不動産事業プロデューサー牧野知弘氏の新著『家が買えない:高額化する住まい 商品化する暮らし』ハヤカワ新書(2024/12/18)を読了。
庶民の手から離れて進む不動産市場の狂乱に警鐘を鳴らしている。マンションを買い急ごうとしている庶民は、年末年始の時間のある時にでもご一読を。
※朱書きは、私のメモ。
今後は住宅ローン地獄に陥る危険性も
金利上昇は不動産に対する購入・投資意欲を減退させ、不動産価格の低下を招くため、オーバーローンに陥りやすくなるなど、破綻する比率が上昇していくという著者の懸念著者。
今後は住宅ローン地獄に陥る危険性も
(前略)実際にどのくらいの人がローン破綻しているのか。フラット35などを提供している住宅金融支援機構の調査によれば、ローン債権のうち、返済が厳しくリスク管理債権の扱いを受けている割合は2022年度で3.05%である。不動産価格が低迷していた2012年度の7.47%と比較して低い水準にはあるが、今後の金利動向によってはこの値が急増するリスクを内包している。
特に近年は変動金利で住宅ローンを組む割合が高い(変動金利72.3%、固定期間選択18.3%、全期間固定9.3%/住宅金融支援機構調査2023年4月より)ことから、金利変動リスクにさらされる人が急増する可能性がある。総返済額が上昇することでローン返済に困窮することはもとより、金利上昇は不動産に対する購入・投資意欲を減退させ、不動産価格の低下を招くため、オーバーローンに陥りやすくなるなど、破綻する比率が上昇していくことが懸念される。(以下略)
(P63-64/第2章 誰が買っているのか)
※住宅金融支援機構の調査によれば、破綻先債権比率(住宅ローン破綻率:下図のピンク色)は、14年度以降0.3%で推移していたが、21年度以降上昇し、23年度は0.7%。つまり千人に7人の割合で住宅ローン破綻しているのである。
晴海フラッグに見られる「暮らし」を軽視した狂奔
賃貸に出している部屋になかなか客がつかないとのぼやきが出ているという。
晴海フラッグに見られる「暮らし」を軽視した狂奔
(前略)だが、晴海フラッグの今後はどうだろうか。たしかに都心ではなかなか見かけない広さの住宅を坪300万円で手に入れ、ずっと住み続けられるのならば悪くないかもしれない。とはいえ、さすがに坪555万円、27坪で1億5000万円の中古住宅が続々サイトに出てくる状況にいたると、これについてくる需要がどれほど見込めるのかは疑問だ。
また、しょせんは投資用物件だと言っても、マネーゲームはいつまでも続かない。購入価格が坪300万円であれば、賃貸料から考えて利回りは6%程度になるが、550万円ともなると利回りは3.27%にまで落ち込む。管理費や修繕積立金の負担を含めれば利回りはさらに下がる。借り手にとっても月額30万円も40万円も出すなら、都内の四谷や小石川あたりの物件だって十分借りることができるので、話題が去れば冷静になってくる。現にすでに、賃貸に出している部屋になかなか客がつかないとのぼやきが出ているという。(以下略)
(P109-110/第3章 一般国民を相手にしないデベロッパー)
※晴海フラッグ PORT VILLAGE(賃貸街区)の総戸数は1,258戸。24年8月頃から、それまで募集戸数が少なかったA棟(総戸数384戸)募集住戸が増加傾向にある(次図)。
分譲棟(SUN VILLAGE、PARK VILLAGE、SEA VILLAGE)での賃貸収入を期待している投資家の目論見に影響する可能性がある。
「晴海フラッグ PORT VILLAGE(賃貸街区)募集状況の推移」より
本書の構成
3部・9章構成。全198頁。
- 第1部 買えなくなる家 増え続ける空き家
- 第1章 価格高騰の裏で進む街の2極化現象
- 第2章 金融商品化する都心マンション
- 第3章 負動産化する郊外住宅
- 第2部 移りゆく日本人の「マイホーム」事情
- 第4章「通動距離」という住宅選びの価値尺度
- 第5章 オールドタウン化するニュータウン
- 第6章 一代限りで終わるマイホームの宿命
- 第3部 住まいと街づくりに「地域価値」の発想を
- 第7章 不動産業者による都市開発のリアル
- 第8章 ジェネリック都市に陥らない街づくり
- 第9章 あなたが住むべき街に相場はない
⇒Amazon『家が買えない:高額化する住まい 商品化する暮らし』
あわせて読みたい(本の紹介)