元朝日新聞経済部記者、フリーの経済ジャーナリスト山下努氏の新著『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』東洋経済新報社(2024/5/29) を読了。
「買ってはいけないエリア」とか「サンドイッチ売買」など、興味深い内容が多数。元新聞記者が書いた本なのでとても読みやすい。
※朱書きは、私のメモ。
「サンドイッチ売買」
「住宅取得→売却→賃貸居住→住宅取得」という賃貸を挾んだ「サンドイッチ売買」の提案。
すべての問題を解決する「サンドイッチ売買」の秘密
時限立法、景気対策、自民党税制調査会、政府税制調査会などの動きを見れば、住宅関連の税制はくるくる変わる。
とはいえ、住宅ローン減税の期間は10年が基本で、大規模修繕は築15年が基本だ。
だから、10年から15年で売らなければならない。
住宅(マンション)は10~15年で買い換え、人生で2~3回買うのがいい。
できれば安値期に購入し、高値期に売り、売却益を確定したうえで賃貸に住む。
相場が下がったところで再取得する。
こうしたサイクルを2度、3度繰り返すのだ。
「それは面倒」と感じる人もいるだろうが、とりあえず、5~10年後は売り時でない場合も考慮しつつ、そうした「10年住み替えプラン」にだけは乗ってほしい。これまでは、最大の家族数を想定して家を買ってしまう人が多かった。
いまのようなマンション1億円時代なら、それは危険行為。子育て期(家族の多い時期)の10~20年は、できれば賃貸住宅の生活でクリアしよう。
「住宅取得→売却→賃貸居住→住宅取得」という賃貸を挾んだ住宅取得戦略を「サンドイッチ売買」と名づけた。(以下略)
(P42-43/序章 「マンション1億円時代」の最新事情10話)
※「サンドイッチ売買」は、大規模修繕工事が始まる前に売り逃げるというのが基本戦略。個人にとっては最適解かもしれないが、社会全体としては最適解にはなり得ない。
「横浜は売りで川崎が買い」はすでに常識
自治体の中で最も空き家が多い世田谷がおススメでないことはよく知られるようになってきたが、横浜が機能不全自治体であることはあまり知られていないかも。
「横浜は売りで川崎が買い」はすでに常識
同様に、コロナ後の東京都心再集中の時代では、「横浜って素敵」という素人判断も大間違いである。
「おしやれ」「港」「都会的」などのイメージで横浜を選んでしまう間違いは、10年かけても訂正があまり進んでいない。
住宅購入期の30~40代が、真似をしてはいけない親世代の住宅観をなかなか修正できず、損失を出し続けていることも意味している。
横浜市の人口規模は、静岡県、四国4県、モンゴルと比べても、3者のそれぞれの人口より多い370万人超を誇るが、2年連続で人口が減り、2024年も人口減は食い止められないだろう。
横浜市は、みなとみらい(MM)を有する西区と中区の一部にだけ集中的に開発資金が投下され、立派な街のように見えるが、多くの地域は空き家を抱える住宅エリアだ。横浜市は日本最大の自治体である点、つまり図体が大きすぎることから機能不全となっている。(以下略)
(P74-75/第2章 買ってはいけないエリア、狙い目エリアを見極める)
※「おしやれ」「港」「都会的」などのイメージで横浜を選んでしまう間違いは、10年かけても訂正があまり進んでいないという。
このことを証明するかのように、川崎市だけでなく、横浜の中古マンションの成約単価も12か月連続で上昇している(東日本不動産流通機構 月例マーケットウオッチ・サマリーレポート、24年6月度)。
デジタルとリアルを結ぶ不動産ベンチャー
米国では、過去のすべての物件の取引のデータが無料で公開されている。
デジタルとリアルを結ぶ不動産ベンチャー
米国で不動産を賃貸・売買した日本人が驚くのは、その物件に関する圧倒的なデータ量、情報量の多さだ。
ここが日本の状況とは大きく違うメリットだ。
電話や店舗、紙で掲示する物件案内といったアナログ的な不動産業務は、20年前の米国でも少なくなかった。
しかし、現在ではITやAIなど、米国が得意なテクノロジーを使ってきちんと合理的に、理論に基づいて分析し、来店しなくても瞬時に顧客に届ける仕組みが整っている。
米国では、過去のすべての物件の取引のデータが無料で公開されている。
米国は「不動産業者のほうが圧倒的に情報を握っている」という不動産業界特有の非効率で遅れた部分を解消することに世界に先駆けて大成功した。
「ジロー(Zillow)」に代表される不動産ベンチャー企業が、デジタルとリアルを結びつけて急成長を遂げたのがこの20年の不動産業界史だった。
(P165-166/第5章 ますます進化を遂げる米国の不動産テック)
※日本では24年4月1日より、「不動産情報ライブラリ」の運用が始まった。これにより不動産の取引価格、地価公示等の価格情報や防災情報、都市計画情報、周辺施設情報等、不動産に関する情報が無料で閲覧できるようになった。
でも、特定の物件の売買履歴は掲載されていない。現在、業者しか閲覧できないレインズのデータの一般公開が待たれるが、業界圧力が強く、実現する可能性は低そうだ。
本書の構成
10章構成。全301頁。
- 序章 「マンション1億円時代」の最新事情10話
- 第1章 東京のマンションはなぜ平均1億円まで上がったのか
- 第2章 買ってはいけないエリア、狙い目エリアを見極める
- 第3章 20代・30代のための不動産の「サンドイッチ売買」
- 第4章 「1億円のマンション」を生み出した真犯人は日銀だった
- 第5章 ますます進化を遂げる米国の不動産テック
- 第6章 韓国はどうなる? 迷走する「不動産の行方」と前政権も窮地に追い込んだ「ソウルバブル」
- 第7章 中国はどうなる? 日本の「失われた30年」とソックリだ
- 第8章 日本は「空き家天国」か、それとも「空き家地獄」になるのか
- 第9章 公有地を巻き込んだ再開発で「得するマンション」が誕生
- 第10章 大手デベロッパーを中心に回っている都心の不動産
- 特別付録 これから家を買うサラリーマンのための資産防衛術8ヵ条
Amazon⇒『2030年不動産の未来と最高の選び方・買い方を全部1冊にまとめてみた』
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