2020/12/3) を読了。

環境医学を専門とする高野裕久京大大学院教授とテレビでよく見かける公共政策論を専門とする藤井聡京大大学院教授の共著。

これからの時代は土建ベースの国土強靭化だけでなく、公衆衛生にも軸足をおいた戦略が求められるのだということが理解できる。

朱書きは、私のメモ。


もくじ

感染と大災害という複合災害に対峙するために

「衛生」の視点からの強靭化論は、分散型国土形成論というマクロなスケールから国民一人ひとりの免疫力というミクロなものに至るまで、様々なスケールで論ずべきだという。

感染と大災害という複合災害に対峙するために

(前略)これまで巨大災害のための国土強靭化についての議論は様々に展開してきたが、「感染対策」の視点での強靭化論は十分に展開してはこなかった。しかしこの度の感染拡大を通して明らかになったのは、感染拡大に対する強靭化は巨大地震や大洪水対策のために検討してきた強靭化対策と大きく重なる部分も多いという事実であった。

なんと言っても、感染は東京を中心とした大都市において徹底的に拡大した一方で、地方部ではその拡大は極めて限定的だったからだ。したがって、首都直下地震や荒川決壊といった巨大災害に対して最も効果的な東京一極集中緩和こそ、日本列島を感染症に対して強靭化する殼も枢要な対策の一つであることが明らかになったのである。

ただし、こうした「衛生」の視点からの強靭化論は、最もマクロなスケールにおける分散型国土形成論だけでなく、都市や地域のレベルで論ずべきもの、そして、医療システムについてのもの、さらには、国民一人ひとりの免疫力についてのミクロなものに至るまで、様々なスケールで論ずべきものである。

(P28-29/第1章 「感染列島に大災害」は十中八九起こる)

※東京への一極集中を緩和すべく、道州制が導入されれば、災害で大きなダメージを受けなかった地域が受けた地域を助けることができるようになる。2012年12月の衆議院選挙(自民が圧勝し政権を奪還したときの選挙)で、みんなの党がアジェンダとして道州制に言及していたのだが……。

コロナの恐怖を煽り続けたマスメディアの商業主義

コロナーヒステリーが生じた第一の理由として、コロナの恐怖を煽り続けたマスメディアの商業主義が挙げられている。

「コロナーヒステリー」が生じた社会的背景の改善こそ、強靭化の要諦である

ところで、「韓国や台湾は死者数か最小化されていたが故に、過剰自粛を避けられた、日本も同水準の死者数であったにもかかわらず、過剰自粛が行われた」ことが、経済に大きな打撃を与えたという指摘をしたが、こうした「愚かしい」事態が生じてしまったのは、偏にコロナについて適切な認識を社会全体が共有できなくなってしまい、コロナの危険性についてヒステリックに社会全体が反応する状況かできあがってしまったからである。

いわば、コロナーヒステリーがコロナ禍を導いた本質的原因なのである。
(中略)
では、激甚な経済被害をもたらしたこうしたインフォデミックによるコロナーヒステリーが生じたのは一体なぜなのかを考えれば、その背後には、以下に述べる様々な要因が浮かび上がる。

第一の理由は、マスメディアの商業主義だ。恐怖を煽れば視聴率が上かる、という極めてシンプルな理由でTVはコロナの恐怖を煽り続けたのである。

諸外国と日本の死者数の推移の相違や、年齢別の死亡率の相違など、本書で紹介した基礎的なデータを正確に繰り返し提供していれば空気が変わっていった可能性も考えられるが、そうした事実の正確性よりもセンセーンヨナリズムが優先されてしまったのである。(以下略)

(P203-204/第6章 「感染症対策」を強靱化する)

※「ワクチン接種した60代女性死亡 因果関係は不明」という見出しで報じるテレビニュースが「マスメディアの商業主義」(テレ朝 3月2日)の典型的な例ではないか。死因はくも膜下出血であるとされている。60代の女性には少なからず起こる事例であるのだから、報じるのならばせめて見出しに「膜下出血」を加えるべきだろう。

日本は「避難所後進国」

日本は「避難所後進国」として、世界的にも有名になってしまっているという指摘。

我が国の被災者環境を、少なくとも国際標準程度まで引き上げる

(前略)折しも我が国は不名誉な「避難所後進国」として、世界的にも有名になってしまっている。

そもそも国際的には、災害時や難民などに対応する国際赤十字の基準(スフィア基準)がある。これは、災害や紛争時の避難所について国際赤十字が提唱するもので、貧困地域や紛争地域にも適用される最低基準である。

正式な題名は「人道憲章と人道支援における最低基準」であり、避難者はどう扱われるべきであるかを個人の尊厳と人権保障の観点から示している。その概要は以下のものだ。

  • 1人あたり3.5平方メートルの広さを確保する
  • 世帯ごとに十分に覆いのある独立した生活空間を確保する
  • 最適な温度、換気と保護を提供する
  • トイレは20人に一つ以上。男女別で使えること。女性のトイレは男性の3倍以上必要

これは文字通りの「最低基準」であり、先進国では、これよりも遥かに良質な空間が被災者達に提供されている。(以下略)

(P216-217/第7章 「国土システム」を強靱化する)

※内閣府(防災担当)は、16年4月に策定した『避難所運営ガイドライン』(PDF:1.5MB)の中で参考にすべき国際基準としてスフィア基準を紹介している。

丸山穂高 衆議院議員(N国党)は「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応に関する質問主意書」(20年5月)のなかで同ガイドラインを踏まえ、「1人当たりの利用面積や通路の幅等の具体的基準を示すことを検討しているのか」と政府に迫るが、政府は「避難者が十分なスペースを確保できるよう留意するよう」文書を発出するにとどまっている。

詳しくは、「質問主意書(避難所における新型コロナ対応)」参照。

本書の構成

8章構成。全246頁。

  • 第1章 「感染列島に大災害」は十中八九起こる
  • 第2章 「自粛」でなく「ファクターX」が日本を守った
  • 第3章 人体の「免疫システム」を強靱化する
  • 第4章 「医療システム」を強靱化する
  • 第5章 「感染症対策」を強靱化する―「社会免疫」の理論
  • 第6章 「感染症対策」を強靱化する―三つの強靱化戦略
  • 第7章 「国土システム」を強靱化する
  • 第8章 「財政思想」を強靱化する―衛生列島強靱化論とMMT

感染列島強靱化論

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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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