マンションの修繕積立金が安いことは必ずしもウェルカムではない。
時間が経つにつれて管理組合の財政が苦しくなってくると、値上げの必要性に迫られることになるが、合意形成は困難を極めるからだ。
均等積立方式の採用を努力義務化(所沢市)
不動産会社は修繕積立金を抑えて新築マンションを販売するものだから、時間が経つにつれて管理組合の財政が苦しくなってくる。修繕積立金を値上しようにも、組合員の合意がなかなか得られずに苦労する。
国交省はこのような不動産会社の”販促ワザ”に手を突っ込むことはしていないが、所沢市のように、条例で修繕積立金について均等積立方式を採用するよう努力義務を課している自治体もある(所沢市マンション管理適正化推進条例 21年12月制定)。
(マンション分譲事業者の責務)
- 第9条 マンション分譲事業者は、新築のマンションを分譲しようとするときは、管理規約等、長期修繕計画並びに管理費及び修繕積立金としてマンションの区分所有者等が拠出すべき額の案を適切に定め、あらかじめ、買主に対し、当該案の内容を提示して十分に説明するとともに、十分に理解を得るよう努めなければならない。
- 2 前項の修繕積立金としてマンションの区分所有者等が拠出すべき額の案は、当初月額を著しく低く設定することにより後に月額が大幅に増額されることを防ぐため、同項の長期修繕計画の案の計画期間内において、均等にするよう努めなければならない。
修繕積立金、値上げの実態:平均約3.58倍!
修繕積立金は、どの程度値上げされているのか?
じつは国交省住宅局が事務局となっている「今後のマンション政策のあり方に関する検討会」が23年8月10日に公表した「今後のマンション政策のあり方に関する検討会 とりまとめ」の「参考資料」にその答えが掲載されている。
全202頁のうち42頁の「段階増額積立方式の増額幅」249事例の分析結果を見てほしい(次図)。
長期修繕計画の計画当初から最終計画年までの増額幅の平均は約3.58倍、上位1/6の事例(42件)の平均は約5.30倍にもなっている。
※上図データは、マンション管理センターが認定した予備認定マンション286件(2022年9月末時点)のうち「段階増額積立方式」249件の長期修繕計画を基に国交省が作成
修繕積立金の値上げの困難性、総会対応
修繕積立金の値上げ幅が平均で約3.58倍。専有面積70m2に換算すると月額7,210円が25,830円に値上げされるということになる。18,620円の増額。庶民にとって厳しい額ではないか。
約3.6倍もの値上げは、管理組合総会での合意が難しそうだが、実際のところはどうなのか?
じつは、値上げを総会の議案とした2,531議案の81%に質問の嵐が降り注いでいるのだ。
「今後のマンション政策のあり方に関する検討会 とりまとめ」の「参考資料」P30
上記資料は、マンションみらい価値研究所(大和ライフネクストによって2019年10月に設立された、マンション管理会社初の総合研究所)が22年7月14日に発表した調査レポート「管理組合は修繕積立金を値上げできるか」が元となっている。
同レポートをひも解くと、「ネガティブな質疑の6類型」が整理されている(次図)。
※15年8月から21年7月までの6年間に積立金の値上げを総会の議案とした1,694組合3,316議案のうち、無作為に1,086組合(調査率64%)2,531議案(調査率76%)を抽出し、何らかの質疑応答がある議案2,048件(81%)を元に類型化されている。
「代替案提案型」「管理会社批判型」「理事会批判型」については、具体的な対応策が示されている。
たとえば、代替案提案型への対応は次の通り。
代替案提案型への対応
- 提案された代替え案を採用できるのか、できないのかに対して「調査してからご回答します。」といった回答の場合、提案がどんどん拡大していく可能性がある。代替案が出た場合に「その案はすでに検討し廃案としています。」「その案は実現可能性が極めて低いと思われます。」などの回答ができるようにする必要がある。
- 過去に理事会にて検討した工事や過去の修繕履歴などは事前に用意しておくとよいだろう。
値上げの困難性に立ち向かう理事会にとって、同レポートを読んでおいて損はないだろう。
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